フィリピンの裁判所における外国企業の裁判管轄:積極的な救済の申し立ては、自発的な出廷とみなされる

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積極的な救済を求める外国企業は、フィリピンの裁判所の管轄権に服することに同意したとみなされます

G.R. No. 175799, 2011年11月28日

導入

国際的なビジネスの世界では、国境を越えた紛争は避けられません。外国企業がフィリピンで訴訟を起こされた場合、フィリピンの裁判所がその企業に対して管轄権を持つかどうかは、重要な最初の問題となります。この最高裁判所の判決は、外国企業が管轄権を争いながらも、フィリピンの裁判所に積極的な救済を求める行為は、その裁判所の管轄権を自発的に受け入れたとみなされるという重要な原則を明確にしています。この判決は、外国企業がフィリピンで訴訟に巻き込まれた場合に、どのような行動を取るべきかについて重要な教訓を示しています。

事案は、オーストラリアに拠点を置くNM Rothschild & Sons (Australia) Limited(以下「ロスチャイルド」)が、フィリピンの鉱業会社Lepanto Consolidated Mining Company(以下「レパント」)から、両社間のローンおよびヘッジ契約の無効確認と損害賠償を求める訴訟を起こされたことに端を発します。ロスチャイルドは、管轄権がないことを理由に訴訟の却下を求めましたが、同時に証拠開示手続きを裁判所に求めました。最高裁判所は、ロスチャイルドが積極的な救済を求めた時点で、フィリピンの裁判所の管轄権を自発的に受け入れたと判断しました。

法的背景

この事件の核心は、フィリピンの裁判所が外国企業に対して人的管轄権(in personam jurisdiction)を行使できる条件です。人的管轄権とは、裁判所が特定の個人または法人に対して判決を下す権限を指します。フィリピンの民事訴訟規則第14条第15項は、被告がフィリピンに居住しておらず、国内に所在しない場合、限定的な状況下で国外送達を認めています。ただし、国外送達は、訴訟が対物訴訟(in rem action)または準対物訴訟(quasi in rem action)である場合に限られ、人的訴訟(in personam action)には適用されません。

対物訴訟とは、物自体を対象とする訴訟であり、準対物訴訟とは、特定の財産に対する個人の権利を対象とする訴訟です。一方、人的訴訟とは、個人または法人の義務や責任を強制することを目的とする訴訟であり、被告の人的管轄権が不可欠となります。本件のレパントによる訴訟は、契約の無効確認と損害賠償を求める人的訴訟であり、原則としてロスチャイルドに対する人的管轄権が確立されなければ、フィリピンの裁判所は審理を開始できません。

民事訴訟規則第20条は、被告が自発的に出廷した場合、それは召喚状の送達と同等の効果を持つと規定しています。重要なのは、1997年の規則改正により、モーション・トゥ・ディスミス(訴訟却下申立)に人的管轄権の欠如以外の理由を含めることは、自発的な出廷とはみなされないという条項が追加されたことです。これは、被告が管轄権を争いながら、他の防御理由も同時に主張できることを明確にするための改正でした。

しかし、最高裁判所は、自発的な出廷は、単に訴訟却下申立を行うだけでなく、裁判所に積極的な救済を求める行為も含むと解釈しています。積極的な救済とは、訴訟の却下以上の、裁判所による積極的な措置を求めるものです。例えば、証拠開示手続きの申し立てや、裁判官の忌避申し立てなどが該当します。これらの行為は、被告が裁判所の管轄権を利用して自らの利益を図ろうとする意思表示とみなされ、管轄権の争いを放棄したものと解釈されるのです。

本件で重要な条文は、民法2018条です。これは、商品の引渡しを装った契約であっても、当事者の意図が価格差額の授受のみにある場合、その取引を無効とする規定です。レパントは、ヘッジ契約が民法2018条に違反する賭博契約であると主張しました。

民法2018条:物品、有価証券又は株式の引渡しを約する契約が、約定価格と、引渡しの仮装の時における取引所価格又は市場価格との差額を敗者が勝者に支払う意図で締結されたときは、その取引は無効とする。敗者は、その支払ったものを回復することができる。

事件の経緯

レパントは、ロスチャイルドを相手取り、マカティ地方裁判所に訴訟を提起しました。ロスチャイルドは、特別出廷の上、管轄権の欠如などを理由に訴訟の却下を申し立てました。しかし、ロスチャイルドは訴訟却下申立と並行して、証人Paul Murrayの証人尋問許可と、レパントに対する質問状の送達許可を裁判所に求めました。地方裁判所は、ロスチャイルドの訴訟却下申立を否認し、証拠開示手続きの申し立てを認めませんでした。ロスチャイルドは、これを不服として控訴裁判所にCertiorari訴訟(違法行為差止訴訟)を提起しましたが、控訴裁判所もこれを棄却しました。控訴裁判所は、訴訟却下申立の否認は中間命令であり、Certiorari訴訟の対象とはならないと判断しました。

