養育費請求権は一度放棄しても再請求可能
G.R. No. 127578, February 15, 1999
はじめに
子供の養育費は、親の重要な義務です。しかし、一度養育費を請求しないと合意した場合でも、将来にわたって請求できなくなるのでしょうか?今回の最高裁判所の判例は、養育費請求権の性質と、過去の訴訟が将来の請求に与える影響について重要な教訓を示しています。本稿では、この判例を詳細に分析し、養育費に関する法的原則と実務上の注意点について解説します。
本判例は、一度は養育費請求を断念した母親が、後に再び父親に養育費を請求したケースです。父親は、以前の訴訟で「請求放棄」があったとして、今回の請求は認められないと主張しました。しかし、最高裁判所は、養育費請求権は放棄できないという民法の原則に基づき、母親の再請求を認めました。この判例は、養育費請求権の強固さと、子供の権利保護の重要性を改めて確認するものです。
法的背景:養育費請求権の放棄と既判力
フィリピン民法は、養育費請求権について明確な規定を設けています。第301条は、「扶養を受ける権利は、放棄することも、第三者に譲渡することもできない。また、扶養義務者に対する債務と相殺することもできない」と定めています。これは、養育費が子供の生存を維持するための基本的な権利であり、親の都合で左右されるべきではないという考えに基づいています。また、第2035条は、将来の扶養料は和解の対象とすることができないと規定しています。これらの規定は、子供の福祉を最優先に考えるフィリピン法の姿勢を明確に示しています。
この原則は、過去の最高裁判所の判例でも繰り返し確認されています。例えば、アドゥンクラ対アドゥンクラ事件(Advincula vs. Advincula, 10 SCRA 189)では、最初の養育費請求訴訟が「原告の関心の喪失」を理由に棄却された後でも、再度の養育費請求が認められました。最高裁判所は、養育費は子供の必要に応じて変動するものであり、一度の訴訟結果が将来の請求を完全に遮断するものではないと判断しました。
判例の詳細:デ・アシス対控訴裁判所事件
本件の経緯は以下の通りです。
- 1988年、母親のヴィルセル・アンドレスが、未成年の娘グレン・カミル・アンドレス・デ・アシスの法定代理人として、マヌエル・デ・アシスを相手取り、養育費請求訴訟を提起しました(ケソン市地方裁判所、民事訴訟第Q-88-935号)。
- マヌエル・デ・アシスは、訴状で親子関係を否定し、養育費支払義務がないと主張しました。
- 1989年、母親側は、父親の親子関係否認の主張を受けて、「養育費請求は無益」であるとして、訴えを取り下げる旨の申述書を提出しました。
- ケソン市地方裁判所は、この申述に基づき、1989年8月8日、訴訟を取り下げ、かつ、被告の反訴も取り下げることを条件に、訴訟を「却下」する命令を下しました。
- 1995年、母親は再び、グレン・カミル・アンドレス・デ・アシスの法定代理人として、マヌエル・デ・アシスを相手取り、カロオカン市地方裁判所に養育費請求訴訟を提起しました(民事訴訟第C-16107号)。
- 父親側は、前回の訴訟が「却下」されたことは既判力があり、今回の訴訟は認められないとして、訴えの却下を求めました。
- カロオカン市地方裁判所は、養育費請求権は放棄できないため、既判力は適用されないとして、父親の申立てを却下しました。
- 父親は控訴裁判所に上訴しましたが、控訴裁判所も地方裁判所の決定を支持しました。
最高裁判所は、控訴裁判所の判断を支持し、父親の上告を棄却しました。最高裁判所は、判決理由の中で、以下の点を強調しました。
- 養育費請求権は、民法第301条により放棄することができない。
- 過去の訴訟で母親側が「養育費請求は無益」と述べたことは、事実上の放棄に当たる可能性があるが、法的には無効である。
- 前回の訴訟の「却下」は、実質的な争点について判断したものではなく、既判力は生じない。
- 子供の養育を受ける権利は、親の都合で左右されるべきではなく、常に保護されるべきである。
最高裁判所は、アドゥンクラ対アドゥンクラ事件の判例を引用し、養育費請求権の非放棄性を改めて確認しました。判決文中で、最高裁判所は次のように述べています。「養育費の権利は、放棄することも、第三者に譲渡することもできません。また、将来の扶養料は和解の対象とすることができません。(民法第2035条)。したがって、前回の訴訟が棄却されたとしても、今回の養育費請求訴訟は提起可能です。」
実務上の意味:養育費請求における注意点
本判例は、養育費請求権が非常に強力な権利であり、安易に放棄したり、過去の訴訟結果に縛られたりするべきではないことを明確に示しています。特に、以下の点に注意が必要です。
- 養育費請求権の放棄は原則無効:たとえ当事者間で養育費を請求しないと合意した場合でも、法的には無効とされる可能性が高いです。子供の権利は、親の合意よりも優先されます。
- 過去の訴訟の「却下」は既判力を持たない場合がある:訴訟が実質的な争点について判断されることなく「却下」された場合、その訴訟結果は将来の訴訟に既判力を持たないことがあります。養育費請求訴訟においては、特にこの点が重要になります。
- 子供の成長と必要に応じて養育費は変動する:養育費は、子供の成長や親の経済状況の変化に応じて、増減することがあります。過去の合意や訴訟結果に固執せず、必要に応じて再交渉や訴訟を検討することが重要です。
重要な教訓
- 養育費請求権は、子供の基本的な権利であり、放棄することはできません。
- 過去の訴訟で養育費請求を断念した場合でも、状況が変われば再請求が可能です。
- 養育費に関する問題は、専門家(弁護士など)に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
よくある質問(FAQ)
- 質問1:離婚時に養育費について合意しましたが、後から増額請求できますか?
回答1:はい、子供の成長や親の経済状況の変化など、事情が変われば増額請求が可能です。 - 質問2:元夫が養育費を支払ってくれません。どうすればいいですか?
回答2:まずは弁護士に相談し、内容証明郵便を送付したり、養育費請求訴訟を提起したりすることを検討してください。 - 質問3:私が再婚した場合、養育費はどうなりますか?
回答3:再婚したこと自体が養育費に直接影響を与えるわけではありません。ただし、再婚相手の収入状況などが考慮される場合があります。 - 質問4:子供が成人したら養育費は自動的に終わりますか?
回答4:一般的には、子供が成人すると養育費支払義務は終了します。ただし、子供が大学生であるなど、特別な事情がある場合は、成人後も養育費支払義務が継続する場合があります。 - 質問5:養育費の金額はどのように決まりますか?
回答5:養育費の金額は、親の収入、子供の年齢や人数、生活水準などを考慮して決定されます。裁判所が算定表を用いることもあります。
養育費の問題は、子供の将来に大きく影響する重要な問題です。ASG Lawは、離婚や養育費に関する豊富な経験と専門知識を持つ法律事務所です。養育費請求、増額、減額、未払いなど、養育費に関するあらゆる問題について、お気軽にご相談ください。お客様の状況を丁寧にヒアリングし、最適な解決策をご提案いたします。
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Source: Supreme Court E-Library
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