フィリピンにおける船員の労災補償:自由時間中の怪我も対象となるか?

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船員の自由時間中の怪我も労災と認められる場合がある:最高裁判所の判決

G.R. No. 254586, July 10, 2023

フィリピンで働く多くの船員にとって、仕事とプライベートの境界線は曖昧です。船上での生活は、仕事時間外の活動にも制限を課すことがあります。では、自由時間中の怪我は労災として認められるのでしょうか?最高裁判所は、ROSELL R. ARGUILLES対WILHELMSEN SMITH BELL MANNING, INC.事件において、この問題に重要な判断を示しました。

はじめに

船員は、国際貿易を支える重要な役割を担っています。彼らは長期間にわたり船上で生活し、様々な危険にさらされています。労災補償は、彼らが職務中に被った怪我や病気に対して経済的な保護を提供するものです。本件は、船員が自由時間中に負った怪我について、労災補償が認められるかどうかが争点となりました。

本件の原告であるロセル・R・アーギレスは、船上でバスケットボールをしていた際に左足首を負傷しました。彼は労災補償を求めましたが、雇用主はこれを拒否しました。最高裁判所は、下級審の判断を覆し、アーギレスの労災補償請求を認めました。この判決は、フィリピンの船員法に重要な影響を与える可能性があります。

法的背景

フィリピンでは、船員の雇用条件は、フィリピン海外雇用庁(POEA)の標準雇用契約(SEC)および団体交渉協約(CBA)によって規定されています。POEA-SECは、船員の権利と義務、および雇用主の責任を定めています。労災補償は、POEA-SECの重要な要素の一つです。

POEA-SECの定義によれば、業務関連の怪我とは、「雇用に起因し、雇用期間中に発生した怪我」を指します。重要なのは、怪我が実際に職務を遂行している間に発生する必要はないということです。また、雇用主は、「船員のために耐航性のある船舶を提供し、事故や怪我を防止するための合理的な予防措置を講じる」義務を負っています。

本件に関連する重要な法的原則として、「バンカーハウス・ルール」と「個人的慰安の原則」があります。

  • バンカーハウス・ルール:従業員が雇用主の敷地内または提供された宿舎に滞在することを義務付けられている場合、そこで負った怪我は、発生時間に関係なく、業務遂行中に発生したものとみなされます。
  • 個人的慰安の原則:従業員の個人的な快適さに関連する行為は、従業員の効率的な業務遂行を助けるため、雇用の中断とはみなされません。

これらの原則は、船員の労災補償請求において重要な考慮事項となります。

事件の経緯

ロセル・R・アーギレスは、2016年6月15日にWILHELMSEN SMITH BELL MANNING, INC.と雇用契約を結び、M/V Toronto号の一般船員として6ヶ月間勤務することになりました。彼は健康診断に合格し、2016年7月24日に乗船しました。

2016年12月26日、自由時間に同僚とバスケットボールをしていた際、左足首を負傷しました。船長は、アキレス腱断裂の疑いがあると報告しました。その後、ギプスを装着し、2017年1月18日に本国に送還されました。

帰国後、会社の指定医であるMarine Medical Servicesで診察を受けました。MRI検査の結果、アキレス腱の部分断裂が確認されました。2017年2月6日には、負傷した足首を手術しました。その後、理学療法を受けましたが、2017年6月28日に治療を打ち切られました。

アーギレスは、独立した医師であるロジェリオ・P・カタパン医師に相談し、船員としての職務に適さないと診断されました。彼は会社に労災補償を求めましたが、拒否されたため、労働仲裁委員会に訴えを起こしました。

  • 労働仲裁委員会(LA)の判決:アーギレスの労災補償請求を認め、90,000米ドルの障害給付金、450,000ペソの慰謝料、および弁護士費用を支払うよう命じました。
  • 国家労働関係委員会(NLRC)の判決:当初、LAの判決を一部変更し、障害給付金の額を減額しましたが、後に判決を覆し、アーギレスの請求を全面的に棄却しました。
  • 控訴裁判所の判決:NLRCの判決を支持し、アーギレスの請求を棄却しました。

