政府調達における国際協定の優先:フィリピン最高裁判所の判決

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政府調達における国際協定の優先:外国資金によるプロジェクトの取り扱い

G.R. NO. 167919, February 14, 2007

はじめに

政府調達は、透明性、公平性、効率性が求められる重要なプロセスです。特に、外国からの資金援助を受けているプロジェクトの場合、国内法と国際協定の適用関係が複雑になることがあります。今回取り上げるフィリピン最高裁判所の判決は、まさにこの問題に焦点を当て、政府調達における国際協定の優先順位を明確にするものです。

この判決は、中国路橋公司(China Road & Bridge Corporation)が関与したカタンドゥアネス環状道路改良プロジェクトの入札プロセスに関するもので、国内法である共和国法9184号(政府調達改革法)と、日本国際協力銀行(JBIC)との間の融資協定の適用関係が争われました。最高裁判所は、国際協定が国内法に優先するという原則を支持し、外国資金によるプロジェクトの調達においては、融資協定の条件が優先されることを明確にしました。

法的背景

フィリピンの政府調達は、長年にわたり様々な法律や行政命令によって規制されてきました。共和国法9184号(RA 9184)は、政府調達プロセスを近代化し、標準化することを目的として制定された法律であり、入札価格の上限設定や透明性の確保など、詳細な規定を設けています。しかし、RA 9184には、国際協定に関する例外規定が存在し、これが本件の争点となりました。

RA 9184の第4条は、適用範囲について規定しており、資金源の如何にかかわらず、政府機関によるインフラプロジェクト、物品、コンサルティングサービスの調達に適用されることを原則としています。ただし、同条は、「フィリピン政府が署名した条約、国際協定、または行政協定で、本法の主題に影響を与えるものがある場合は、これを遵守しなければならない」と規定しています。

この規定は、国際法上の原則である「条約は遵守されなければならない(pacta sunt servanda)」を反映しており、フィリピン政府が締結した国際協定は、国内法よりも優先されることを意味します。この原則は、国家間の信頼関係を維持し、国際的な協力関係を促進するために不可欠です。

事案の経緯

カタンドゥアネス環状道路改良プロジェクトは、日本国際協力銀行(JBIC)からの融資を受けて実施されたもので、複数の工区に分割されていました。本件は、そのうちの1つであるCP I工区の入札プロセスに関するものです。

入札の結果、中国路橋公司(China Road & Bridge Corporation)の入札価格が、政府の承認予算(ABC)を上回っていたため、他の入札参加者から異議が申し立てられました。異議を申し立てたのは、プラリデル・M・アバヤ氏、プラリデル・C・ガルシア氏、およびPMA’59財団で、彼らは、中国路橋公司の入札価格がRA 9184に違反していると主張しました。

最高裁判所は、本件について以下の点を考慮しました。

  • CP I工区の入札プロセスは、RA 9184が施行される前に開始されたこと
  • JBICとの融資協定には、入札価格の上限設定を禁止する条項が含まれていること
  • 国際協定は国内法に優先するという原則

最高裁判所は、これらの点を総合的に判断し、中国路橋公司への契約付与を支持する決定を下しました。最高裁判所は、判決の中で以下の点を強調しました。

  1. 「RA 9184は、遡及適用されない」
  2. 「JBICとの融資協定は、行政協定(executive agreement)である」
  3. 「国際法上の原則であるpacta sunt servanda(条約は遵守されなければならない)は、国内法にも適用される」

最高裁判所は、これらの理由から、中国路橋公司への契約付与は適法であると判断し、原告の訴えを棄却しました。

実務への影響

この判決は、フィリピンにおける政府調達の実務に大きな影響を与えるものです。特に、外国からの資金援助を受けているプロジェクトの場合、国内法だけでなく、融資協定の内容も十分に考慮する必要があることを明確にしました。

企業がフィリピンの政府調達に参加する際には、以下の点に注意する必要があります。

  • プロジェクトの資金源を確認し、適用される法律や規則を正確に把握する
  • 融資協定の内容を精査し、入札プロセスにおける特別な要件を遵守する
  • 国内法と国際協定の間に矛盾がある場合は、専門家のアドバイスを求める

重要な教訓

  • 外国資金によるプロジェクトの調達においては、融資協定の条件が優先される
  • 国際協定は国内法に優先するという原則を理解する
  • 政府調達に参加する際には、適用される法律や規則を正確に把握する

よくある質問(FAQ)

Q1: RA 9184は、すべての政府調達に適用されますか?

A1: 原則として適用されますが、国際協定がある場合は、そちらが優先されます。

Q2: 行政協定(executive agreement)とは何ですか?

A2: 大統領が外国政府との間で締結する協定で、議会の承認を必要としません。条約に準ずる効力を持ちます。

Q3: JBICとの融資協定は、どのような法的効力を持っていますか?

A3: フィリピン政府とJBICとの間で締結された契約であり、両当事者を法的に拘束します。

Q4: 入札価格が政府の承認予算(ABC)を上回った場合、必ず失格となりますか?

A4: RA 9184の下では原則として失格となりますが、国際協定がある場合は、その協定の条件に従います。

Q5: 外国資金によるプロジェクトの調達において、企業は何に注意すべきですか?

A5: 適用される法律や規則を正確に把握し、融資協定の内容を精査し、入札プロセスにおける特別な要件を遵守する必要があります。

本件に関するご相談は、政府調達に精通したASG Lawにお気軽にお問い合わせください。専門的な知識と経験に基づき、お客様のビジネスをサポートいたします。

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