違法な捜索による証拠は法廷で無効:エンシナダ対フィリピン国事件の解説

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違法な捜索による証拠は法廷で無効

[ G.R. No. 116720, 1997年10月2日 ]

不当な捜索によって得られた証拠は、いかなる法的手続きにおいても証拠として認められない。これはフィリピン憲法が保障する基本的人権であり、この原則を改めて最高裁判所が明確にした重要な判例が、エンシナダ対フィリピン国事件です。違法な捜索によって犯罪の証拠が見つかったとしても、その事実は捜索の違法性を正当化することは決してありません。違法な手段は、いかなる目的も正当化しないのです。

憲法が保障する権利の重要性

私たちの社会では、犯罪を取り締まることは非常に重要です。しかし、その過程で個人の権利が侵害されてはなりません。違法な捜索は、個人のプライバシーと自由を深く侵害する行為であり、民主主義社会の根幹を揺るがすものです。エンシナダ事件は、警察官による違法な捜索によって有罪判決を受けた被告人が、最高裁判所の判断によって無罪となった事例です。この事件を通じて、違法捜索の問題点と、憲法が保障する権利の重要性を改めて確認することができます。

事件の背景:情報提供と逮捕

1992年5月21日、ロエル・エンシナダは違法薬物(マリファナ)を輸送した罪で逮捕・起訴されました。警察は、情報提供者からの情報に基づき、エンシナダがセブ市から船で違法薬物を持ち込むと予測していました。情報を受け取った警察官は、捜索令状を請求する時間がないと判断し、令状なしでエンシナダを待ち伏せ、逮捕に至りました。エンシナダは、裁判所において有罪判決を受けましたが、最高裁判所は、この判決を覆し、無罪を言い渡しました。

違法捜索と証拠の排除法則

この事件の核心は、警察による捜索が適法であったかどうか、そして、そこで得られたマリファナが証拠として認められるかどうかにありました。フィリピン憲法第3条第2項は、不当な捜索および押収に対する国民の権利を保障しており、原則として、捜索には裁判所の発行する捜索令状が必要です。また、同条第3項第2項は、憲法に違反して取得された証拠は、いかなる法的手続きにおいても証拠として認められないと定めています。これは「違法収集証拠排除法則」と呼ばれるもので、違法な捜査を抑止し、国民の権利を保護するための重要な原則です。

憲法第3条第2項の条文は以下の通りです:

第3条

(2) いかなる性質であれ、またいかなる目的であれ、不合理な捜索及び押収に対する国民の身体、家屋、書類及び所有物の安全を保障する権利は、侵してはならない。また、捜索令状又は逮捕状は、宣誓又は確約の下に、申立人及び彼が提出する証人を審査した後、裁判官が個人的に決定する相当の理由がある場合を除き、発してはならない。また、捜索すべき場所及び押収すべき人又は物を特定して記載しなければならない。

そして、違法に取得された証拠の排除に関する条文は以下の通りです:

第3条

(2) 前項…の規定に違反して取得された証拠は、いかなる手続きにおいても、いかなる目的のためにも、証拠として認められない。

最高裁判所の判断:令状主義の原則

最高裁判所は、エンシナダ事件において、警察官が捜索令状なしにエンシナダを捜索した行為は違憲であり、そこで得られたマリファナは証拠として認められないと判断しました。裁判所は、情報提供があったとしても、警察には捜索令状を請求する十分な時間があったにもかかわらず、それを怠った点を厳しく指摘しました。警察は、「時間的余裕がなかった」と主張しましたが、最高裁判所は、行政規則や通達によって、裁判所の閉庁時間や休日でも捜索令状の請求が可能であることを示し、警察の主張を退けました。

最高裁判所は判決の中で、以下の点を強調しました:

「本件は緊急性を要するものではなかった。…警察官らは、少なくとも2日間は、M/V Wilcon 9号でイロイロにやってくるアミンディンを逮捕し、捜索するための令状を入手することができたはずである。彼の名前は知られていた。車両は特定されていた。到着日は確実だった。そして、彼らが受け取った情報から、裁判官に相当の理由があると納得させ、令状の発行を正当化することができたはずである。しかし、彼らは何も行動を起こさなかった。法律を遵守するための努力は一切なされなかった。人権章典は完全に無視された。なぜなら、逮捕チームの責任者である警察中尉が、彼自身の権限で『捜索令状は必要ない』と判断したからである。」

