不正な差止命令による損害賠償請求:保証会社はいつ責任を負うのか?

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差止命令が誤っていた場合、保証会社は損害賠償責任を負う

最高裁判所判決 G.R. No. 110086, 1999年7月19日

ビジネス紛争や訴訟において、一方当事者が相手方の特定の行為を一時的に差し止めるために差止命令を求めることはよくあります。差止命令は、係争中の権利が侵害されるのを防ぐための強力な法的手段ですが、誤って発令された場合、相手方に重大な損害を与える可能性があります。この損害を担保するために、差止命令を求める当事者は、通常、保証会社が発行する保証状(差止保証)を裁判所に提出する必要があります。では、差止命令が最終的に不当と判断された場合、保証会社はどこまで責任を負うのでしょうか?

本稿では、フィリピン最高裁判所のパラマウント保険会社対控訴院・ダグパン電力会社事件(G.R. No. 110086)を詳細に分析し、差止保証における保証会社の責任範囲について解説します。この判例は、差止保証の法的性質、保証会社のデュープロセス権、および損害賠償請求の手続きに関する重要な指針を提供します。

差止保証の法的根拠とデュープロセス

差止保証は、フィリピン民事訴訟規則第58条第4項(b)に規定されています。同条項は、差止命令の発令を求める申立人は、裁判所が定める金額の保証状を裁判所に提出しなければならないと定めています。この保証状は、差止命令によって損害を被る可能性のある相手方のために発行され、裁判所が最終的に申立人に差止命令を受ける権利がないと判断した場合に、相手方の損害を賠償することを保証するものです。

規則第57条第20項は、不当な差止命令による損害賠償請求の手続きを定めています。この規定によれば、損害賠償請求は、裁判または上訴が確定する前、あるいは判決が執行可能になる前に、保証義務者またはその保証人に対して通知の上、申し立てる必要があります。損害賠償は、適切な審理を経て初めて認められ、本案判決に含める必要があります。重要なのは、保証会社も損害賠償請求に関する審理に「参加し、意見を述べる機会」を与えられる必要があるということです。これは、保証会社がデュープロセス(適正な法手続き)の権利を有することを意味します。

最高裁判所は、フィリピン・チャーター保険会社対控訴院事件(179 SCRA 468)などの過去の判例において、保証会社にデュープロセスを保障することの重要性を強調してきました。単に差止命令の申立人が訴訟に敗訴したというだけでは、保証会社の責任は確定しません。保証会社は、損害賠償請求に関する審理において、自己の責任範囲について弁明する機会を与えられなければなりません。

パラマウント保険会社事件の経緯

パラマウント保険会社事件は、ホテル経営会社マカドア・ファイナンス・アンド・インベストメント社(マカドア)と電力会社ダグパン電力会社(デコープ)の間の電力供給契約に関する紛争から始まりました。デコープは、マカドアのホテルへの電力供給メーターの不正操作を発見し、修正請求書を発行しましたが、マカドアは支払いを拒否しました。そのため、デコープはホテルの電力供給を停止しました。

これに対し、マカドアはデコープを相手取り、差止命令の申立てを含む損害賠償訴訟を提起しました。マカドアは、パラマウント保険会社を含む複数の保証会社から差止保証状を提出し、裁判所はデコープに対し、ホテルへの電力供給を継続し、供給停止を差し控えるよう命じる差止命令を発令しました。

第一審の地方裁判所は、審理の結果、デコープ勝訴の判決を下し、マカドアの請求を棄却しました。裁判所は、マカドアに対し、未払い電気料金、精神的損害賠償、懲罰的損害賠償、弁護士費用、訴訟費用をデコープに支払うよう命じました。さらに、裁判所は、これらの損害賠償について、マカドアが提出した保証状を発行した保証会社も連帯して責任を負うと判断しました。マカドアはこの判決を不服として上訴しませんでしたが、パラマウント保険会社は控訴院に上訴しました。

パラマウント保険会社は、控訴審において、以下の点を主張しました。

  • 保証会社はデュープロセスを侵害された。
  • 規則57条20項および規則58条9項に定める手続きが遵守されなかった。
  • 損害賠償責任を負うべき証拠が提示されていない。

