尊属強姦における同意と強制力:フィリピン最高裁判所の判例解説
G.R. No. 129054, September 29, 1998
近年、#MeToo運動の高まりとともに、性的虐待に関する議論が活発化しています。特に、親族間における性的虐待、いわゆる尊属強姦は、被害者の心理的トラウマが深刻であり、社会全体で根絶を目指すべき犯罪です。フィリピンにおいても、尊属強姦は重大な犯罪として扱われ、厳しい刑罰が科せられます。本稿では、フィリピン最高裁判所の判例「PEOPLE OF THE PHILIPPINES, PLAINTIFF-APPELLEE, VS. ALEX BARTOLOME, ACCUSED-APPELLANT.」を基に、尊属強姦における「強制力」の解釈、被害者の沈黙、そして実務上の教訓について解説します。
尊属強姦における「強制力」の解釈
強姦罪は、刑法第335条で規定されており、暴行または脅迫を用いて性交を行う行為を指します。通常の強姦事件では、暴行や脅迫の存在が争点となることが多いですが、尊属強姦の場合、親子という特別な関係性が「強制力」の解釈に影響を与えます。本判例では、父親である被告人が娘に対して性的暴行を加えた事件であり、娘は当初抵抗しなかったものの、その後告訴に至りました。裁判所は、娘が抵抗しなかった理由として、父親の「道徳的優位性」と「脅迫」があったと認定しました。
フィリピン刑法第335条は、強姦罪について以下のように規定しています。
第335条 強姦罪 – 強姦罪は、以下の状況下で犯された場合、死刑を科すものとする:
(1) 犯行時に被害者が12歳未満である場合。
(2) 集団強姦の場合。
(3) 実親、養親、継親、後見人、三親等以内の血族または姻族、または被害者の親の事実婚配偶者が犯人である場合。
(4) 被害者が精神的または身体的障害者である場合。
(5) 凶器の使用を伴う場合。
(6) 犯行が被害者の住居内、または被害者の親族の面前で行われた場合。
本判例は、上記(3)に該当し、被害者が18歳未満であるため、死刑が適用される可能性のある事案でした。
事件の経緯:沈黙を破った少女の勇気
アレックス・バルトロメ被告は、娘のエレナに対し、1993年から1995年にかけて継続的に性的暴行を加えました。エレナは当時14歳から16歳であり、父親の暴力的な性格と脅迫により、長期間沈黙を守っていました。事件が発覚したのは、エレナが叔母に打ち明けたことがきっかけでした。叔母の助けを得て、エレナは警察に被害を届け、父親は逮捕されました。
地方裁判所は、被告人に対し死刑判決を言い渡しました。被告人はこれを不服として最高裁判所に上告しましたが、最高裁判所は地方裁判所の判決を支持し、死刑を確定しました。最高裁判所は、以下の点を重視しました。
- 被害者の証言の信用性:被害者の証言は具体的かつ一貫しており、信用できると判断されました。
- 強制力の存在:父親の道徳的優位性と脅迫により、被害者は抵抗することが困難であったと認定されました。
- 被害者の沈黙の理由:被害者が長期間沈黙していたのは、父親からの脅迫と暴力的な性格に対する恐怖によるものであり、不自然ではないと判断されました。
最高裁判所は判決文中で、被害者の供述を引用し、父親の暴力性と支配的な態度を強調しました。また、過去の判例を引用し、尊属強姦においては、通常の強姦事件よりも「強制力」の解釈を緩やかにすべきであるとの立場を示しました。
判決文からの引用:
「尊属強姦においては、父親の道徳的優位性と影響力が、暴力や脅迫の代わりとなる。父親の親権、憲法と法律が認める、支持し、強化する親権、そして子供たちが両親に対して従順であり、敬意と尊敬を払う義務から必然的にその優位性と影響力は生じる。そのような敬意と尊敬は、フィリピンの子供たちの心に深く根付いており、法律によって認められている。父親によるその両方の濫用は、娘の意志を屈服させ、父親が望むことは何でも娘に強いることができる。」
実務上の教訓:尊属強姦事件における弁護と支援
本判例は、尊属強姦事件における「強制力」の解釈、被害者の沈黙、そして裁判所の判断基準を示す重要な判例です。弁護士実務においては、以下の点に留意する必要があります。
- 被害者の心理的特性の理解:尊属強姦の被害者は、加害者である親への複雑な感情、罪悪感、羞恥心などから、被害を訴え出るまでに時間がかかる場合があります。弁護士は、被害者の心理的特性を理解し、適切な支援を行う必要があります。
- 証拠収集の重要性:尊属強姦事件では、直接的な暴行の証拠が残りにくい場合があります。被害者の証言の信用性を高めるため、周辺証拠(日記、手紙、第三者への相談記録など)を収集することが重要です。
- 裁判所の判断基準の把握:裁判所は、尊属強姦事件において、通常の強姦事件よりも「強制力」の解釈を緩やかにする傾向があります。弁護士は、過去の判例を分析し、裁判所の判断基準を把握しておく必要があります。
まとめと今後の展望
本判例は、尊属強姦という重大な犯罪に対し、裁判所が毅然とした態度で臨んでいることを示しています。尊属強姦は、被害者の心に深い傷跡を残し、その後の人生に大きな影響を与える可能性があります。社会全体で尊属強姦を根絶するためには、早期発見、被害者支援、そして加害者に対する厳罰化が必要です。弁護士は、尊属強姦事件の被害者の権利擁護、加害者に対する責任追及を通じて、社会正義の実現に貢献していく必要があります。
よくある質問 (FAQ)
- 尊属強姦とは具体的にどのような犯罪ですか?
尊属強姦とは、親族関係にある者(多くは父親)が、その親族(多くは娘)に対して行う強姦のことです。フィリピンでは、刑法第335条により、通常の強姦罪よりも重く処罰される場合があります。 - なぜ被害者はすぐに被害を訴えないことが多いのですか?
尊属強姦の被害者は、加害者である親への恐怖心、罪悪感、羞恥心などから、被害を訴え出るまでに時間がかかることが多いです。また、経済的な依存関係や、家族関係の崩壊を恐れる気持ちも、沈黙の理由となり得ます。 - 尊属強姦事件の裁判で、重要な証拠は何ですか?
被害者の証言が最も重要な証拠となります。その他、事件前後の被害者の精神状態を示す証拠、第三者への相談記録、加害者の暴力性を示す証拠なども重要となります。 - もし尊属強姦の被害に遭ってしまったら、どうすれば良いですか?
まずは信頼できる人に相談してください。家族、友人、学校の先生、カウンセラー、弁護士など、誰でも構いません。一人で悩まず、専門家の助けを求めることが大切です。 - 尊属強姦事件の加害者にはどのような刑罰が科せられますか?
フィリピンでは、尊属強姦は重罪であり、死刑または終身刑が科せられる可能性があります。刑罰の重さは、事件の状況や加害者の反省の有無などによって判断されます。
ASG Lawは、尊属強姦を含む性的虐待事件に関する豊富な経験と専門知識を有する法律事務所です。被害者の方の権利擁護、加害者に対する責任追及を全力でサポートいたします。お一人で悩まず、まずはご相談ください。
ご相談はこちら:konnichiwa@asglawpartners.com


Source: Supreme Court E-Library
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