弁護士は訴訟遅延行為を避け、迅速な司法を実現する義務がある
A.C. No. 11020, May 15, 2024
弁護士は依頼者のために尽力する義務がありますが、その熱意には制限があり、訴訟を不当に遅延させる行為は懲戒処分の対象となります。本判例は、弁護士が裁判所のプロセスを濫用し、訴訟を遅延させた場合にどのような責任を負うかを明確にしています。
訴訟遅延行為とは
訴訟遅延行為とは、訴訟手続きを不当に遅らせることを目的とした行為全般を指します。これには、根拠のない申立て、反復的な訴訟、軽率な上訴などが含まれます。フィリピンの弁護士倫理綱領(Code of Professional Responsibility and Accountability: CPRA)は、弁護士が司法の迅速かつ効率的な運営に協力する義務を定めています。
CPRAの関連条項は以下の通りです。
CANON II
適切性
SECTION 2. *品位ある行動* — 弁護士は、法律、裁判所、法廷、その他の政府機関、その職員、従業員、および手続きを尊重し、同僚の弁護士に対して礼儀正しさ、丁寧さ、公平さ、および率直さをもって行動しなければならない。…
SECTION 5. *公平性の遵守と法律の遵守* — 弁護士は、あらゆる個人的および専門的な活動において、公平性の原則と法律の遵守を主張しなければならない。CANON III
忠誠
SECTION 2. *責任ある弁護士* — 弁護士は、憲法を支持し、国の法律を遵守し、法律と法的手続きの尊重を促進し、人権を保護し、常に法曹の名誉と誠実さを向上させなければならない。裁判所の役員として、弁護士は法の支配を支持し、司法の迅速かつ効率的な運営を誠実に支援しなければならない。
擁護者として、弁護士は法律およびCPRAの範囲内で忠実かつ熱意をもって依頼者を代表しなければならない。
SECTION 7. *軽率な訴訟および裁判所手続きの濫用の禁止* — 弁護士は、以下を行ってはならない:
(a) 法律または判例によって許可されておらず、証拠による裏付けがない訴訟または手続きを提起または奨励すること。
(b) 正当な命令または判決の執行を不当に妨げること。
(c) 裁判所の手続きを濫用すること。
例えば、ある会社が訴訟に負けた後、弁護士が判決の執行を遅らせるために、根拠のない申立てを繰り返し提出する場合、これは訴訟遅延行為にあたります。また、弁護士が訴訟を長引かせるためだけに、不必要な証拠開示請求を行う場合も同様です。
事件の経緯
本件は、1997年に労働者がTimothy Bakeshopという個人商店に対して起こした労働訴訟に端を発します。1999年、労働仲裁人(LA)は労働者側の勝訴判決を下しました。控訴審では、国家労働関係委員会(NLRC)がLAの判決を修正し、労働者への支払額を増額しました。Timothy Bakeshopが控訴裁判所にRule 65 Petition(権利侵害に対する特別救済申立)を提出しましたが、2008年に棄却されました。Timothy Bakeshopは最高裁判所に上訴しなかったため、NLRCの判決が確定しました。
その後、弁護士であるDualloとDacalosがTimothy Bakeshopの代理人として執行段階で登場し、「判決執行停止申立ておよび訴訟手続き無効宣言申立て」をLAに提出しましたが、これも却下されました。これに対し、DualloとDacalosはNLRCに控訴しましたが、これも棄却されました。さらに、両弁護士は控訴裁判所にRule 65 Petitionを提出しましたが、2015年7月31日の判決で棄却されました。控訴裁判所は、Timothy Bakeshopが「訴訟がすでに確定しているにもかかわらず、多数の訴状や申立てを提出することにより、明らかに遅延戦術を用いている」と指摘しました。そして、「このような状況下では、Timothy Bakeshopの訴えは遅延行為と見なさざるを得ない。司法プロセスの濫用は、正義に対する露骨な嘲笑であることを念頭に置くべきである」と述べました。
労働者たちは、控訴裁判所の指摘を根拠に、弁護士DualloとDacalosに対する懲戒処分を求めました。彼らは、(a) 終わりのない遅延と苦しみから解放されること、(b) 両弁護士が司法プロセスの濫用を通じて司法の運営を妨害する行為を止めさせ、適切に懲戒されることを求めました。
