船員の障害給付:業務関連性の証明と企業指定医の義務

,

船員の障害給付:業務関連性の証明と企業指定医の義務

G.R. No. 252347, May 22, 2024

フィリピンの海上労働法は、海外で働く船員の権利を保護するために存在します。特に、船員が業務中に病気や怪我をした場合の障害給付は重要な問題です。今回の最高裁判所の判決は、船員の障害給付請求における業務関連性の証明責任と、企業が指定する医師(以下、企業指定医)の義務について明確な指針を示しました。この判決は、同様のケースにおける判断基準となり、船員とその雇用主双方にとって重要な意味を持ちます。

はじめに

海外で働く船員は、厳しい労働環境と健康上のリスクにさらされています。特に、長期間の航海や有害物質への曝露は、様々な疾病を引き起こす可能性があります。船員が病気や怪我で働けなくなった場合、障害給付を請求する権利がありますが、その手続きは複雑で、多くの船員が十分な補償を受けられない現状があります。今回の最高裁判所の判決は、ルディ・T・アンポリトッド氏のケースを通じて、船員の権利保護における重要な一歩となりました。アンポリトッド氏は、甲板手として長年勤務した後、骨髄異形成症候群(MDS)と診断され、障害給付を請求しましたが、下級審ではその請求が認められませんでした。最高裁判所は、この判決を覆し、アンポリトッド氏の請求を認めました。

法的背景

フィリピンの海外雇用法(POEA)は、海外で働くフィリピン人労働者の権利を保護するために制定されています。特に、標準雇用契約(SEC)は、船員の労働条件、給与、福利厚生、および障害給付に関する規定を定めています。POEA-SEC第20条(A)は、船員の障害給付に関する規定を定めており、以下の2つの要素が満たされる場合に障害給付が認められます。

  • 傷害または疾病が業務に関連していること
  • 業務に関連する傷害または疾病が、船員の雇用契約期間中に存在していたこと

POEA-SECは、業務関連疾病を「本契約第32-A条に記載された職業病の結果として生じる障害または死亡をもたらすすべての疾病であり、同条に定められた条件を満たすもの」と定義しています。一方、POEA-SEC第20条(A)(4)は、第32条に記載されていない疾病は、業務に関連すると推定されると規定しています。しかし、この推定は、疾病の「業務関連性」に限定され、補償可能性には及びません。重要な条項は以下の通りです。

「本契約第32条に記載されていない疾病は、業務に関連すると推定される。」

この条項は、船員が業務中に病気になった場合、その病気が業務に関連している可能性が高いことを認めています。しかし、船員は、障害給付を受けるためには、業務と病気の因果関係を立証する必要があります。例えば、ある船員が航海中に有害物質に曝露し、その結果、呼吸器系の疾患を発症した場合、その船員は、業務と病気の因果関係を立証することで、障害給付を請求することができます。

判例の分析

ルディ・T・アンポリトッド氏のケースは、2015年6月27日にトップ・エバー・マリン・マネジメント・フィリピンズ社(以下、トップ・エバー社)に甲板手として雇用されたことから始まりました。アンポリトッド氏は、長年にわたりトップ・エバー社に雇用され、様々な船舶で勤務していました。雇用前には、企業指定医から健康診断を受け、健康状態に問題がないと診断されていました。しかし、乗船後約2ヶ月で、めまい、倦怠感、疲労感などの症状が現れました。アメリカの病院で血液検査を受けた結果、血小板数が異常に低いことが判明し、その後、血小板減少症と診断されました。アンポリトッド氏は、フィリピンに帰国後、企業指定医の診察を受け、骨髄異形成症候群(MDS)と診断されました。アンポリトッド氏は、障害給付を請求しましたが、労働仲裁人(LA)は当初、彼の請求を認めました。しかし、国家労働関係委員会(NLRC)は、LAの決定を覆し、アンポリトッド氏の請求を却下しました。控訴院(CA)もNLRCの決定を支持しました。最高裁判所は、以下の理由から、下級審の判決を覆し、アンポリトッド氏の請求を認めました。

