フィリピン家族法:非嫡出子の出生証明書における姓の決定と法的影響

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非嫡出子の姓:家族法に基づき母の姓が必須

[G.R. No. 111455, 1998年12月23日] マリッサ・A・モーセスゲルド 対 控訴裁判所および民事登録官

フィリピンでは、子供の姓はアイデンティティの重要な一部であり、法的権利と義務に影響を与えます。特に非嫡出子の場合、姓の決定は複雑な問題となることがあります。最高裁判所の画期的な判決であるマリッサ・A・モーセスゲルド対控訴裁判所および民事登録官事件は、非嫡出子の出生登録における姓の使用に関する家族法の規定を明確にしました。この判決は、非嫡出子は原則として母親の姓を使用しなければならないという原則を確立し、父親が認知した場合でも例外は認められないことを明確にしました。

家族法第176条:非嫡出子の姓の規定

この判決の中心となるのは、家族法第176条です。この条項は、1987年7月6日に発令され、1988年8月3日に施行された大統領令第209号によって導入されました。第176条は明確に、「非嫡出子は母親の姓を使用し、母親の親権に服し、本法典に従い扶養を受ける権利を有する」と規定しています。この条項は、非嫡出子の姓に関する明確な規則を設け、以前の民法との矛盾を解消しました。

この規定の背景には、非嫡出子の保護と母親の権利の尊重という目的があります。非嫡出子はしばしば社会的な偏見にさらされやすく、法的な保護が特に重要です。母親に姓の使用と親権を与えることは、母親が単独で子供を養育する場合でも、子供の福祉を確保するための合理的な措置と言えます。

重要なのは、第176条は父親が認知した場合でも適用されるという点です。つまり、父親が自ら認知し、出生証明書に署名し、さらには認知を認める宣誓供述書を作成した場合でも、非嫡出子は依然として母親の姓を使用しなければなりません。これは、家族法が非嫡出子の姓に関する明確な原則を確立し、個別の事情による例外を認めないという強い意志を示しています。

モーセスゲルド事件の経緯:事実と争点

モーセスゲルド事件は、まさにこの家族法第176条の適用をめぐる争いでした。事件の経緯は以下の通りです。

  • 1989年12月2日、マリッサ・モーセスゲルドは未婚のまま男児を出産。
  • 父親と称するエレアザール・シリバン・カラサン(既婚の弁護士)は、出生証明書の情報提供者として署名し、子供の姓を「カラサン」と記載。
  • カラサン弁護士は、子供の父であることを認める宣誓供述書も作成。
  • 病院の担当者は、子供の姓を父親の姓にすることに難色を示し、モーセスゲルド自身が出生証明書をマンダルヨンの民事登録官事務所に提出。
  • 1989年12月28日、民事登録官事務所の担当者は、民事登録官長の回状第4号(家族法第176条に基づき、1988年8月3日以降に生まれた非嫡出子は母親の姓を使用すべきとする)を理由に登録を拒否。
  • カラサン弁護士は登録を求めて地方裁判所に職務執行命令(マンダマス)の申立てを行ったが、地裁はこれを棄却。
  • 控訴裁判所も地裁の判決を支持し、モーセスゲルドが最高裁判所に上告。

この事件の核心的な争点は、職務執行命令(マンダマス)によって、民事登録官に非嫡出子の出生証明書に父親の姓を登録させることができるか否かでした。モーセスゲルド側は、父親が認知しており、子供の福祉のためにも父親の姓を使用すべきであると主張しましたが、最高裁判所は家族法第176条の規定を重視し、申立てを棄却しました。

最高裁判所の判断:家族法第176条の絶対性

最高裁判所は、判決の中で家族法第176条の文言を強調し、その規定が明確かつ絶対的であることを指摘しました。判決は次のように述べています。「家族法第176条は、『非嫡出子は母親の姓を使用しなければならない』と規定している。これは、父親が認知しているか否かにかかわらず適用される規則である。したがって、民事登録官が、父親の同意があったとしても、非嫡出子の出生証明書に父親の姓を使用することを拒否したのは正当である。」

さらに、最高裁判所は、家族法が民法第366条(認知された自然子は父親の姓を使用する権利を有するとしていた)を事実上廃止したと判断しました。家族法は、子供の分類を嫡出子と非嫡出子に限定し、認知された自然子や法律上の自然子というカテゴリーを廃止したからです。これにより、非嫡出子の姓は一律に母親の姓となることが明確になりました。