アーギレスは、最高裁判所に上訴しました。

最高裁判所の判断

最高裁判所は、控訴裁判所の判決を覆し、アーギレスの労災補償請求を認めました。裁判所は、以下の点を重視しました。

  • アーギレスの怪我は、雇用契約期間中に発生した。
  • バスケットボールは、船上で許可されたレクリエーション活動であった。
  • 雇用主は、アーギレスの怪我が故意または過失によるものであることを証明できなかった。
  • 会社指定医は、法定期間内に最終的な医学的評価を提供しなかった。

裁判所は、「雇用主は、従業員が故意または犯罪行為を行った場合、または意図的に義務を違反した場合に限り、補償と給付金を支払う必要がない」と指摘しました。しかし、本件では、アーギレスがそのような行為を行った証拠はありませんでした。

さらに、裁判所は、会社指定医が120日または240日の期間内に最終的な医学的評価を提供しなかったため、アーギレスの状態は法的にもはや完全かつ永久的な障害に該当すると判断しました。したがって、彼は全額の障害給付金を受け取る権利があります。

「会社指定医が120日以内に評価を提供しなかった場合、正当な理由がない限り、船員の障害は永久的かつ全面的になります。」

「会社指定医が240日の延長期間内に評価を提供しなかった場合、いかなる正当化があっても、船員の障害は永久的かつ全面的になります。」

実務上の影響

本判決は、フィリピンの船員法に重要な影響を与える可能性があります。雇用主は、船員の自由時間中の活動についても、労災補償の対象となる可能性があることを認識する必要があります。また、会社指定医は、法定期間内に最終的な医学的評価を提供する必要があります。さもなければ、船員は全額の障害給付金を受け取る権利を得る可能性があります。

重要な教訓

  • 雇用主:船員の安全を確保し、適切なレクリエーション施設を提供する必要があります。
  • 会社指定医:法定期間内に最終的な医学的評価を提供する必要があります。
  • 船員:怪我を負った場合は、速やかに雇用主に報告し、適切な医療処置を受ける必要があります。

よくある質問

Q: 自由時間中の怪我は、常に労災として認められますか?

A: いいえ、自由時間中の怪我が常に労災として認められるわけではありません。しかし、怪我が雇用契約期間中に発生し、雇用主がその怪我が故意または過失によるものであることを証明できない場合、労災として認められる可能性があります。

Q: 会社指定医が最終的な医学的評価を提供しなかった場合、どうなりますか?

A: 会社指定医が法定期間内に最終的な医学的評価を提供しなかった場合、船員は全額の障害給付金を受け取る権利を得る可能性があります。

Q: 雇用主は、どのような場合に労災補償を拒否できますか?

A: 雇用主は、船員の怪我が故意または犯罪行為によるものである場合、または意図的に義務を違反した場合に限り、労災補償を拒否できます。

Q: 労災補償の請求手続きは、どのように行いますか?

A: 労災補償の請求手続きは、労働仲裁委員会に訴えを起こすことから始まります。弁護士に相談し、適切な書類を準備することをお勧めします。

Q: 本判決は、他の種類の労働者にも適用されますか?

A: 本判決は、主に船員に適用されますが、他の種類の労働者にも参考になる可能性があります。雇用主は、従業員の安全を確保し、適切な労災補償を提供する必要があります。

Q: 団体交渉協約(CBA)は、労災補償にどのように影響しますか?

A: 団体交渉協約は、POEA-SECを補完し、船員の権利と義務をさらに明確にするものです。CBAには、労災補償に関する追加の規定が含まれている場合があります。

Q: 労災補償の請求期限はありますか?

A: はい、労災補償の請求には期限があります。一般的には、怪我が発生した日から3年以内です。弁護士に相談し、期限内に請求を行うことをお勧めします。

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