- 1997年:労働者がTimothy Bakeshopを提訴
- 1999年:労働仲裁人が労働者勝訴の判決
- 2008年:控訴裁判所がTimothy BakeshopのRule 65 Petitionを棄却
- 2015年:控訴裁判所が弁護士の遅延行為を指摘
弁護士DualloとDacalosは、労働者たちが判決を執行し、完全に満足を得ることに成功していると主張しました。彼らの依頼人の不動産が差し押さえられ、競売にかけられ、最終的に労働者たちの名義に移転されたため、自分たちの行為が判決の執行を遅らせたり妨げたりしたという労働者たちの主張は誤りであると反論しました。さらに、Timothy BakeshopのオーナーであるJane Kyamkoが、労働者たちによる訴状の偽造疑惑について助けを求めてきたと主張しました。Kyamkoによれば、労働者たちは労働訴訟の訴状を実際に提出したわけではないと告白したとのことです。弁護士たちは、Kyamkoには正当な不満があると信じていました。
フィリピン弁護士会(IBP)の調査委員は、両弁護士が弁護士倫理綱領(CPR)のCanon 10, Rule 10.03およびCanon 12, Rule 12.04に違反したとして、6ヶ月間の弁護士業務停止処分を勧告しました。IBP理事会は、2021年8月14日の決議でこの勧告を承認しました。
本件の争点は、弁護士DualloとDacalosが訴えられた行為について懲戒責任を負うべきかどうかでした。
最高裁判所の判断
最高裁判所は、IBPの調査結果と勧告を支持しました。裁判所は、弁護士は依頼者のために尽力する義務があるものの、その熱意には制限があり、訴訟を不当に遅延させる行為は許されないと判断しました。
「弁護士は、依頼者のために尽力する義務がありますが、その熱意には制限があり、必要な制約と資格が付されています。」
裁判所は、弁護士が訴訟を遅延させる目的で、根拠のない申立てを繰り返し提出したり、軽率な上訴を行ったりすることは、司法プロセスの濫用にあたると指摘しました。本件では、弁護士DualloとDacalosが、(a) 判決執行停止申立ておよび訴訟手続き無効宣言申立て、(b) NLRCへの控訴、(c) 控訴裁判所へのRule 65 Petitionを提出し、判決の執行を遅延させようとしたことが認定されました。
最高裁判所は、弁護士たちが「金銭や悪意のために人を遅らせてはならない」という弁護士の誓いを破ったと結論付けました。その結果、弁護士DualloとDacalosは、6ヶ月間の弁護士業務停止処分を受けることとなりました。
実務上の教訓
本判例から得られる教訓は以下の通りです。
- 弁護士は、依頼者のために尽力する義務があるものの、その熱意には制限がある。
- 弁護士は、訴訟を不当に遅延させる行為を避け、司法の迅速かつ効率的な運営に協力する義務がある。
- 裁判所は、司法プロセスの濫用に対して厳格な姿勢で臨む。
よくある質問
Q: 訴訟遅延行為とは具体的にどのような行為ですか?
A: 訴訟遅延行為には、根拠のない申立て、反復的な訴訟、軽率な上訴、不必要な証拠開示請求などが含まれます。
Q: 弁護士が訴訟遅延行為を行った場合、どのような処分が科されますか?
A: 弁護士が訴訟遅延行為を行った場合、弁護士業務停止処分、戒告処分、または罰金などの処分が科される可能性があります。
Q: 依頼者が訴訟遅延行為を指示した場合、弁護士はどうすべきですか?
A: 弁護士は、依頼者の指示に従う義務はありません。訴訟遅延行為は弁護士倫理に反するため、依頼者にその旨を説明し、それでも依頼者が指示を撤回しない場合は、辞任を検討すべきです。
Q: 訴訟遅延行為に巻き込まれた場合、どうすれば良いですか?
A: 訴訟遅延行為に巻き込まれた場合は、まず弁護士に相談し、適切な対応を検討してください。裁判所に訴訟遅延行為を訴えることも可能です。
Q: 弁護士を選ぶ際に、訴訟遅延行為を避けるために注意すべき点はありますか?
A: 弁護士を選ぶ際には、その弁護士の評判や実績を確認し、倫理観の高い弁護士を選ぶように心がけましょう。
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