VAT還付請求を成功させるには、請求書要件の厳格な遵守が不可欠
G.R. No. 181858, 2010年11月24日
導入
ビジネスを行う上で、税金の還付は重要な資金源となり得ます。特に付加価値税(VAT)の還付は、輸出企業やゼロ税率の売上を計上する企業にとって、キャッシュフローを改善する上で不可欠です。しかし、フィリピンの税法はVAT還付請求に関して厳格な要件を課しており、その一つが請求書の形式要件です。請求書に不備があると、せっかくの還付請求が否認される可能性があります。本稿では、ケプコ・フィリピン株式会社対内国歳入庁長官事件(G.R. No. 181858)を題材に、VAT還付請求における請求書要件の重要性と、企業が留意すべき点について解説します。
ケプコ・フィリピン株式会社は、国立電力公社(NPC)に電力を独占的に販売する独立系発電事業者です。2002年度において、ゼロ税率売上に関連するインプットVATの還付を請求しましたが、税務当局は請求書の一部に不備があるとして還付を一部否認しました。本件の争点は、請求書に「ゼロ税率」や「TIN-VAT」の表示がない場合、VAT還付請求は認められないのか、という点でした。
法的背景
フィリピンの1997年国内歳入法(NIRC)は、VAT制度を規定しており、VAT還付請求に関する基本的なルールも定めています。特に重要なのは、NIRC第113条と第237条、そしてこれらを具体化する歳入規則(RR)7-95です。
NIRC第113条は、VAT登録事業者が発行すべき請求書の種類と記載事項を規定しています。具体的には、物品の販売には「VAT請求書」、サービスの提供には「VAT領収書」の発行が義務付けられています。そして、VAT請求書またはVAT領収書には、以下の情報を記載する必要があります。
(1) 販売者がVAT登録事業者である旨の表示と納税者識別番号(TIN)
(2) 購入者が支払うべき総額(VATを含む旨の表示が必要、VAT額は別途記載)
(3) 取引日、数量、単価、物品またはサービスの内容
(4) 1,000ペソ以上のVAT登録事業者への販売の場合、購入者の氏名、屋号、住所、TIN
さらに、重要な点として、NIRC第113条(B)(2)(c)は、ゼロ税率の売上については、請求書または領収書に「ゼロ税率売上」という用語を明確に記載することを義務付けています。
RR 7-95第4.108-1項は、この請求書要件をさらに詳細に規定しています。特に、VAT登録事業者は請求書または領収書にTINと「VAT」という単語を印刷する必要があり、これが「VAT請求書」と見なされると明記しています。そして、「VAT請求書」以外の請求書に基づく購入は、インプットVATを生じさせないと規定しています。これは、請求書に「TIN-VAT」の表示がない場合、原則としてインプットVATの控除が認められないことを意味します。
これらの規定は、VAT制度の適正な運用と税収の確保を目的としています。請求書に必要事項が正確に記載されることで、税務当局は取引の透明性を確保し、不正なVAT還付請求を防止することができます。
ケースの概要
ケプコ社は、2002年度のゼロ税率売上に関連するインプットVATの還付を請求しましたが、内国歳入庁(CIR)は、請求されたインプットVATの一部が、VAT請求書と見なされない請求書によって裏付けられているとして、還付を一部否認しました。
税務控訴裁判所(CTA)の第二部では、ケプコ社の請求を一部認め、2,890,005.96ペソの還付を命じました。しかし、CTA第二部は、請求書に「TIN-VAT」の印刷がない場合、または「VAT請求書」ではない請求書によって裏付けられているインプットVATについては、還付を認めませんでした。CTA第二部は、次のように述べています。
「「VAT請求書」と見なされるためには、TIN-VATが印刷されている必要があり、単にスタンプされたものでは不十分である。したがって、TIN-VATが印刷されていない請求書または領収書によって裏付けられた購入は、インプットVATを生じさせない。同様に、「VAT請求書」と見なされない「NON-VAT」の請求書または領収書によって裏付けられた購入に基づくインプットVATは認められない。」
ケプコ社はこれを不服としてCTAエンバンクに上訴しましたが、CTAエンバンクは第二部の決定を支持し、ケプコ社の請求を棄却しました。CTAエンバンクは、ケプコ社がRR 7-95に基づく請求書要件を遵守する必要があると判断しました。
