不当に高額な違約金条項は裁判所が減額可能:契約における適正な損害賠償とは
G.R. No. 84813 & 84848 (1999年9月22日)
契約はビジネスの基盤ですが、契約違反は避けられない現実です。特に違約金条項を含む契約においては、その金額が争点となることが少なくありません。本稿では、フィリピン最高裁判所が違約金条項の減額を認めたドメル・トレーディング社対控訴裁判所事件(G.R. No. 84813 & 84848)を詳細に分析し、契約における損害賠償のあり方について解説します。この判例は、違約金条項が不当に高額である場合、裁判所がこれを減額できるという重要な原則を示しており、企業法務担当者や契約実務家にとって必読の内容です。
契約不履行と損害賠償責任:本判例の背景
ドメル・トレーディング社(以下「ドメル社」)は、NDC-NACIDA原材料公社(以下「NNRMC」)からの注文に基づき、buri midribsとラタンポールの納入契約を締結しました。NNRMCは信用状を開設しましたが、ドメル社は期日までに納品できず、NNRMCは損害賠償を請求しました。第一審裁判所はNNRMCの請求を認めましたが、控訴裁判所は違約金の額を減額しました。この決定を不服として、両社がそれぞれ上訴したのが本件です。
法的根拠:民法における違約金減額規定
フィリピン民法は、違約金条項について以下の規定を設けています。
民法第1229条
「債務者が主たる債務を一部履行し、又は不完全に履行した場合、裁判官は衡平に違約金を減額しなければならない。履行が全くない場合であっても、違約金が不当又は法外であるときは、裁判所はこれを減額することができる。」
民法第2227条
「違約金は、賠償金として意図されたものであるか、又は罰金として意図されたものであるかを問わず、不当又は法外である場合は、衡平に減額されなければならない。」
これらの条項は、契約の自由を尊重しつつも、当事者間の公平を確保するために、裁判所が不当な違約金を調整する権限を認めています。重要なのは、「不当又は法外」という基準です。裁判所は、契約の性質、当事者の交渉力、実際に発生した損害、その他の事情を総合的に考慮して、違約金の妥当性を判断します。
判例の分析:ドメル社事件の裁判所の判断
最高裁判所は、控訴裁判所が違約金を減額した判断を支持しました。裁判所は、NNRMCが主張する1日あたり2,000ペソの違約金は「過大かつ不当」であると認定し、これを150,000ペソに減額することが適切であると判断しました。裁判所の判断のポイントは以下の通りです。
- NNRMCの実際の損害の少なさ:NNRMCが立証できた実際の損害は、信用状の開設費用と修正費用のみであり、逸失利益やその他の損害は立証不十分と判断されました。
- 違約金条項の不均衡性:1日あたり2,000ペソという違約金は、契約金額や実際の損害と比較して、明らかに高額であり、ドメル社に過大な負担を強いるものでした。
- NNRMCの検査義務の懈怠:裁判所は、NNRMCが検査義務を怠ったことが、ドメル社の履行遅延を一部招いた可能性も考慮に入れたと解釈できます(ただし、裁判所はNNRMCの検査義務懈怠が違約金減額の直接的な理由とはしていません)。
最高裁判所は判決の中で、控訴裁判所の判断を引用し、「原審裁判所が被告上訴人に対し、908,966.72ペソの損害賠償責任を認めたのは誤りである。上記の損害賠償額は、項目別になっておらず、様々な種類の損害が含まれており、過大であるため、合理的な範囲に減額する必要がある。」と述べています。
さらに、「原告被上訴人のホセ・ビクトリオソ氏が証言した、もし上訴人が問題の商品を供給できていれば、被上訴人が実現できたであろう利益である206,943.00ペソの逸失利益については、我々は、そのような期待利益の額は非常に推測的かつ投機的であると考える。(中略)前述の利益に関する証言は、そのような巨額の利益がどのようにして可能になったのかに関する必要な詳細を全く欠いている。(中略)実際の、補償的、および派生的な損害は立証されなければならず、推定することはできないという原則は確立されている。(中略)本件のように、損害に関する証拠が薄弱で不十分な場合、損害賠償は認められない。」と続け、NNRMCの損害立証の不十分さを指摘しました。
実務への影響と教訓:違約金条項をめぐる法的リスク
本判例は、フィリピンにおける契約実務、特に違約金条項の設計と運用において、重要な教訓を示唆しています。
- 違約金条項の適正性:違約金条項は、契約違反によって実際に生じる可能性のある損害に見合った、合理的な金額で設定する必要があります。過度に高額な違約金は、裁判所によって減額されるリスクがあります。
- 損害立証の重要性:契約違反による損害賠償を請求する場合、具体的な損害額を立証することが不可欠です。逸失利益などの間接損害についても、合理的な根拠と計算方法を示す必要があります。
- 契約交渉における交渉力:契約交渉においては、違約金条項についても十分に交渉し、自社にとって不利な条項は修正を求めるべきです。
- 検査義務の明確化:商品の品質検査や受入検査に関する義務は、契約書で明確に定めることが重要です。ただし、本判例は、検査義務の懈怠が当然に違約金減額の理由となるわけではないことを示唆しています。
まとめ:契約における損害賠償の原則
ドメル社事件は、違約金条項が契約の拘束力を持つ一方で、その金額が不当に高額である場合は、裁判所が介入して適正な水準に調整できることを明確にしました。企業は、契約書を作成する際、違約金条項の適正性を慎重に検討し、紛争予防に努めることが重要です。また、万が一契約紛争が発生した場合は、早期に専門家(弁護士)に相談し、適切な法的アドバイスを受けることが不可欠です。
よくある質問 (FAQ)
- Q: 違約金条項は必ず有効ですか?
A: いいえ、違約金条項が不当に高額である場合、裁判所によって減額または無効とされることがあります。フィリピン民法は、裁判所に違約金減額の権限を認めています。 - Q: どのような場合に違約金が「不当に高額」と判断されますか?
A: 裁判所は、契約の性質、当事者の交渉力、実際に発生した損害、その他の事情を総合的に考慮して判断します。実際の損害額と比較して著しく高額な違約金は、不当と判断される可能性が高くなります。 - Q: 違約金を減額してもらうためには、どのような証拠が必要ですか?
A: 違約金を減額してもらうためには、違約金が不当に高額であること、実際の損害額が少ないこと、その他の減額すべき事情があることを立証する必要があります。 - Q: 契約書に違約金条項がない場合、損害賠償は請求できませんか?
A: いいえ、違約金条項がなくても、契約違反によって生じた損害の賠償を請求できます。ただし、損害額を具体的に立証する必要があります。 - Q: 契約書作成時に弁護士に相談するメリットは?
A: 弁護士は、契約書の条項が法的リスクを適切に管理できているか、自社に不利な条項が含まれていないかなどを専門的な視点からチェックし、アドバイスを提供できます。紛争予防のために、契約書作成段階から弁護士に相談することをお勧めします。
契約に関する法的問題でお困りの際は、ASG Law Partnersにご相談ください。当事務所は、契約書の作成・レビューから、契約紛争の解決まで、幅広いリーガルサービスを提供しています。経験豊富な弁護士が、お客様のビジネスを強力にサポートいたします。
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Source: Supreme Court E-Library
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