この引用部分は、最高裁判所が過去の判例(アミンディン事件)を引用し、令状主義の原則を改めて強調しているものです。警察官は、法律を執行する立場でありながら、自ら法律を破ることは許されない、という強いメッセージが込められています。

違法捜索の例外と本件への不適用

憲法が保障する令状主義には、いくつかの例外が認められています。例えば、以下のケースでは、令状なしの捜索が適法とされます。

  • 適法な逮捕に伴う捜索
  • 移動中の車両の捜索
  • 明白な視界内の押収
  • 税関検査
  • 被疑者自身が不合理な捜索及び押収に対する権利を放棄した場合

しかし、エンシナダ事件では、これらの例外のいずれにも該当しないと判断されました。特に、裁判所は、第一審裁判所が「現行犯逮捕」を根拠に捜索を適法とした判断を明確に否定しました。情報提供だけでは「現行犯」とは言えず、逮捕に先立って捜索が行われたため、「逮捕に伴う捜索」にも該当しないと判断されました。

また、政府側は、エンシナダが警察官にプラスチック製の椅子を「任意に」手渡したと主張し、「同意による捜索」を主張しましたが、最高裁判所はこれも認めませんでした。裁判所は、エンシナダの沈黙を同意とみなすことはできず、威圧的な状況下での黙認は、憲法上の権利の放棄とは言えないと判断しました。

今後の実務への影響と教訓

エンシナダ事件の判決は、今後の薬物犯罪捜査において、警察官がより慎重に令状主義を遵守することを求めるものとなるでしょう。情報提供があったとしても、原則として捜索令状を請求する手続きを怠ってはならず、例外的に令状なしの捜索が許される場合でも、その要件は厳格に解釈されるべきです。

一般市民にとっても、この判決は重要な教訓を与えてくれます。警察官による捜索を受けた場合、令状の提示を求める権利があること、そして、違法な捜索によって得られた証拠は法廷で争うことができることを知っておく必要があります。もし、違法な捜索を受けた疑いがある場合は、弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受けることが重要です。

主な教訓

  • 違法な捜索によって得られた証拠は、法廷で証拠として認められない。
  • 捜索を行うには、原則として裁判所の発行する捜索令状が必要である。
  • 令状なしの捜索が例外的に認められる場合でも、その要件は厳格に解釈される。
  • 警察官による捜索を受けた場合、令状の提示を求める権利がある。
  • 違法な捜索を受けた疑いがある場合は、弁護士に相談することが重要である。

よくある質問(FAQ)

Q1: 警察官はどんな場合に捜索令状なしで家に入って捜索できますか?

A1: 例外的な状況として、緊急逮捕の場合、追跡中の犯人を追う場合、火災や爆発などの緊急事態が発生している場合などが考えられます。しかし、これらの場合でも、事後的に令状を取得することが求められる場合があります。

Q2: 警察官に職務質問された際、所持品検査を拒否できますか?

A2: はい、原則として拒否できます。所持品検査は、相手の同意に基づいて行われる任意捜査であり、強制することはできません。ただし、警察官が犯罪の嫌疑を合理的に疑う状況下では、例外的に強制的な所持品検査が認められる場合があります。

Q3: もし違法な捜索を受けた場合、どうすれば良いですか?

A3: まずは冷静に対応し、警察官の身分証の提示を求め、所属と名前を記録しましょう。捜索の状況を詳細に記録し、可能であれば写真や動画を撮影することも有効です。その後、速やかに弁護士に相談し、法的アドバイスを受けることをお勧めします。

Q4: 違法に収集された証拠は、裁判でどのように争えば良いですか?

A4: 裁判所に対して、証拠の違法収集を主張し、証拠排除の申し立てを行います。弁護士を通じて、捜査の違法性や憲法違反を具体的に指摘し、証拠能力を争うことになります。

Q5: この判例は、薬物犯罪以外の事件にも適用されますか?

A5: はい、この判例の示す違法収集証拠排除法則は、薬物犯罪に限らず、すべての刑事事件に適用されます。憲法が保障する権利は、あらゆる犯罪の被疑者・被告人に等しく保障されるものです。


ASG Lawは、フィリピン法における刑事訴訟、憲法上の権利保護に関する豊富な経験と専門知識を有しています。エンシナダ事件のような違法捜査の問題、その他刑事事件でお困りの際は、konnichiwa@asglawpartners.comまでお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。お問い合わせページからもご連絡いただけます。私たちは、お客様の権利を守り、最善の結果を追求するために全力を尽くします。


Source: Supreme Court E-Library
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