フィリピン海事法:船員の障害給付請求における重要なポイント

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船員の障害給付請求は、適切な医療評価とタイミングが重要

G.R. No. 254186, April 17, 2024

フィリピンでは、海外で働く船員の権利保護が重要視されています。しかし、障害給付を請求する際には、適切な手続きとタイミングが不可欠です。今回の最高裁判所の判決は、船員の障害給付請求における重要なポイントを明確にしました。具体的には、会社指定医による適切な医療評価を受け、所定の期間内に請求を行う必要性です。本記事では、この判決を詳細に分析し、船員とその雇用主が知っておくべき実務的なアドバイスを提供します。

海事法における障害給付の法的背景

フィリピンの海事法は、海外雇用庁標準雇用契約(POEA-SEC)に基づいて、船員の権利を保護しています。POEA-SECは、船員の労働条件、給与、および医療給付に関する規定を定めています。特に、船員が業務中に病気や怪我を負った場合、雇用主は適切な医療を提供し、障害給付を支払う義務があります。

POEA-SEC第20条(B)(3)には、以下のように規定されています。

「船員が雇用契約期間中に病気または負傷した場合、雇用主は船員の医療費、食費、宿泊費を負担するものとする。また、船員が完全に回復するまで、または医師が船員の症状がこれ以上改善しないと判断するまで、最長120日間、船員に基本給を支払うものとする。」

この規定は、船員が病気や負傷した場合に、雇用主が医療費を負担し、一定期間基本給を支払う義務を定めています。また、POEA-SEC第32-A条には、業務に関連する病気として、心血管疾患が明記されています。ただし、障害給付を請求するには、病気が業務に関連していること、または業務によって悪化したことを証明する必要があります。

例えば、船員が長期間にわたり、冷凍食品や加工食品を摂取し、重労働に従事した結果、心血管疾患を発症した場合、障害給付の対象となる可能性があります。しかし、単に病気を発症しただけでは、給付を受けることはできません。会社指定医による適切な診断と評価が不可欠です。

事件の詳細な分析

この事件では、原告のソリト・C・アモレス・ジュニアが、雇用主であるゴールドルート・マリタイム社に対して、障害給付を請求しました。アモレスは、2015年3月28日に雇用契約を締結し、タンカー船「カノウラ」の油槽手として9ヶ月間勤務する予定でした。しかし、同年10月に胸痛と呼吸困難を訴え、契約期間満了前に本国に送還されました。

  • 2015年10月19日:アモレスは会社に報告し、別の船への配乗を待つように指示されました。
  • 2015年10月20日:アモレスは個人的に医師の診察を受け、心電図とトレッドミル検査を受けるように勧められました。
  • 2015年12月5日:会社から配乗の連絡があり、健康診断を受けるように指示されました。
  • 2015年12月15日:会社指定医の診察を受け、「高血圧、管理下、虚血性心疾患の疑い」と診断され、乗船不適格と判断されました。
  • 2015年12月28日:会社指定の心臓専門医による診察を受け、CTアンギオグラフィー検査を勧められました。

アモレスは、自身の病気が業務に関連していると主張し、障害給付、傷病手当、慰謝料、弁護士費用を請求しました。一方、ゴールドルート社は、アモレスがさらなる検査を受ける前に請求を行ったため、請求は時期尚早であると反論しました。

第一審では、仲裁委員会がアモレスの請求を認め、6万米ドルの障害給付、2416米ドルの傷病手当、および弁護士費用を支払うように命じました。しかし、控訴審では、仲裁委員会の決定が覆され、アモレスは障害給付を受ける資格がないと判断されました。

最高裁判所は、控訴審の判決を支持し、アモレスの請求を棄却しました。裁判所は、以下の点を重視しました。

「原告は、会社指定医によるさらなる検査を受ける前に請求を行ったため、請求は時期尚早である。また、原告は医学的な理由で本国に送還されたわけではない。」

裁判所は、アモレスが会社指定医の指示に従い、適切な医療評価を受けるべきであったと指摘しました。また、アモレスが医学的な理由で本国に送還されたわけではないため、会社に事後雇用医療検査を提供する義務はないと判断しました。

判決の実務的な影響

この判決は、フィリピンの海事法における障害給付請求において、以下の重要な教訓を提供します。

  • 船員は、病気や怪我を負った場合、速やかに雇用主に報告し、会社指定医による適切な医療評価を受ける必要があります。
  • 障害給付を請求する前に、会社指定医の指示に従い、必要な検査を受ける必要があります。
  • 障害給付の請求は、会社指定医による最終的な診断と評価を受けた後に行うべきです。
  • 船員が医学的な理由で本国に送還された場合、雇用主は事後雇用医療検査を提供する義務があります。

この判決は、雇用主にとっても重要な意味を持ちます。雇用主は、船員の健康と安全を確保し、病気や怪我を負った船員に対して適切な医療を提供する必要があります。また、会社指定医による適切な医療評価を行い、障害給付の請求が正当であるかどうかを判断する必要があります。

重要な教訓

  • 会社指定医による適切な医療評価を受け、所定の期間内に請求を行うこと。
  • 病気が業務に関連していること、または業務によって悪化したことを証明すること。
  • 医学的な理由で本国に送還された場合、雇用主は事後雇用医療検査を提供する義務があること。

よくある質問

Q: 障害給付を請求するには、どのような証拠が必要ですか?

A: 障害給付を請求するには、会社指定医の診断書、医療記録、雇用契約書、および病気が業務に関連していることを証明する証拠が必要です。

Q: 会社指定医の診断に不満がある場合、どうすればよいですか?

A: 会社指定医の診断に不満がある場合、別の医師の意見を求めることができます。ただし、その場合でも、会社指定医の診断を無視することはできません。

Q: 障害給付の請求が認められなかった場合、どうすればよいですか?

A: 障害給付の請求が認められなかった場合、仲裁委員会または裁判所に訴えることができます。ただし、訴える前に、弁護士に相談することをお勧めします。

Q: 雇用主が医療費を負担してくれない場合、どうすればよいですか?

A: 雇用主が医療費を負担してくれない場合、労働省に苦情を申し立てることができます。また、弁護士に相談して、法的措置を検討することもできます。

Q: 障害給付の請求期限はありますか?

A: 障害給付の請求期限は、POEA-SECに明記されていません。ただし、一般的には、病気や怪我が発生してから3年以内に請求する必要があります。

詳細なご相談は、お問い合わせいただくか、konnichiwa@asglawpartners.comまでメールにてご連絡ください。ASG Lawの専門家が対応いたします。

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