控訴院は、パラマウント保険会社の主張を認めず、第一審判決を支持しました。パラマウント保険会社は、さらに最高裁判所に上訴しました。

最高裁判所における審理の焦点は、パラマウント保険会社がデュープロセスを侵害されたか否か、すなわち、保証状に基づく責任を確定するための十分な証拠があったか否かでした。

最高裁判所は、以下の理由から、パラマウント保険会社の上訴を棄却し、控訴院の判決を支持しました。

  • パラマウント保険会社は、損害賠償請求に関する審理に弁護士を通じて参加し、意見を述べる機会が与えられていた。
  • 規則57条20項は、損害賠償請求のために必ずしも別途の審理を行うことを義務付けているわけではない。重要なのは、保証会社に通知と弁明の機会が与えられていることである。
  • パラマウント保険会社が発行した差止保証は、差止命令によって生じたすべての損害を担保するものであり、損害が発生した時期を限定するものではない。

裁判所は、パラマウント保険会社が審理に参加していた事実、および規則の解釈に基づき、デュープロセスの侵害はなかったと判断しました。また、差止保証は、差止命令によって生じたすべての損害を包括的に担保するものであると解釈しました。

実務上の影響と教訓

パラマウント保険会社事件の判決は、差止保証の実務において重要な意味を持ちます。この判例から得られる主な教訓は以下のとおりです。

重要な教訓

  • 保証会社のデュープロセス権: 差止保証における保証会社も、損害賠償請求に関する審理において、デュープロセス(適正な法手続き)の権利を有します。保証会社は、通知を受け、審理に参加し、意見を述べる機会を与えられなければなりません。
  • 損害賠償請求の手続き: 規則57条20項は、損害賠償請求のために必ずしも別途の審理を行うことを義務付けているわけではありません。本案審理の中で損害賠償請求に関する証拠が提出され、保証会社が審理に参加する機会が与えられていれば、規則の要件は満たされます。
  • 差止保証の責任範囲: 差止保証は、差止命令によって生じたすべての損害を担保するものであり、損害が発生した時期を限定するものではありません。保証会社は、差止命令の発令時から訴訟終結までの損害だけでなく、訴訟提起前の損害についても責任を負う可能性があります。
  • 保証契約の重要性: 企業や個人は、差止命令に関連する保証契約を締結する際に、保証会社の責任範囲を十分に理解しておく必要があります。保証契約の内容を精査し、不明な点があれば専門家(弁護士など)に相談することが重要です。

この判例は、差止命令を求める側、差止命令を受ける側、そして保証会社を含むすべての関係者にとって、差止保証の法的性質と責任範囲を理解する上で不可欠なものです。特に、保証会社は、デュープロセス権を適切に行使し、損害賠償請求に関する審理に積極的に参加することが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1: 差止保証とは何ですか?

A1: 差止保証とは、差止命令の発令を求める申立人が、差止命令によって相手方に損害が発生した場合に、その損害を賠償することを保証するために裁判所に提出する保証状です。通常、保証会社が発行します。

Q2: 保証会社はどのような場合に責任を負いますか?

A2: 保証会社は、裁判所が最終的に差止命令の申立人に差止命令を受ける権利がないと判断した場合に、差止命令によって相手方に生じた損害について責任を負います。

Q3: 損害賠償請求の手続きは?

A3: 損害賠償請求は、裁判または上訴が確定する前、あるいは判決が執行可能になる前に、保証義務者またはその保証人に対して通知の上、申し立てる必要があります。適切な審理を経て、損害賠償額が決定されます。

Q4: 保証会社はデュープロセスを侵害されたと主張できるのはどのような場合ですか?

A4: 保証会社が損害賠償請求に関する審理に通知されず、参加し、意見を述べる機会を与えられなかった場合、デュープロセスを侵害されたと主張できる可能性があります。ただし、審理に参加する機会が与えられていた場合、単に別途の審理が行われなかったというだけでは、デュープロセスの侵害とは認められない傾向にあります。

Q5: 差止保証の金額はどのように決定されますか?

A5: 差止保証の金額は、裁判所が、差止命令によって相手方に発生する可能性のある損害額を考慮して決定します。具体的な金額は、事案ごとに異なります。

Q6: 差止保証契約を締結する際の注意点は?

A6: 差止保証契約を締結する際には、保証会社の責任範囲、保証期間、免責条項などを十分に確認することが重要です。不明な点があれば、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

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