フィリピン労働法:請負契約における正規雇用と解雇手当 – メガスコープ対NLRC事件解説

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請負労働者の正規雇用:長期勤務は契約形態を超える権利を付与する

G.R. No. 109224, 1997年6月19日 – メガスコープ・ゼネラル・サービシーズ対国家労働関係委員会

企業の多くは、業務の一部を外部の請負業者に委託することで、コスト削減や専門性の活用を図っています。しかし、請負契約を利用する場合でも、労働者の権利保護は不可欠です。特に、長期間にわたって勤務する労働者の雇用形態が、契約の形式にかかわらず「正規雇用」とみなされる場合があることは、企業経営者にとって重要なポイントです。

本稿では、フィリピン最高裁判所のメガスコープ・ゼネラル・サービシーズ対国家労働関係委員会(NLRC)事件の判決を基に、請負契約における労働者の正規雇用 status、そして不当解雇と解雇手当の問題について解説します。この判例は、企業が外部委託契約を利用する際に、労働法上の義務をどのように遵守すべきか、具体的な指針を示唆しています。

本判例の背景:請負労働者の解雇と解雇手当請求

メガスコープ・ゼネラル・サービシーズ社(以下「メガスコープ社」)は、総合サービスを請け負う企業です。同社は、システム・アンド・ストラクチャーズ社(SSI)との間で景観整備契約を締結し、ナショナル・パワー・コーポレーション(NPC)の住宅地建設プロジェクトに労働者を派遣していました。原告である19名の労働者(庭師、助手、保守作業員)は、1977年から1991年にかけてメガスコープ社に雇用され、NPCの現場で働いていました。

しかし、NPCとの契約終了に伴い、メガスコープ社は労働者との雇用契約を終了しました。これに対し、労働者側は不当解雇であるとして、解雇手当、未払い賃金、サービス・インセンティブ・リーブ、祝日手当などを請求する訴訟を提起しました。

正規雇用 vs. 請負契約:フィリピン労働法における雇用形態の区分

フィリピン労働法では、雇用形態は大きく「正規雇用(Regular Employment)」と「非正規雇用(Casual Employment)」に分けられます。労働法第280条は、正規雇用について以下のように規定しています。

「書面による合意に反する規定、および当事者の口頭による合意にかかわらず、雇用が正規雇用とみなされるのは、従業員が雇用者の通常の事業または取引において通常必要または望ましい活動を行うために雇用された場合である。ただし、雇用が特定のプロジェクトまたは事業のために固定されており、その完了または終了が従業員の雇用時に決定されている場合、または実施される作業またはサービスが季節的な性質のものであり、雇用が季節の期間である場合を除く。」

この条文からわかるように、雇用契約の形式が「請負契約」であっても、以下の2つの条件を満たす場合、労働者は正規雇用とみなされる可能性があります。

  1. その業務が雇用主の通常の事業に必要不可欠であること
  2. 1年以上の勤務実績があること(継続または断続的を問わず)

重要なのは、契約期間や雇用形態の名称ではなく、業務内容と継続勤務の実態によって正規雇用 status が判断される点です。企業が請負契約を利用する場合でも、実質的に正規雇用とみなされる労働者が存在しうることを認識しておく必要があります。

最高裁判所の判断:実質的な雇用関係と正規雇用の認定

本件において、最高裁判所は、以下の点を根拠に、労働者とメガスコープ社との間に実質的な雇用関係が存在し、労働者は正規雇用 status を有すると判断しました。

  • 雇用主としての支配力: メガスコープ社は労働者の採用、賃金支払い、解雇の権限を持ち、労働者の業務遂行を管理する権限を有していた。
  • 業務の継続性: 労働者は長年にわたり、メガスコープ社の主要な事業である景観整備サービスに従事しており、その業務は企業の事業運営に不可欠であった。
  • メガスコープ社の自認: メガスコープ社自身も、訴訟において労働者が自社の従業員であることを認めていた。

最高裁判所は、メガスコープ社が労働者を特定のプロジェクトのために雇用した「プロジェクト雇用」であるという主張を退けました。なぜなら、メガスコープ社は、プロジェクト雇用であることを証明する雇用契約書や記録を提出しなかったからです。裁判所は、労働者が長期間にわたり継続的に業務に従事していた事実を重視し、契約の形式ではなく実質的な雇用関係に基づいて判断を下しました。

判決文からの引用:

「請願者(メガスコープ社)は、被請願人(労働者)が特定のNPC「プロジェクト」のために雇用されたことを知っていたため、NPCがバガックとモロンでの操業を停止したとき、被請願人は当然のことながら雇用が終了することを知っていたと主張している。しかし、事業の性質を考慮すると、請願者はNPCの保守作業員を供給する目的のみで被請願人を雇用したとは推定されない。請願者は、NPCと契約を締結する前から、システム・ストラクチャーズ社(SSI)との契約から労働者を雇用していた。請願者の主張は、被請願人が実際にプロジェクト従業員であることが立証されていれば、支持できたであろう。」

さらに、最高裁判所は、NLRCの判決の一部を覆し、労働者の解雇は不当解雇ではないとした判断を誤りであるとしました。裁判所は、メガスコープ社がNPCとの契約終了後、事業を継続しているにもかかわらず、労働者を他のプロジェクトに再配置しなかったことを「建設的解雇(Constructive Dismissal)」と認定しました。建設的解雇とは、雇用継続が不可能または著しく困難な状況に追い込まれることで、労働者が辞職せざるを得ない状況を指します。

企業経営への示唆:請負契約と労働法遵守

本判例は、企業が請負契約を利用する際に、以下の点に留意すべきであることを示唆しています。

  • 契約形態と実態の一致: 請負契約を締結する場合でも、業務内容や指揮命令関係によっては、実質的に雇用関係が認められる可能性がある。契約書だけでなく、実際の業務遂行状況を適切に管理する必要がある。
  • 長期勤務者の正規雇用化: 長期間にわたり継続的に勤務する労働者は、契約形態にかかわらず正規雇用とみなされるリスクがある。正規雇用への転換や適切な労働条件の整備を検討する必要がある。
  • 解雇時の法的義務: 請負契約の終了に伴い労働者を解雇する場合でも、不当解雇とみなされるリスクがある。解雇の正当な理由と適切な手続きを遵守する必要がある。建設的解雇とみなされないよう、再配置の検討や解雇手当の支払いを検討すべきである。

重要な教訓

  • 請負契約の名目であっても、長期間継続して企業の事業に不可欠な業務に従事している労働者は、正規雇用とみなされる可能性が高い。
  • 契約書の内容だけでなく、実際の指揮命令関係や業務遂行状況が、雇用関係の判断において重視される。
  • 請負契約終了時の労働者の解雇は、不当解雇とみなされるリスクがある。解雇を回避するためには、再配置や解雇手当の支払いを検討する必要がある。

よくある質問 (FAQ)

  1. 質問:請負契約で雇用した労働者を解雇する場合、解雇手当は必要ですか?
    回答: 請負契約であっても、労働者が正規雇用とみなされる場合、解雇には正当な理由が必要であり、不当解雇と判断された場合は解雇手当の支払い義務が生じます。本判例のように、建設的解雇とみなされる場合も解雇手当が必要となることがあります。
  2. 質問:請負契約と雇用契約の違いは何ですか?
    回答: 請負契約は、業務の完成を目的とする契約であり、請負業者は自らの裁量で業務を遂行します。一方、雇用契約は、労働者が雇用主の指揮命令下で労働力を提供する契約です。しかし、実態として雇用関係が認められる場合、請負契約であっても労働法が適用されます。
  3. 質問:労働者をプロジェクト雇用として契約する場合、どのような点に注意すべきですか?
    回答: プロジェクト雇用は、特定のプロジェクトの完了を条件とする雇用形態です。プロジェクト雇用契約を締結する場合は、契約書にプロジェクトの内容、期間、終了条件などを明確に記載し、プロジェクトの性質に合致した雇用管理を行う必要があります。証拠となる雇用契約書や記録を保管することが重要です。
  4. 質問:本判例は、企業が請負契約を利用することを否定しているのですか?
    回答: いいえ、本判例は請負契約の利用自体を否定しているわけではありません。しかし、請負契約を利用する場合でも、労働法上の義務を遵守する必要があることを明確にしています。特に、長期勤務者の権利保護、不当解雇の禁止、解雇手当の支払いなどは、企業が留意すべき重要なポイントです。
  5. 質問:正規雇用と非正規雇用の区別が曖昧な場合、どのように判断すればよいですか?
    回答: 正規雇用と非正規雇用の区別は、契約の形式だけでなく、業務内容、勤務期間、指揮命令関係など、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。判断に迷う場合は、労働法の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

本稿は、メガスコープ対NLRC事件判決を基に、請負契約における労働者の正規雇用と解雇の問題について解説しました。企業の皆様が、労働法を遵守し、健全な労務管理を行う一助となれば幸いです。

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