チャーター契約におけるDeadfreightとDemurrageの責任:契約条項と港湾慣習の重要性
G.R. No. 96453, 1999年8月4日
はじめに
現代のビジネスにおいて、商品輸送は不可欠な要素です。特に海運業においては、チャーター契約が頻繁に利用され、その契約内容が企業の収益に大きく影響します。しかし、チャーター契約には専門的な用語や複雑な法的概念が含まれており、契約当事者間での解釈の相違や紛争が生じることも少なくありません。今回分析する最高裁判決、NATIONAL FOOD AUTHORITY対HONGFIL SHIPPING CORPORATION事件は、チャーター契約におけるDeadfreight(不積載貨物運賃)とDemurrage(滞船料)の責任範囲を明確にした重要な判例です。この判例を理解することで、企業はより有利な契約交渉を行い、将来的な紛争を予防するための知識を深めることができます。
法的背景:チャーター契約、Deadfreight、Demurrageとは
チャーター契約とは、船舶所有者と荷送人(チャーター者)の間で締結される、船舶の全部または一部を一定期間または特定の航海のために貸し出す契約です。チャーター契約は大きく分けて、船舶のみを貸し出す「裸傭船契約(Bareboat Charter)」と、船舶と乗組員を合わせて貸し出す「傭船契約(Time Charter/Voyage Charter)」があります。本件は、後者の傭船契約、特に航海傭船契約(Voyage Charter)に該当します。
航海傭船契約において、荷送人は一定量の貨物を船舶に積み込むことを約束します。しかし、約束した貨物量を積み込めなかった場合、荷送人は「Deadfreight(不積載貨物運賃)」を支払う義務が生じることがあります。Deadfreightとは、契約で定められた貨物量に満たない分に対する運賃であり、船舶所有者の逸失利益を補填するものです。日本の商法680条にも同様の規定が存在し、国際的な海運慣習としても広く認められています。
一方、「Demurrage(滞船料)」とは、船舶の積み込みまたは荷降ろしのために契約で定められた期間(Laydays)を超過した場合に、荷送人が船舶所有者に支払う遅延損害金です。Laydaysは契約で明示的に定められることもあれば、「Customary Quick Dispatch(慣習的な迅速な荷役)」のように曖昧な表現が用いられることもあります。本件では、「Customary Quick Dispatch」という条項が問題となりました。商法656条は、チャーター契約に荷役期間の定めがない場合、港湾の慣習に従うこと、および慣習的な期間を超過した場合にDemurrageを請求できることを規定しています。
事件の経緯:NFA対Hongfil Shipping Corp事件
本件は、フィリピン国家食糧庁(NFA)がHongfil Shipping Corporation(Hongfil)との間で締結した船舶傭船契約に端を発します。NFAはHongfilに対し、カガヤン・デ・オロ市からマニラまで20万袋のトウモロコシを輸送するよう依頼しました。契約書には、運賃、積地、揚地、Laydays(「Customary Quick Dispatch」と記載)、Demurrage/Dispatch(「NONE」と記載)などの条項が定められていました。
船舶はカガヤン・デ・オロ市に到着し、荷役作業が開始されましたが、港湾労働者のストライキやマニラ港でのバース不足などにより、積込・荷降ろしに大幅な遅延が発生しました。実際にマニラ港で荷揚げされたトウモロコシは166,798袋に留まり、NFAはHongfilに対し、実際に荷揚げされた分の運賃のみを支払いました。これに対し、HongfilはNFAに対し、Deadfreight(不積載貨物運賃)とDemurrage(滞船料)を請求する訴訟を提起しました。
第一審の地方裁判所はHongfilの請求を認めましたが、控訴審の控訴裁判所はDemurrageの請求を認めませんでした。そして、最高裁判所は控訴裁判所の判断をほぼ支持し、Deadfreightの請求は認めたものの、Demurrageの請求は認めませんでした。最高裁判所は、Demurrageに関する判断において、契約書の「Demurrage/Dispatch: NONE」という条項を重視しました。裁判所は、「契約条項が明確であり、当事者の意図に疑いの余地がない場合、条項の文言通りの意味が支配的である」という原則に基づき、「Demurrage: NONE」の条項はHongfilがDemurrage請求権を放棄したと解釈しました。また、Laydaysに関する「Customary Quick Dispatch」という条項についても、遅延が「合理的な時間」の範囲内であったと判断しました。裁判所の判決理由の一部を以下に引用します。
