南シナ海における天然資源探査:フィリピン憲法上の制限と企業の役割

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フィリピンの天然資源探査における国家の完全な管理と監督の重要性

G.R. No. 182734, June 27, 2023

フィリピンの天然資源は、国家の未来を左右する重要な要素です。しかし、その探査、開発、利用(EDU)は、憲法によって厳格に管理されています。今回取り上げる最高裁判所の判決は、南シナ海における共同海洋地震探査事業(JMSU)が憲法に違反すると判断したもので、その背景と実務上の影響について詳しく解説します。

はじめに

フィリピンの天然資源、特に南シナ海における石油資源の探査は、常に政治的、経済的な関心の的です。しかし、その探査活動が憲法に準拠しているかどうかは、国民全体の利益に大きく関わる問題です。本件は、バヤン・ムナ党の代表らが、グロリア・マカパガル・アロヨ大統領(当時)および関連機関を相手取り、JMSUの合憲性を争ったものです。最高裁判所は、JMSUが憲法第12条第2項に違反すると判断し、無効を宣言しました。

法的背景

フィリピン憲法第12条第2項は、天然資源の探査、開発、利用(EDU)は、国家の完全な管理と監督の下で行われなければならないと規定しています。この規定は、フィリピンの天然資源が外国企業の利益のために乱用されることを防ぐための重要な保護措置です。具体的には、以下の4つの方法でEDUを行うことが認められています。

  • 国家が直接行う
  • フィリピン国民または適格な企業との共同生産、共同事業、または生産分与契約
  • 適格なフィリピン国民による小規模利用
  • 大統領が外国企業と締結する技術または財政援助に関する契約

本件で問題となったJMSUは、中国海洋石油総公司(CNOOC)、ベトナム石油ガス公社(PETROVIETNAM)、およびフィリピン国営石油会社(PNOC)の間で締結されたもので、南シナ海における石油資源の可能性を調査するための地震探査事業でした。

憲法第12条第2項の関連条項を以下に引用します。

「第2条 公有地のすべての土地、水、鉱物、石炭、石油、その他の鉱油、すべての潜在的エネルギー、漁業、森林または木材、野生生物、動植物相、その他の天然資源は、国家が所有する。農業用地を除き、他のすべての天然資源は譲渡してはならない。天然資源の探査、開発、利用は、国家の完全な管理と監督の下で行われなければならない。」

事件の経緯

2008年5月21日、バヤン・ムナ党の代表らは、JMSUの合憲性を争うため、最高裁判所に直接訴訟を提起しました。彼らは、JMSUが憲法に違反し、フィリピンの主権を侵害すると主張しました。最高裁判所は、JMSUの目的が南シナ海の石油資源の可能性を調査することであり、これは憲法上の「探査」に該当すると判断しました。そして、JMSUが憲法で認められたEDUの4つの方法のいずれにも該当しないため、違憲であると結論付けました。

最高裁判所は、以下の点を指摘しました。

  • JMSUは、外国企業によるフィリピンの天然資源探査を許可している
  • PNOCが、CNOOCおよびPETROVIETNAMに、石油の存在に関する情報を共有することを許可している
  • これにより、国家が地震探査から得られたすべての情報を完全に管理できなくなった

政府側は、裁判所の階層制の違反、訴訟の無意味さ、原告の訴訟資格の欠如、外交および経済政策に関する大統領の権限への侵害などを主張し、最高裁判所の判決の再考を求めました。しかし、最高裁判所はこれらの主張を退け、原判決を支持しました。

本件における主要な争点は以下の2点でした。

  1. 手続き上、最高裁判所は訴訟を正しく受理したか
  2. 実質上、JMSUは合憲であるか

最高裁判所は、訴訟を受理したことは正当であり、JMSUは違憲であるとの判断を下しました。

最高裁判所は、「本件は、憲法の重大な違反、状況の例外的な性格、および重要な公共の利益が含まれているため、裁判所は訴訟を受理する権限を有する」と述べました。

さらに、「JMSUは、外国企業が国の天然資源の探査に参加することを許可しているため、憲法に違反する」と結論付けました。

実務上の影響

本判決は、フィリピンにおける天然資源探査に関する今後の契約に大きな影響を与える可能性があります。特に、外国企業が関与する契約については、憲法の規定を厳格に遵守する必要があることが明確になりました。企業は、契約を締結する前に、憲法上の要件を十分に理解し、遵守するための措置を講じる必要があります。

本判決は、フィリピンの天然資源の探査、開発、利用(EDU)に関する国家の主権を再確認するものであり、今後の政策立案においても重要な指針となるでしょう。

主な教訓

  • 外国企業がフィリピンの天然資源探査に関与する場合、憲法第12条第2項を厳格に遵守する必要がある
  • 大統領自身が契約を締結し、議会に通知する必要がある
  • 国家は、探査から得られたすべての情報を完全に管理する必要がある
  • 企業は、契約を締結する前に、憲法上の要件を十分に理解し、遵守するための措置を講じる必要がある

よくある質問

Q: JMSUのような契約は、今後一切締結できないのでしょうか?

A: いいえ、そのようなことはありません。ただし、憲法第12条第2項に規定された要件をすべて満たす必要があります。特に、大統領自身が契約を締結し、議会に通知する必要があります。

Q: 外国企業がフィリピンの天然資源探査に関与する方法はありますか?

A: はい、あります。憲法第12条第2項に規定された方法、例えば、技術または財政援助契約を通じて関与することができます。ただし、国家が探査活動を完全に管理する必要があります。

Q: 本判決は、すでに締結されている他の契約に影響を与えますか?

A: はい、影響を与える可能性があります。すでに締結されている契約についても、憲法に準拠しているかどうかを再評価する必要があります。違憲と判断された場合、契約は無効となる可能性があります。

Q: 企業が憲法上の要件を遵守するために、どのような措置を講じるべきですか?

A: 企業は、契約を締結する前に、憲法上の要件を十分に理解し、遵守するための措置を講じる必要があります。これには、法律専門家との相談、デューデリジェンスの実施、および契約条項の慎重な検討が含まれます。

Q: 本判決は、フィリピンの投資環境にどのような影響を与えますか?

A: 本判決は、フィリピンの投資環境に一定の影響を与える可能性があります。外国企業は、フィリピンの天然資源探査に関与する際に、より慎重になる可能性があります。しかし、憲法を遵守することで、透明性と信頼性を高め、長期的な投資を促進することができます。

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