結婚前の同棲と財産権:フィリピン最高裁判所の判決解説

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結婚前の同棲期間に取得した財産は誰のもの?

G.R. No. 253450, January 22, 2024

結婚前の同棲期間に、夫婦の一方が自身の資金で購入した財産は、原則としてその個人の所有となります。しかし、同棲期間中に共同で築き上げた財産については、権利関係が複雑になることがあります。今回の最高裁判所の判決は、結婚前の同棲期間に取得した財産の権利関係について、重要な判断を示しました。この判決は、財産権の保護、夫婦関係、そして将来の紛争予防に大きな影響を与える可能性があります。

フィリピンの夫婦財産制:法律の基本

フィリピンの夫婦財産制は、夫婦が結婚期間中に築き上げた財産をどのように共有するかを定めています。主な財産制には、夫婦共有財産制(Conjugal Partnership of Gains)と夫婦別産制(Complete Separation of Property)があります。夫婦共有財産制では、結婚期間中に夫婦の努力によって得られた財産は、原則として夫婦の共有財産となります。一方、夫婦別産制では、夫婦それぞれが結婚前から所有していた財産、および結婚期間中に相続や贈与によって得た財産は、個人の所有となります。

重要なのは、結婚前の財産がどのように扱われるかです。民法第148条および家族法第109条は、夫婦それぞれが結婚前に所有していた財産、または結婚期間中に個人的な資金で購入した財産は、個人の所有財産(Paraphernal Property)と規定しています。今回の判決は、この原則を改めて確認し、結婚前の同棲期間に取得した財産の権利関係を明確にしました。

今回の判決に大きく関わる家族法第147条を以下に引用します。

ARTICLE 147. When a man and a woman who are capacitated to marry each other, live exclusively with each other as husband and wife without the benefit of marriage or under a void marriage, their wages and salaries shall be owned by them in equal shares and the property acquired by both of them through their work or industry shall be governed by the rules on co-ownership.

つまり、婚姻関係にない男女が夫婦として同棲し、共同で財産を築いた場合、その財産は共有財産として扱われる可能性があります。

事件の経緯:ラニ・ナイヴェ=プア対ユニオンバンク

今回の事件は、ラニ・ナイヴェ=プア氏が、ユニオンバンクを相手取り、不動産抵当権の無効を訴えたものです。以下に、事件の経緯をまとめます。

  • ラニ氏とスティーブン・プア氏は、1975年から夫婦として同棲を開始。
  • 1978年、スティーブン氏名義で不動産を購入。
  • 1983年、ラニ氏とスティーブン氏は結婚。
  • 2004年、ラニ氏は、夫の甥であるクロムウェル・ウイ夫妻が、この不動産を担保にユニオンバンクから融資を受けていたことを知る。
  • ウイ夫妻が返済不能となり、ユニオンバンクが不動産を差し押さえ。
  • ラニ氏は、抵当権設定のための特別委任状(SPA)の署名が偽造であると主張し、訴訟を提起。

地方裁判所(RTC)は、ラニ氏の訴えを棄却し、控訴院(CA)もRTCの判断を支持しました。CAは、不動産が結婚前にスティーブン氏によって取得されたものであり、ラニ氏が共同所有者であることを証明できなかったと判断しました。

最高裁判所は、CAの判断を支持し、ラニ氏の訴えを棄却しました。以下に、最高裁判所の判断のポイントを引用します。

The mortgaged property was acquired in 1978, under the name of “STEPHEN PUA, of legal age, Filipino, single,” when Lani and Stephen were cohabiting without the benefit of marriage. When Lani and Stephen married on July 1983, the Civil Code provides that their property relations shall be governed by the rules on conjugal partnership of gains, absent any proof showing that the spouses entered into a marriage settlement.

最高裁判所は、不動産が結婚前にスティーブン氏によって取得されたものであり、夫婦共有財産制の対象とならないと判断しました。また、ラニ氏が不動産の取得に貢献したという証拠も不十分であるとしました。

実務上の影響:今後の同様のケースへの影響

今回の判決は、結婚前の同棲期間に取得した財産の権利関係について、重要な先例となります。特に、以下の点に注意が必要です。

  • 結婚前の財産は、原則として個人の所有となる。
  • 同棲期間中に共同で築き上げた財産については、共有財産となる可能性がある。
  • 共有財産であることを主張するためには、明確な証拠が必要となる。

今回の判決を踏まえ、結婚前の財産については、権利関係を明確にしておくことが重要です。例えば、不動産を購入する際には、契約書に当事者の貢献度を明記する、または共同名義で登記するなどの対策を講じることが考えられます。

キーレッスン

  • 結婚前に取得した財産は、原則として個人の所有となる。
  • 同棲期間中に共同で築き上げた財産については、共有財産となる可能性がある。
  • 共有財産であることを主張するためには、明確な証拠が必要となる。
  • 結婚前の財産については、権利関係を明確にしておくことが重要。

よくある質問(FAQ)

Q1: 結婚前に購入した不動産は、結婚後も個人の所有ですか?

A1: はい、原則として個人の所有です。ただし、結婚後に夫婦の共有財産から改築や増築を行った場合、共有財産となる可能性があります。

Q2: 同棲期間中に共同で貯めたお金は、どのように扱われますか?

A2: 同棲期間中に共同で貯めたお金は、共有財産として扱われる可能性があります。ただし、明確な合意がない場合、貢献度に応じて分配されることがあります。

Q3: 結婚前に取得した財産を、結婚後に夫婦共有財産にすることはできますか?

A3: はい、可能です。夫婦間で合意し、適切な手続きを行うことで、個人の所有財産を夫婦共有財産にすることができます。

Q4: 財産権に関する紛争を避けるためには、どのような対策を講じるべきですか?

A4: 結婚前に財産契約を締結する、財産に関する合意書を作成する、専門家(弁護士など)に相談するなどの対策を講じることが有効です。

Q5: 今回の判決は、離婚時の財産分与に影響を与えますか?

A5: はい、影響を与える可能性があります。離婚時の財産分与は、夫婦の財産制に基づいて行われます。今回の判決は、結婚前の財産の権利関係を明確にするものであり、離婚時の財産分与の判断に影響を与える可能性があります。

フィリピン法に関するご質問は、ASG Lawにお気軽にお問い合わせください。お問い合わせ またはメール konnichiwa@asglawpartners.com までご連絡ください。

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