フィリピンにおける商標の悪意による登録:取り消しと不正競争

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悪意による商標登録は取り消し事由となり、不正競争とみなされる場合がある

G.R. No. 264919-21, May 20, 2024

商標の登録は、ビジネスのブランド価値を保護する上で非常に重要です。しかし、悪意をもって商標を登録した場合、その登録は取り消されるだけでなく、不正競争とみなされる可能性があります。本記事では、フィリピン最高裁判所の判例 Gloria Maris Shark’s Fin Restaurant, Inc. vs. Pacifico Q. Lim を基に、悪意による商標登録とその法的影響について解説します。

法的背景:商標法と不正競争防止法

フィリピン知的財産法(IP Code)は、商標の保護と不正競争の防止を目的としています。商標とは、商品やサービスを識別するために使用される記号、ロゴ、名称などのことです。商標を登録することで、その商標を独占的に使用する権利を得ることができます。しかし、商標の登録が悪意をもって行われた場合、その登録は取り消される可能性があります。

IP Code 第151条は、商標登録の取り消し事由を規定しています。その中でも、特に重要なのは以下の条項です。

SEC. 151. Cancellation. – 151.1. A petition to cancel a registration of a mark under this Act may be filed with the Bureau of Legal Affairs by any person who believes that he is or will be damaged by the registration of a mark under this Act as follows:

(b) At any time, if the registered mark becomes the generic name for the goods or services, or a portion thereof, for which it is registered, or has been abandoned, or its registration was obtained fraudulently or contrary to the provisions of this Act, or if the registered mark is being used by, or with the permission of, the registrant so as to misrepresent the source of the goods or services on or in connection with which the mark is used.

この条項は、商標登録が悪意をもって、またはIP Codeの規定に違反して行われた場合、いつでも取り消しを求めることができることを意味します。ここでいう「悪意」とは、商標登録者が他者の商標の存在を知りながら、不正な利益を得る目的で登録を行うことを指します。

また、IP Code 第168条は、不正競争について規定しています。不正競争とは、他者の営業上の信用や顧客吸引力を利用して、自己の利益を図る行為のことです。悪意による商標登録は、この不正競争に該当する場合があります。

SEC. 168. Unfair Competition, Rights, Regulation and Remedies.

168.2. Any person who shall employ deception or any other means contrary to good faith by which he shall pass off the goods manufactured by him or in which he deals, or his business, or services for those of the one having established such goodwill, or who shall commit any acts calculated to produce said result, shall be guilty of unfair competition, and shall be subject to an action therefor.

例えば、A社が長年使用している商標を、B社が悪意をもって登録し、A社の顧客を奪おうとした場合、B社は不正競争を行ったとみなされる可能性があります。

事件の経緯:Gloria Maris事件

Gloria Maris事件は、レストラン「Gloria Maris Shark’s Fin Restaurant」の商標をめぐる争いです。事件の経緯は以下の通りです。

  • 1994年、Pacifico Q. Limを含む複数の者が「Gloriamaris Shark’s Fin Restaurant Inc.」を設立。
  • 2005年、Limが「GLORIA MARIS WOK SHOP & DESIGN」などの商標を自身の名義で登録。
  • 2009年、Gloria MarisがLimの商標登録の取り消しを求めて提訴。

知的財産庁(IPO)の法務局(BLA)は、Limの主張を認め、Gloria Marisの訴えを退けました。しかし、IPO長官室(ODG)は、Gloria Marisが長年にわたって「Gloria Maris」という名称を使用しており、Limがその事実を知っていたことを考慮し、BLAの決定を覆しました。そして控訴裁判所(CA)はODGの決定を覆し、BLAの決定を復活させました。最終的に、最高裁判所はGloria Marisの訴えを認め、Limの商標登録を取り消しました。

最高裁判所は、Limが悪意をもって商標を登録したと判断しました。その根拠として、以下の点を挙げています。

  • LimがGloria Marisの設立メンバーであり、同社が「Gloria Maris」という名称を使用していることを知っていた。
  • LimがGloria Marisのブランド価値を不正に利用しようとした。

最高裁判所は、以下のように述べています。

In the present case, the following circumstances establish that Lim’s registration of the subject trademarks was done in bad faith:

First. Lim registered the subject trademarks, with full knowledge that the mark and the name “Gloria Maris” is being used by petitioner Gloria Maris for more than 10 years.

Second. Lim not only knew of Gloria Maris’ use of the mark and name, but he was precisely an incorporator and a director of the company. He even insisted that he remain as a shareholder of Gloria Maris even after registering the said trademarks and offering, by himself, for franchise the concept of the restaurant Gloria Maris to other companies.

Third. It was bad faith on Lim’s part to reap the fruits of the goodwill built by the Gloria Maris brand when he registered the subject marks in his own name. Obviously, it was the corporation as a whole that built and established the brand “Gloria Maris.”

この判決は、悪意による商標登録は不正競争とみなされ、取り消し事由となることを明確に示しています。

実務上の影響:ビジネスオーナーへのアドバイス

Gloria Maris事件の判決は、ビジネスオーナーにとって重要な教訓となります。商標を登録する際には、以下の点に注意する必要があります。

  • 他者の商標を侵害しないように、事前に十分な調査を行う。
  • 商標登録の際には、誠実な態度で臨む。
  • 他者から商標侵害の訴えを受けた場合は、専門家(弁護士など)に相談する。

特に、設立メンバーや従業員が、会社の商標を自身の名義で登録することは、悪意による商標登録とみなされる可能性が高いため、注意が必要です。

重要な教訓

  • 商標登録は、ビジネスのブランド価値を保護するために不可欠です。
  • 悪意による商標登録は、不正競争とみなされ、取り消し事由となります。
  • 商標登録の際には、誠実な態度で臨み、他者の商標を侵害しないように注意する必要があります。

よくある質問(FAQ)

以下は、商標登録に関するよくある質問です。

Q1: 商標登録にはどれくらいの費用がかかりますか?

A1: 商標登録の費用は、弁護士費用、申請手数料、調査費用などを含めて、数十万円程度かかる場合があります。費用は、商標の種類、申請の複雑さ、弁護士の料金などによって異なります。

Q2: 商標登録にはどれくらいの時間がかかりますか?

A2: 商標登録には、申請から登録完了まで、通常1年から2年程度の時間がかかります。審査の状況や異議申し立ての有無によって、期間が変動する場合があります。

Q3: 商標登録の有効期間はどれくらいですか?

A3: 商標登録の有効期間は10年間です。有効期間満了後も、更新手続きを行うことで、商標権を維持することができます。

Q4: 商標侵害とはどのような行為ですか?

A4: 商標侵害とは、他者の登録商標と同一または類似の商標を、許可なく使用する行為のことです。商標侵害を行った場合、損害賠償請求や差止請求を受ける可能性があります。

Q5: 商標侵害の訴えを受けた場合、どうすればいいですか?

A5: 商標侵害の訴えを受けた場合は、速やかに弁護士に相談し、適切な対応を検討する必要があります。弁護士は、訴えの内容を分析し、防御戦略を立て、交渉や訴訟を代行してくれます。

商標に関するご相談は、ASG Lawまでお気軽にお問い合わせください。お問い合わせ またはメール konnichiwa@asglawpartners.com までご連絡ください。ご相談をお待ちしております。

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