顧問弁護士契約がある場合でも、特別な法的サービスに対して追加報酬を請求できるか?
G.R. No. 120592, 1997年3月14日
弁護士費用、特に顧問契約を結んでいる場合の追加費用は、多くの企業や個人にとって複雑で理解しにくい問題です。顧問契約があるからといって、すべての法的サービスがその範囲内で提供されるとは限りません。今回取り上げる最高裁判所の判例、TRADERS ROYAL BANK EMPLOYEES UNION-INDEPENDENT VS. NATIONAL LABOR RELATIONS COMMISSION AND EMMANUEL NOEL A. CRUZ は、まさにこの点について重要な判断を示しています。この判例を詳しく分析することで、顧問契約と特別な法的サービスにおける弁護士費用の請求について、より深く理解することができます。
顧問契約と特別な弁護士費用:フィリピン法における法的背景
フィリピン法において、弁護士費用は大きく分けて2つの概念があります。一つは「通常の弁護士費用」、もう一つは「特別な弁護士費用」です。通常の弁護士費用は、クライアントが弁護士に法的サービスを依頼し、その対価として支払う合理的な報酬です。これは、弁護士とクライアント間の契約に基づいています。
一方、特別な弁護士費用は、訴訟において敗訴した当事者が、勝訴した当事者に対して損害賠償として支払うように裁判所が命じる費用です。これは、民法第2208条などで定められており、原則として弁護士ではなくクライアントに支払われます。ただし、クライアントと弁護士の間で、この費用を弁護士の追加報酬または報酬の一部とすることを合意している場合は、弁護士に支払われることもあります。
今回のケースで問題となっているのは、前者の「通常の弁護士費用」です。特に、顧問契約が存在する場合に、顧問契約の範囲外の特別な法的サービスに対して、弁護士が追加で費用を請求できるのかが争点となりました。
顧問契約には、一般顧問契約(general retainer)と特別顧問契約(special retainer)の2種類があります。一般顧問契約は、日常的な法律相談や簡単な法的業務を対象とした契約で、月額顧問料などが支払われます。一方、特別顧問契約は、特定の訴訟事件や特別な法的サービスを対象とした契約で、別途費用が定められます。一般顧問契約の顧問料は、弁護士が顧問先からの相談に応じられるように待機していること、他のクライアントからの依頼を断る機会費用に対する対価としての意味合いも持ちます。
今回の判例では、顧問契約が一般顧問契約であったため、問題となった労働事件の対応が顧問契約の範囲に含まれるのか、追加費用を請求できるのかが重要なポイントとなりました。
TRADERS ROYAL BANK EMPLOYEES UNION事件の経緯
事件の経緯は以下の通りです。
- 1987年2月26日、TRADERS ROYAL BANK EMPLOYEES UNION(以下、「組合」)とE.N.A. Cruz法律事務所(以下、「弁護士事務所」)は顧問契約を締結。月額顧問料は3,000ペソ。
- 組合員は、雇用主であるTRADERS ROYAL BANK(以下、「銀行」)に対し、祝日手当、期中ボーナス、年末ボーナスの支払いを請求。組合は弁護士事務所にこの件を依頼。
- 弁護士事務所は、組合を代理して労働紛争をNLRC(国家労働関係委員会)に提訴(NLRC-NCR Certified Case No. 0466)。
- 1988年9月2日、NLRCは従業員勝訴の決定を下し、銀行にボーナス等の支払いを命じる。
- 銀行は最高裁判所にNLRCの決定を不服として上訴。
- 1990年8月30日、最高裁判所はNLRCの決定を一部変更し、期中ボーナスと年末ボーナスの支払いを削除、祝日手当のみを認める決定を下す。
- 銀行は最高裁判所の判決に従い、祝日手当175,794.32ペソを組合員に支払う。
- 1990年9月18日、弁護士事務所は最高裁判所の判決を受領。
- 1990年10月8日、弁護士事務所は組合、銀行、NLRCに対し、祝日手当に対する弁護士先取特権を行使する旨を通知。
- 1991年7月2日、弁護士事務所は労働仲裁官に対し、弁護士費用の決定を申し立て。祝日手当の10%である17,579.43ペソを弁護士費用として支払うよう請求。
- 労働仲裁官は弁護士事務所の申立てを認め、組合に17,574.43ペソの弁護士費用を支払うよう命じる。
- 組合はNLRCに仲裁官の命令を不服として上訴。
- 1994年10月19日、NLRC第一部仲裁官の命令を支持する決議。
- 1995年5月23日、NLRCは組合の再考 motion を棄却。
- 組合は最高裁判所にNLRCの決議を不服として上訴(本件)。