ロスチャイルドは、最高裁判所に上訴しました。最高裁判所は、まずロスチャイルドが法人として実在するかどうかという問題を検討しました。ロスチャイルドは、社名をInvestec Australia Limitedに変更したことを証明する書類を提出し、最高裁判所はこれを認めました。次に、最高裁判所は、控訴裁判所がCertiorari訴訟を棄却した判断の当否を検討しました。最高裁判所は、原則として訴訟却下申立の否認はCertiorari訴訟の対象とはならないものの、地方裁判所の判断に重大な裁量権の濫用がある場合には、Certiorari訴訟が認められる場合があることを認めました。

しかし、最高裁判所は、本件では地方裁判所の判断に重大な裁量権の濫用はないと判断しました。特に、ロスチャイルドが訴訟却下申立と並行して、証拠開示手続きを裁判所に求めた行為を重視しました。最高裁判所は、過去の判例(La Naval Drug Corporation v. Court of Appeals事件)を引用しつつ、訴訟却下申立に人的管轄権の欠如以外の理由を含めることは自発的な出廷とはみなされないものの、積極的な救済を求めることは自発的な出廷とみなされるという区別を明確にしました。ロスチャイルドは、証拠開示手続きを通じて、裁判所の管轄権を利用して自らの主張を有利に進めようとしたと解釈され、その時点で管轄権の争いを放棄したものと判断されたのです。

「当裁判所は、ラ・ナバル事件の判決と、新しい規則20条第20項を念頭に置きながらも、いくつかの事件において、裁判所に積極的な救済を求めることは、その裁判所への自発的な出廷と同等であると判決を下しました。」

最高裁判所は、以上の理由から、ロスチャイルドの上訴を棄却し、控訴裁判所の判決を支持しました。

実務上の影響

この判決は、フィリピンで訴訟に巻き込まれた外国企業にとって重要な教訓となります。外国企業は、フィリピンの裁判所の管轄権を争う場合、訴訟却下申立のみに留まり、裁判所に積極的な救済を求める行為は慎むべきです。積極的な救済を求める行為は、裁判所の管轄権を自発的に受け入れたとみなされ、管轄権の争いが無効になる可能性があります。

具体的には、外国企業は、証拠開示手続き(証人尋問、質問状、文書提出命令など)や、裁判官の忌避申し立てなど、訴訟の進行に関与する積極的な行為を避けるべきです。管轄権の問題が解決するまでは、訴訟手続きへの関与を最小限に抑え、訴訟却下申立の審理に集中することが賢明です。

この判決は、外国企業がフィリピンで訴訟戦略を策定する上で、管轄権の問題と自発的な出廷の概念を十分に理解し、慎重な対応をすることを強く求めています。

主な教訓

  • 外国企業がフィリピンの裁判所の管轄権を争う場合、訴訟却下申立のみに留めるべきである。
  • 証拠開示手続きの申し立てなど、裁判所に積極的な救済を求める行為は、管轄権を自発的に受け入れたとみなされる。
  • 管轄権の問題が未解決の間は、訴訟手続きへの積極的な関与を避けるべきである。
  • 外国企業は、フィリピンでの訴訟戦略策定において、管轄権と自発的な出廷の概念を十分に理解する必要がある。

よくある質問

  1. 質問1:外国企業がフィリピンで訴訟を起こされた場合、まず何をすべきですか?
    回答1:まず、フィリピンの弁護士に相談し、訴訟の内容と管轄権の問題について検討する必要があります。訴訟の性質が人的訴訟である場合、管轄権の確立が重要となります。
  2. 質問2:訴訟却下申立以外に、管轄権を争う方法はありますか?
    回答2:訴訟却下申立が主な方法ですが、特別外観による出廷(special appearance)を通じて管轄権を争うことができます。ただし、その後の手続きにおいて、自発的な出廷とみなされる行為を避ける必要があります。
  3. 質問3:証拠開示手続きは、いつ行うべきですか?
    回答3:管轄権が確立された後に行うべきです。管轄権が争われている段階で証拠開示手続きを求めると、自発的な出廷とみなされるリスクがあります。
  4. 質問4:フィリピンの裁判所から送達された召喚状を無視した場合、どうなりますか?
    回答4:召喚状を無視した場合、欠席判決が下される可能性があります。必ず弁護士に相談し、適切な対応を取るべきです。
  5. 質問5:本判決は、どのような種類の訴訟に適用されますか?
    回答5:本判決は、人的訴訟に適用されます。対物訴訟や準対物訴訟では、管轄権の考え方が異なります。
  6. 質問6:外国企業がフィリピンで事業を行う場合、どのような点に注意すべきですか?
    回答6:フィリピン法を遵守し、契約書の条項を慎重に検討する必要があります。また、紛争が発生した場合に備え、弁護士との連携を密にすることが重要です。
  7. 質問7:自発的な出廷とみなされる行為の具体例は?
    回答7:証拠開示手続きの申し立て、裁判官の忌避申し立て、反訴の提起などが該当します。訴訟の却下以上の積極的な救済を求める行為は、自発的な出廷とみなされる可能性があります。

ASG Lawは、フィリピン法および国際訴訟に関する豊富な経験を有する法律事務所です。本判決に関するご質問や、フィリピンでの訴訟対応についてお困りの際は、お気軽にご相談ください。専門の弁護士が、お客様の状況に応じた最適なアドバイスを提供いたします。

お問い合わせは、konnichiwa@asglawpartners.com または お問い合わせページ からお願いいたします。

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