  • アンポリトッド氏のMDSは、彼の業務に関連していること
  • 企業指定医が、アンポリトッド氏の障害の程度を適切に評価しなかったこと

最高裁判所は、アンポリトッド氏の業務内容(船の甲板の錆落としや塗装など)が、有害物質への曝露を伴うものであり、彼のMDSの発症に寄与した可能性が高いと判断しました。また、企業指定医が発行した最終的な診断書が、アンポリトッド氏の症状を適切に評価しておらず、彼に十分な情報を提供していなかったことも問題視しました。最高裁判所は、判決の中で、以下の点を強調しました。

「船員の障害給付の権利は、医学的な所見だけでなく、法律と契約によっても定められる。」

「第3の医師(独立した医師)による医学的評価が提供されない場合、法律は、回答者が完全かつ永久的な障害を被ったと推定される。」

最高裁判所は、アンポリトッド氏のMDSが業務に関連していると判断し、彼に6万米ドルの障害給付と6千米ドルの弁護士費用を支払うよう命じました。

実務上の影響

この判決は、今後の同様のケースに大きな影響を与える可能性があります。特に、船員が障害給付を請求する際に、業務関連性を証明する責任が軽減される可能性があります。また、企業指定医は、船員の健康状態を適切に評価し、十分な情報を提供する義務を負うことになります。この判決は、船員とその雇用主双方にとって、以下の重要な教訓を示しています。

重要な教訓

  • 船員は、業務中に病気や怪我をした場合、障害給付を請求する権利があることを認識する必要があります。
  • 船員は、業務内容と健康状態を記録し、医師の診断書を保管することが重要です。
  • 雇用主は、船員の健康状態を適切に評価し、十分な情報を提供する義務を負うことを認識する必要があります。
  • 雇用主は、企業指定医が船員の障害の程度を適切に評価し、最終的な診断書を発行するよう徹底する必要があります。

例えば、ある船員が航海中に化学物質に曝露し、皮膚炎を発症した場合、その船員は、企業指定医の診察を受け、診断書を取得する必要があります。企業指定医は、船員の皮膚炎が業務に関連しているかどうかを評価し、最終的な診断書を発行する必要があります。もし、企業指定医が船員の皮膚炎を軽視し、適切な診断書を発行しなかった場合、その船員は、独立した医師の診察を受け、診断書を取得することができます。そして、その診断書を基に、雇用主に対して障害給付を請求することができます。

よくある質問

  1. 船員が障害給付を請求できるのはどのような場合ですか?
    船員が業務中に病気や怪我をし、その結果として働けなくなった場合、障害給付を請求することができます。
  2. 障害給付を請求するために必要な書類は何ですか?
    障害給付を請求するためには、医師の診断書、雇用契約書、船員の業務内容を証明する書類などが必要です。
  3. 企業指定医の診断に納得できない場合、どうすればよいですか?
    企業指定医の診断に納得できない場合、独立した医師の診察を受け、診断書を取得することができます。
  4. 障害給付の金額はどのように決まりますか?
    障害給付の金額は、船員の障害の程度、給与、および雇用契約の内容によって異なります。
  5. 障害給付の請求期限はありますか?
    障害給付の請求期限は、一般的に、病気や怪我の発生から3年以内です。
  6. MDS(骨髄異形成症候群)は、船員の仕事と関連がありますか?
    今回の判決では、MDSが特定の業務環境、特に化学物質への曝露と関連がある可能性が示唆されています。
  7. 企業指定医の診断が遅れたり、不正確だったりした場合、どうなりますか?
    企業指定医の診断が遅れたり、不正確だったりした場合、船員は独立した医師の診断を求め、それに基づいて補償を請求できる場合があります。

ASG Lawでは、船員の皆様の権利保護に尽力しております。障害給付に関するご相談は、お問い合わせいただくか、konnichiwa@asglawpartners.comまでメールをお送りください。初回相談は無料です。

Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です