難民認定申請における虚偽の不提訴証明とフォーラム・ショッピングの重大な影響
G.R. No. 261610, August 09, 2023
難民認定申請は、自国での迫害を恐れる人々にとって重要な保護手段です。しかし、申請手続きにおける虚偽の申告や不適切な訴訟戦略は、申請の却下につながるだけでなく、司法制度全体の信頼を損なう可能性があります。本判例は、虚偽の不提訴証明とフォーラム・ショッピングが難民認定申請に及ぼす影響について、重要な教訓を示しています。
法的背景:難民認定と不提訴証明の要件
フィリピンにおける難民認定は、1951年の難民の地位に関する条約(1951年条約)および1967年の難民の地位に関する議定書(1967年議定書)に基づき、法務省(DOJ)通達第058号(DOJ通達第058号)によって実施されています。難民と認定されるためには、申請者は以下の要件を満たす必要があります。
- 国籍国の外にいること
- 迫害の存在
- 迫害の恐れが十分に根拠があること
- 迫害の理由が、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見であること
- 迫害の恐れのために、自国からの保護を受けられない、または帰国を望まないこと
DOJ通達第058号第7条は、難民認定申請の受理後、申請者に対する国外追放手続きを一時停止することを規定しています。
不提訴証明は、訴訟手続きにおいて、当事者が同一の争点に関して他の裁判所、法廷、または準司法機関に訴訟を提起していないことを宣誓するものです。これは、フォーラム・ショッピング(複数の裁判所に同様の訴訟を提起すること)を防止するために設けられています。フィリピン民事訴訟規則第7条第5項は、不提訴証明の要件を定めており、虚偽の証明または不履行は、訴訟の却下理由となることを明記しています。
民事訴訟規則第7条第5項:
「原告または主要当事者は、救済を求める訴状またはその他の開始訴状において、または添付された宣誓証明書において、宣誓の下に証明するものとする。(a)彼が以前に、いかなる裁判所、法廷、または準司法機関においても、同一の争点を含む訴訟を開始または請求を提起したことがなく、彼の知る限り、そのような他の訴訟または請求が係属していないこと。(b)そのような他の係属中の訴訟または請求がある場合、現在の状況の完全な記述。(c)彼がその後、同一または類似の訴訟または請求が提起されたか、または係属中であることを知った場合、彼は彼の前述の訴状または開始訴状が提起された裁判所に、その事実を5日以内に報告するものとする。
上記の要件の不履行は、訴状またはその他の開始訴状の単なる修正によって治癒されるものではなく、申し立てがあり、聴聞の後、別途規定がない限り、訴訟の却下理由となるものとする。虚偽の証明の提出またはその中のいかなる約束の不履行も、裁判所の間接侮辱を構成するものとし、対応する行政上および刑事上の訴訟を損なうものではない。当事者またはその弁護士の行為が明らかに意図的かつ故意のフォーラム・ショッピングを構成する場合、それは有罪判決を伴う即時却下の理由となり、直接侮辱を構成するものとし、行政制裁の原因ともなるものとする。」
本件の経緯:難民認定申請、国外追放手続き、そして訴訟の連鎖
本件は、チェコ共和国市民であるヤロスラフ・ドベス、バルボラ・プラスコバ、およびボノ・ルカス・プラセク(未成年)が、宗教的迫害の恐れを理由にフィリピンで難民認定を申請したことに端を発します。
- ドベスとプラスコバは、チェコ共和国で複数の強姦罪で刑事告発されていました。
- チェコ共和国大使館は、ドベスとプラスコバが逃亡者であり、ドベスの渡航文書が無効であるとフィリピン入国管理局(BI)に通知しました。
- BIは、ドベスとプラスコバを不法滞在者として国外追放手続きを開始しました。
- ドベスとプラスコバは、難民認定を申請し、国外追放手続きは一時停止されました。
- 法務省(DOJ)は、ドベスとプラスコバの難民認定申請を却下しました。
- ドベスとプラスコバは、大統領府(OP)に上訴しましたが、OPもDOJの決定を支持しました。
- ドベスとプラスコバは、控訴院(CA)に審査請求を提起しましたが、CAは、ドベスとプラスコバが過去に同様の訴訟を提起していたことを不提訴証明に記載しなかったため、審査請求を却下しました。
- ドベスとプラスコバは、最高裁判所(SC)に認証状を申請しました。
控訴院(CA)は、大統領府(OP)の決定に対する審査請求を却下しました。その理由は、申請者らが不提訴証明において、関連する訴訟(人身保護請求、認証状および禁止命令の請求、人身保護令状の請求)の存在を開示しなかったため、虚偽の不提訴証明を提出したと判断したからです。CAはさらに、申請者らがOPへの上訴中に人身保護請求および人身保護令状の請求を提起したことは、フォーラム・ショッピングに該当すると判断しました。
