フィリピン最高裁判所は、スペイン語で「ジン」を意味する「ジネブラ」という言葉が、ジネブラ・サン・ミゲル社(GSMI)のジン製品の一般的な名称ではなく、識別性のある商標として登録可能であるとの判決を下しました。裁判所は、消費者の認識を考慮し、長年の使用と広範な広告により、「ジネブラ」がGSMIのジン製品と強く関連付けられるようになったと判断しました。この決定は、GSMIがフィリピン市場で「ジネブラ」というブランド名に対する独占的な権利を確立し、他の企業が同様の名称を使用することを防ぐことにつながります。
言葉に歴史が宿る時:「ジネブラ」ブランドを巡る商標とパブリックイメージの戦い
ジネブラ・サン・ミゲル社(GSMI)は、フィリピンでジン製品を製造・販売する大手企業であり、長年にわたり「ジネブラ」というブランド名を使用してきました。一方、Tanduay Distillers, Inc.(TDI)も「GINEBRA KAPITAN」という名称でジン製品を販売し、GSMIとの間で商標権を巡る紛争が生じました。裁判所は、本件における争点を以下の3点に集約しました。
- 「ジネブラ」は一般名称か。
- 「ジネブラ」は、二次的意味の法理により、識別性のある商標となり得るか。
- TDIは、「GINEBRA KAPITAN」を自社のジン製品のラベルに使用することにより、商標権侵害および不正競争を行ったか。
本判決において最高裁判所は、単に辞書的な定義に依拠するだけでなく、実際の市場における消費者の認識が重要であると強調しました。 GSMIが提出した証拠(世論調査の結果、広告宣伝の記録等)は、フィリピンのジン消費者の大多数が「GINEBRA」という言葉を一般的なジンではなく、GSMIの特定のジンブランドと認識していることを示していました。裁判所は、外国語の単語であっても、現地の市場環境において特定の企業の商品を指すものとして認識されている場合には、商標として保護される可能性があるとの判断を示しました。
裁判所はさらに、消費者がGSMIのジン製品を指す言葉として「GINEBRA」を認識するようになったのは、長年にわたるGSMIのブランド育成の努力の結果であると認定しました。その結果、GSMIの商標権は保護されるべきであり、TDIは類似の名称の使用を制限されるべきであると結論付けられました。他方で、TDIはGSMIの製品の名声に乗じようとしたと判断され、不正競争行為を構成すると判断されました。裁判所はTDIに対し、GSMIへの損害賠償金の支払いを命じるとともに、その製品から「GINEBRA」の名称を削除するよう命じました。この判決は、商標権の保護において消費者の認識が重要であることを改めて確認するとともに、長年にわたりブランドを育成してきた企業の正当な利益を尊重する姿勢を示すものと言えます。
裁判所は、この決定が商標法の解釈に新たな光を当て、知的財産権の保護と公正な競争の促進とのバランスをどのように取るべきかについて明確な指針を示すことを意図していると述べています。ただし、今回は両当事者が熱心に弁護活動を展開した結果、GSMI が提出した調査報告の内容、使用言語等々により、裁判所の心証を動かしえた珍しいケースだと思われます。通常、ここまで証拠をそろえるのには弁護士費用もかなりかかると思われますので、一般の事業者には、なかなか手が届かないのではないかと思われます。今後は商標の専門家は、今回裁判で考慮された要素を考慮してクライアントへの助言を慎重に行う必要が出てくると思われます。
FAQ
この訴訟の主な争点は何でしたか? | この訴訟の主な争点は、「ジネブラ」という名称が、ジンという種類のアルコール飲料を指す一般的な名称なのか、それとも特定のブランドを指す識別性のある商標なのかという点でした。 |
なぜGSMIは「ジネブラ」を商標として登録することを求めたのですか? | GSMIは、「ジネブラ」という名称を自社のジン製品に使用することにより、長年にわたり消費者の間でブランドとしての識別性を確立してきたと主張しました。 |
裁判所は「ジネブラ」をどのようなものとして認定しましたか? | 裁判所は、消費者の認識に基づいて、「ジネブラ」をGSMIのジン製品を指す識別性のある商標として認定しました。 |
外国語の単語を商標として登録する場合、どのような点に注意すべきですか? | 外国語の単語を商標として登録する場合、その単語が対象とする商品またはサービスを一般的に指す言葉として、消費者に認識されていないことを確認する必要があります。 |
この判決は、今後の商標登録にどのような影響を与えますか? | この判決は、商標登録の審査において、消費者の認識や市場の状況が重要な要素として考慮されることを明確にしました。 |
消費者の認識は、商標の有効性にどのように影響しますか? | 消費者の認識は、商標が商品やサービスを識別する能力を決定する上で重要です。商標が特定の企業と強く関連付けられている場合、その商標はより強力な保護を受けることができます。 |
外国の企業がフィリピンで商標登録する場合、どのような点に注意すべきですか? | 外国の企業がフィリピンで商標登録する場合、フィリピンの消費者がその商標をどのように認識するかを考慮する必要があります。特に、一般的な名称や説明的な単語は登録が難しい場合があります。 |
中小企業が自社のブランドを保護するためにできることは何ですか? | 中小企業は、まず自社のブランドを商標として登録し、積極的にそのブランドを市場で展開することにより、消費者の間でブランドの認知度を高めることが重要です。 |
この判決は、今後の商標紛争にどのような影響を与えますか? | この判決は、商標紛争において、消費者の認識を証明するための証拠(世論調査の結果、広告宣伝の記録等)が重要な役割を果たすことを示唆しています。 |
今回の最高裁の判断は、知財実務において非常に重要な意味を持ちます。今回の最高裁の判断は、今後の商標実務に大きな影響を与える可能性があります。今回の最高裁の判断は、単にスペイン語から英語への翻訳だけでなく、現地での使用実態や消費者の認識を考慮して商標の登録可能性を判断する必要があることを明確にしました。これにより、事業者は、商標の出願にあたり、市場調査やブランド戦略をより慎重に検討する必要性が高まります。
本判決の具体的な状況への適用に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームからASG Lawにご連絡いただくか、frontdesk@asglawpartners.comまで電子メールでお問い合わせください。
免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的助言については、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:GINEBRA SAN MIGUEL, INC.対 BUREAU OF TRADEMARKS長官、[G.R. No. 196372, August 09, 2022 ]
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