最高裁判所は、CTAエンバンクの決定を支持し、ケプコ社の上訴を棄却しました。最高裁判所は、パナソニックコミュニケーションズイメージングコーポレーション・オブ・ザ・フィリピンズ対内国歳入庁長官事件(G.R. No. 178090)などの判例を引用し、請求書に「ゼロ税率」と「TIN-VAT」の表示を要求することは、税法の趣旨に合致する合理的な規制であり、RR 7-95は税法を拡大解釈したものではないと判断しました。
最高裁判所は、次のように述べています。
「「ゼロ税率」という文言が請求書の表面に表示されることで、買い手がVATが実際に支払われていないにもかかわらず、購入からインプットVATを不正に請求することを防ぐことができる。そのような文言がない場合、インプットVATの請求が成功すれば、政府は徴収していないお金を還付することになるだろう。」
また、最高裁判所は、請求書と領収書はVAT法上区別されており、それぞれが異なる取引を裏付けるために使用されるべきであると指摘しました。ケプコ社は、物品の購入を領収書で、サービスの購入を請求書で裏付けようとしましたが、最高裁判所はこれを認めませんでした。
実務上の影響
本判決は、VAT還付請求を行う企業にとって、請求書要件の遵守がいかに重要であるかを改めて示しました。特に、ゼロ税率売上を計上する企業は、請求書に「ゼロ税率」という文言と「TIN-VAT」を必ず印刷する必要があります。また、物品の購入にはVAT請求書、サービスの購入にはVAT領収書を使用するなど、請求書と領収書の区別を明確にする必要があります。
請求書要件の不備は、VAT還付請求の否認につながるだけでなく、税務調査でペナルティを課される可能性もあります。企業は、請求書発行システムを見直し、従業員に対する研修を実施するなどして、請求書要件の遵守を徹底する必要があります。
重要な教訓
- VAT還付請求を成功させるには、請求書要件の厳格な遵守が不可欠である。
- ゼロ税率売上の場合、請求書に「ゼロ税率売上」という文言を明確に記載する必要がある。
- VAT登録事業者は、請求書または領収書に「TIN-VAT」を印刷する必要がある。
- 物品の購入にはVAT請求書、サービスの購入にはVAT領収書を使用するなど、請求書と領収書を適切に区別する必要がある。
- 請求書要件の遵守を徹底するために、請求書発行システムの見直しと従業員研修を実施することが重要である。
よくある質問(FAQ)
Q1. 請求書に「ゼロ税率売上」の記載を忘れてしまった場合、還付請求は絶対に認められないのでしょうか?
A1. 請求書要件の不備は原則として還付否認の理由となりますが、税務当局の判断によっては、他の証拠書類や状況を考慮して還付が認められる可能性もゼロではありません。しかし、リスクを避けるため、請求書要件は厳格に遵守すべきです。
Q2. スタンプで「TIN-VAT」を表示した請求書は有効ですか?
A2. 本判決では、印刷された「TIN-VAT」のみが有効とされています。スタンプは認められない可能性が高いです。
Q3. 請求書と領収書を間違えて使用した場合、どうすればよいですか?
A3. 税務当局に事情を説明し、適切な書類を提出するなどして、是正を試みる必要があります。しかし、原則として、請求書と領収書は正しく使い分けるべきです。
Q4. VAT還付請求の期限はありますか?
A4. はい、VAT還付請求には期限があります。通常、課税期間の終了日から2年以内です。期限を過ぎると還付請求は認められなくなるため、注意が必要です。
Q5. VAT還付請求の手続きは複雑ですか?
A5. VAT還付請求の手続きは、書類の準備や税務当局とのやり取りなど、一定の複雑さがあります。専門家(税理士や弁護士)のサポートを受けることをお勧めします。
ASG Lawは、フィリピン税法、特にVAT還付請求に関する豊富な知識と経験を有する法律事務所です。本稿で解説した請求書要件の遵守はもちろんのこと、複雑なVAT還付請求手続き全般をサポートいたします。VAT還付請求でお困りの際は、お気軽にkonnichiwa@asglawpartners.comまでご連絡ください。また、お問い合わせページからもお問い合わせいただけます。ASG Lawは、お客様のVAT還付請求の成功を全力でサポートいたします。
出典: 最高裁判所電子図書館
このページはE-Library Content Management System (E-LibCMS)により動的に生成されました
コメントを残す