最高裁判所は、職務執行命令(マンダマス)は法律で禁止されている行為を強制するものではないと結論付け、「職務執行命令は、法律で禁止されている行為の実行を強制するものではない」と判示しました。これは、家族法第176条が非嫡出子の姓に関する明確な法的根拠であり、これに反する登録を強制することはできないということを意味します。

実務上の影響:出生登録と養子縁組

モーセスゲルド事件の判決は、非嫡出子の出生登録において、母親の姓の使用が原則であり、父親の認知や同意があっても例外は認められないことを明確にしました。この判決は、民事登録官の実務に大きな影響を与え、出生登録手続きの統一性と予測可能性を高めました。

父親が自分の非嫡出子に自分の姓を名乗らせたい場合、法的に可能な方法は養子縁組です。判決も指摘しているように、「既婚の父親であっても、自分の非嫡出子を合法的に養子にすることができる。養子縁組の場合、子供は養親の嫡出子とみなされ、養親の姓を使用する権利を有する。」養子縁組は、法的な親子関係を確立し、子供に父親の姓と嫡出子としての法的地位を与えるための唯一の手段となります。

この判決は、非嫡出子の権利と父親の願望とのバランスをどのように取るかという難しい問題を示唆しています。家族法は、非嫡出子の保護と母親の権利を優先しましたが、父親が子供との関係を積極的に築きたいという願望も尊重されるべきです。養子縁組は、そのような願望を実現するための法的な枠組みを提供しますが、手続きの煩雑さや感情的な側面も考慮する必要があります。

主要な教訓

  • フィリピン家族法第176条により、非嫡出子は原則として母親の姓を使用する。
  • 父親が認知し、出生証明書に署名し、認知を認める宣誓供述書を作成した場合でも、この原則は変わらない。
  • 民事登録官は、家族法第176条に基づき、父親の姓を使用した出生登録を拒否する権利を有する。
  • 父親が非嫡出子に自分の姓を名乗らせたい場合、養子縁組が法的に可能な唯一の方法である。
  • 職務執行命令(マンダマス)は、法律で禁止されている行為(家族法第176条に反する出生登録)を強制するために使用することはできない。

よくある質問(FAQ)

  1. 質問:非嫡出子の出生証明書に父親の名前を記載することはできますか?
    回答:はい、父親の名前を出生証明書の父親欄に記載することは可能です。ただし、これは子供の姓を父親の姓にすることを意味するものではありません。
  2. 質問:父親が認知した場合、子供は自動的に父親の姓を使用できますか?
    回答:いいえ、家族法第176条により、認知の有無にかかわらず、非嫡出子は原則として母親の姓を使用します。
  3. 質問:父親が子供の姓を自分の姓に変更したい場合、どうすればよいですか?
    回答:父親が子供の姓を自分の姓に変更したい場合、養子縁組の手続きを行う必要があります。養子縁組が完了すると、子供は養親である父親の姓を使用することができます。
  4. 質問:母親が父親の姓を子供に使わせたい場合、どうすればよいですか?
    回答:法律上、非嫡出子は母親の姓を使用する義務があります。母親が父親の姓を子供に使わせたい場合でも、民事登録官は原則として母親の姓で登録します。父親の姓を使用するためには、養子縁組の手続きが必要になる場合があります。
  5. 質問:この判決は、出生日が1988年8月3日以前の非嫡出子にも適用されますか?
    回答:いいえ、家族法第176条は1988年8月3日以降に生まれた非嫡出子に適用されます。それ以前に生まれた非嫡出子の姓については、民法の規定が適用される可能性があります。
  6. 質問:職務執行命令(マンダマス)とは何ですか?
    回答:職務執行命令(マンダマス)とは、公務員が法律で義務付けられた特定の職務を遂行することを裁判所が命じる命令です。モーセスゲルド事件では、職務執行命令は民事登録官に出生登録を強制するために使用されましたが、最高裁判所は家族法第176条を理由にこれを認めませんでした。
  7. 質問:家族法第176条は改正される可能性はありますか?
    回答:家族法の改正は国会の権限であり、今後の社会状況や法的議論の変化によって改正される可能性はあります。しかし、現時点では家族法第176条は有効であり、非嫡出子の姓に関する原則として適用されています。

非嫡出子の姓に関する法的問題でお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。当事務所は、家族法に関する豊富な知識と経験を有しており、お客様の状況に合わせた最適な法的アドバイスを提供いたします。konnichiwa@asglawpartners.comまでメールでお問い合わせいただくか、お問い合わせページからご連絡ください。ASG Lawは、マカティ、BGC、そしてフィリピン全土のお客様をサポートいたします。





出典:最高裁判所電子図書館

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