「契約書に『Demurrage/Dispatch: NONE』という明示的な条項が含まれていることを考慮すると、当事者はこの条項の文字通りの意味を適用する以外に選択肢はない。原則として、本件のように、契約条件が明確であり、契約当事者の意図について疑いの余地がない場合、その条項の文字通りの意味が支配的である。」
「『Laydays(積込および荷降ろし):Customary Quick Dispatch』という規定は、貨物の積込および荷降ろしが合理的な期間内に行われるべきであることを意味する。港湾の慣習および慣行に従って、相当な注意が払われるべきである。積込および荷降ろしの時点における状況は、『Customary Quick Dispatch』の決定において考慮されるべきである。」
実務上の教訓:チャーター契約締結における注意点
本判決は、チャーター契約を締結する企業にとって、以下の重要な教訓を与えてくれます。
- 契約条項の明確化の重要性:DeadfreightやDemurrageに関する条項は、契約書に明確かつ具体的に記載することが不可欠です。「NONE」や「Customary Quick Dispatch」のような曖昧な表現は、後々の紛争の原因となり得ます。特にDemurrageについては、具体的な金額や計算方法、Laydaysの起算点などを詳細に定めるべきです。
- 港湾慣習の理解:Laydaysを「Customary Quick Dispatch」とする場合、港湾の慣習を十分に理解しておく必要があります。港湾の混雑状況、荷役作業の標準的な時間、ストライキのリスクなどを考慮し、合理的なLaydaysを設定することが重要です。必要に応じて、専門家のアドバイスを受けることも検討すべきでしょう。
- リスク管理と保険:海運業には、天候不良、港湾の混雑、ストライキ、船舶の故障など、予期せぬリスクがつきものです。これらのリスクに備え、適切な保険に加入することや、契約書に不可抗力条項を盛り込むなどのリスク管理策を講じることが重要です。
- 交渉力と専門知識:チャーター契約は複雑な法律問題を含むため、契約交渉においては専門的な知識と交渉力が求められます。不利な契約条件を避けるためには、海運法務に精通した弁護士や専門家を交渉に加えることを検討すべきです。
よくある質問(FAQ)
- 質問1:Deadfreightはどのような場合に発生しますか?
回答:Deadfreightは、チャーター契約で約束した貨物量を荷送人が積み込めなかった場合に発生します。これは、船舶所有者が契約に基づいて船舶を準備したにもかかわらず、荷送人の都合で貨物が積み込まれなかった場合に、船舶所有者の逸失利益を補填するためのものです。
- 質問2:Demurrageはどのような場合に発生しますか?
回答:Demurrageは、チャーター契約で定められたLaydays(荷役期間)を超過して船舶が港に滞留した場合に発生します。これは、Laydaysを超過した期間に対する遅延損害金であり、船舶所有者の損害を補填するものです。
- 質問3:「Customary Quick Dispatch」とは具体的にどのような意味ですか?
回答:「Customary Quick Dispatch」とは、「慣習的な迅速な荷役」という意味であり、Laydaysを曖昧に表現したものです。具体的なLaydaysは、港湾の慣習や当時の状況によって判断されます。紛争を避けるためには、Laydaysを具体的な日数や時間で定めることが望ましいです。
- 質問4:チャーター契約でDemurrageを「NONE」と記載した場合、Demurrageを請求することは絶対に不可能ですか?
回答:最高裁判所の判決によれば、「Demurrage: NONE」と記載された場合、Demurrage請求権は放棄されたと解釈される可能性が高いです。ただし、契約締結に至る経緯や当事者の意図によっては、例外的にDemurrageが認められる余地も完全に否定されるわけではありません。しかし、原則として「NONE」と記載された場合は請求は難しいと考えるべきです。
- 質問5:チャーター契約に関する紛争が発生した場合、どのような解決方法がありますか?
回答:チャーター契約に関する紛争は、交渉、調停、仲裁、訴訟などの方法で解決することができます。まずは当事者間で誠実に交渉し、合意による解決を目指すべきです。交渉が難航する場合は、第三者機関による調停や仲裁を検討することも有効です。最終的な解決手段としては、裁判所に訴訟を提起することになります。
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Source: Supreme Court E-Library
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