最高裁判所の判断:手続き規則の重要性とフォーラム・ショッピングの禁止
最高裁判所は、控訴院の決定を支持し、ドベスとプラスコバの認証状を却下しました。最高裁判所は、以下の点を指摘しました。
- ドベスとプラスコバは、認証状の申請において、必要な書類を添付せず、宣誓供述書の形式にも不備があった。
- ドベスとプラスコバは、控訴院の決定を覆すために、認証状ではなく、審査請求を提起すべきであった。
- ドベスとプラスコバは、過去に同様の訴訟を提起していたにもかかわらず、不提訴証明にそれを記載しなかったため、フォーラム・ショッピングを行った。
最高裁判所は、手続き規則は司法の運営において不可欠であり、当事者の都合に合わせて無視できる単なる技術的なものではないと強調しました。最高裁判所は、実質的な正義の名の下に手続き規則を免除することは、手続きを遵守しなかった当事者が不当に利益を得ることを許容することになると指摘しました。
さらに、最高裁判所は、ドベスとプラスコバがすでに最高裁判所にOPの決定を争っていたことを指摘し、本件は既判力の原則により却下されるべきであると判断しました。
「フォーラム・ショッピングは、同一の取引および同一の重要な事実と状況に実質的に基づき、他の裁判所によって係属中であるか、またはすでに不利に解決されている同一の問題を提起する、異なる裁判所で複数の司法救済を反復的に利用する場合に発生します。フォーラム・ショッピングは、裁判所を軽視し、その手続きを濫用する、禁止され非難される不正行為です。それは司法の運営を低下させ、すでに混雑している裁判所の事件記録を増加させます。」
実務上の影響:難民認定申請における教訓
本判例は、難民認定申請者にとって、以下の重要な教訓を示しています。
- 難民認定申請手続きを遵守し、必要な書類を正確かつ完全な形で提出すること。
- 不提訴証明を誠実に作成し、過去に提起したすべての関連訴訟を記載すること。
- フォーラム・ショッピングを避け、同一の争点に関して複数の訴訟を提起しないこと。
- 法的助言を求め、訴訟戦略を慎重に検討すること。
重要な教訓:
- 難民認定申請は、複雑な法的手続きであり、専門家の助けを借りることが不可欠です。
- 虚偽の申告や不適切な訴訟戦略は、申請の却下につながるだけでなく、将来の申請にも悪影響を及ぼす可能性があります。
- 手続き規則を遵守し、誠実な態度で訴訟に臨むことが、難民認定を得るための重要な要素です。
よくある質問(FAQ)
Q:難民認定申請が却下された場合、どのような選択肢がありますか?
A:難民認定申請が却下された場合、決定を不服として上訴することができます。また、状況によっては、人道的配慮に基づく滞在許可を申請することも可能です。
Q:不提訴証明に記載すべき訴訟の範囲は?
A:不提訴証明には、同一の争点または関連する争点を含むすべての訴訟を記載する必要があります。過去に提起した訴訟であっても、係属中の訴訟であっても、記載が必要です。
Q:フォーラム・ショッピングを行った場合、どのような結果になりますか?
A:フォーラム・ショッピングを行った場合、訴訟が却下されるだけでなく、裁判所からの侮辱罪で訴追される可能性もあります。
Q:難民認定申請を支援してくれる弁護士はいますか?
A:はい、難民認定申請を専門とする弁護士がいます。経験豊富な弁護士は、申請手続きを理解し、必要な書類を準備し、訴訟戦略を立てる上で貴重な助けとなります。
Q:難民認定の基準は?
A:難民認定の基準は、1951年の難民条約と1967年の議定書に定められています。これらの文書は、難民とは、人種、宗教、国籍、特定の社会集団の成員であること、または政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるために、自国に帰国することができない者、または帰国を望まない者と定義しています。
Q:難民認定申請にはどのくらいの時間がかかりますか?
A:難民認定申請にかかる時間は、ケースの複雑さや法務省の処理能力によって異なります。一般的に、数ヶ月から数年かかる場合があります。
Q:難民認定申請中に働くことはできますか?
A:難民認定申請中は、原則として働くことはできません。ただし、特定の条件を満たす場合、労働許可証を取得できる場合があります。
Q:難民認定された場合、どのような権利がありますか?
A:難民認定された場合、フィリピンに滞在し、働く権利、教育を受ける権利、医療を受ける権利などが与えられます。
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