組合は、NLRCが弁護士費用を認めたことは、最高裁判所の確定判決を変更するものであり、管轄権の濫用であると主張しました。一方、弁護士事務所は、弁護士費用の請求は本訴訟の付随的なものであり、弁護士先取特権の行使に基づくものであると反論しました。
最高裁判所の判断:量子 meruit の原則
最高裁判所は、弁護士事務所の弁護士費用請求を認めました。その理由として、以下の点を指摘しました。
- 弁護士費用請求は、主要な訴訟事件の付随的な問題であり、最高裁判所の判決後であってもNLRCが管轄権を有すると判断しました。
- 顧問契約における月額顧問料3,000ペソは、一般的な法律相談等のサービスに対する対価であり、本件労働事件のような特別な法的サービスに対する費用は含まれていないと解釈しました。
- 顧問契約書には、特別な法的サービスについては別途合意が必要である旨が規定されており、本件労働事件は特別な法的サービスに該当すると判断しました。
- 弁護士事務所は、組合のために労働事件で勝利判決を獲得し、組合は利益を得ている。したがって、弁護士事務所は、量子 meruit (相当な対価)の原則に基づき、追加の弁護士費用を請求する権利を有するとしました。
最高裁判所は、弁護士費用を決定するにあたり、労働法第111条(不当な賃金不払いの場合の弁護士費用は回収額の10%を上限とする)のみに依拠することは不適切であるとしました。そして、弁護士の専門職報酬の妥当性を判断するための基準(弁護士職務倫理規範第20.01条に codified)を考慮すべきであるとしました。これらの基準には、弁護士が費やした時間とサービスの程度、事件の新規性と困難性、訴訟の目的の重要性、要求されるスキル、他の雇用の喪失の可能性、類似サービスの慣習的な料金、訴訟額とクライアントが得た利益、報酬の偶発性または確実性、雇用の性格、弁護士の専門的地位などが含まれます。
本件では、労働仲裁官が労働法第111条のみに基づいて弁護士費用を決定したことは不適切であるとしながらも、事件を差し戻すことなく、最高裁判所自身が記録に基づいて弁護士費用を10,000ペソと決定しました。
実務上の教訓とFAQ
この判例から得られる実務上の教訓は以下の通りです。
- 顧問契約を締結する際には、顧問契約の範囲を明確に定めることが重要です。特に、訴訟事件等の特別な法的サービスが顧問契約の範囲に含まれるのか、別途費用が発生するのかを明確に規定する必要があります。
- 顧問契約が一般顧問契約である場合、特別な法的サービスについては別途費用が発生する可能性があることを理解しておく必要があります。
- 弁護士は、顧問契約の範囲外の特別な法的サービスを提供した場合、量子 meruit の原則に基づき、追加の弁護士費用を請求することができます。
よくある質問 (FAQ)
Q1: 顧問契約の種類にはどのようなものがありますか?
A1: 主に一般顧問契約(general retainer)と特別顧問契約(special retainer)があります。一般顧問契約は日常的な法律相談や簡単な法的業務を対象とし、特別顧問契約は特定の訴訟事件や特別な法的サービスを対象とします。
Q2: 一般顧問契約の顧問料は何に対する対価ですか?
A2: 一般顧問契約の顧問料は、弁護士が顧問先からの相談に応じられるように待機していること、他のクライアントからの依頼を断る機会費用に対する対価としての意味合いを持ちます。
Q3: 量子 meruit (相当な対価)の原則とは何ですか?
A3: 契約がない場合や契約内容が不明確な場合に、提供されたサービスに見合う相当な対価を支払うべきであるという原則です。弁護士費用の場合、弁護士が提供したサービスの価値を公正に評価し、報酬を決定するために用いられます。
Q4: 弁護士費用を決定する際の基準は何ですか?
A4: 弁護士が費やした時間とサービスの程度、事件の新規性と困難性、訴訟の目的の重要性、要求されるスキル、他の雇用の喪失の可能性、類似サービスの慣習的な料金、訴訟額とクライアントが得た利益、報酬の偶発性または確実性、雇用の性格、弁護士の専門的地位などが考慮されます。
Q5: 顧問契約で弁護士費用を明確にするためにはどうすればよいですか?
A5: 顧問契約書に、顧問契約の範囲、対象となるサービス、費用、特別な法的サービスに関する規定などを詳細に記載することが重要です。契約締結前に弁護士と十分に協議し、合意内容を書面で確認することが望ましいです。
Q6: 労働事件の弁護士費用はどのように計算されますか?
A6: 労働法第111条では、不当な賃金不払いの場合の弁護士費用は回収額の10%を上限と定めていますが、これはあくまで上限であり、実際の弁護士費用は事件の内容や弁護士のサービス内容に応じて量子 meruit の原則に基づいて決定されることがあります。
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