会社指定医の診断は、船員の障害給付請求において非常に重要です。適切な通知と手続きを踏むことで、船員は自身の権利を守ることができます。
G.R. No. 245857, June 26, 2023
はじめに
船員の仕事は、危険と隣り合わせです。もし仕事中に怪我や病気をした場合、適切な補償を受ける権利があります。しかし、障害給付の請求は複雑で、会社側の対応に不満を感じることもあるでしょう。本判例は、会社指定医の診断が船員の障害給付請求に与える影響、そして船員が自身の権利を守るために知っておくべき重要なポイントを明確にしています。
本件は、船員であるアンヘリート・S・マグノ氏が、勤務中に負った怪我により障害給付を請求した事例です。最高裁判所は、会社指定医の最終診断が適切に通知されなかった場合、船員の障害は自動的に「完全かつ永久的」とみなされると判断しました。この判決は、船員とその雇用主にとって重要な意味を持ちます。
法的背景
フィリピンの船員は、POEA-SEC(フィリピン海外雇用庁標準雇用契約)によって保護されています。POEA-SECは、船員が仕事中に怪我や病気をした場合の補償について定めています。特に重要なのは、会社指定医による診断です。会社指定医は、船員の健康状態を評価し、障害の程度を判断する役割を担います。
労働法第198条(c)(1)は、一時的な完全障害が120日以上継続する場合、障害は完全かつ永久的とみなされると規定しています。ただし、AREC(改正従業員補償規則)の規定により、治療が120日を超えて必要な場合、最大240日まで延長されることがあります。
POEA-SEC第20条(A)は、雇用主が船員の労働関連の怪我や病気に対して責任を負う場合を規定しています。以下はその重要な部分です。
「船員が契約期間中に労働関連の怪我や病気をした場合、雇用主の責任は以下の通りとする:…(2)本国送還後も、当該の怪我や病気に起因する治療が必要な場合、雇用主の費用負担で、船員が健康であると宣言されるか、または会社指定医によって障害の程度が確立されるまで、治療を提供するものとする。…(3)雇用主は、上記の医療措置を提供する義務に加え、船員が署名解除された時点から、就業可能と宣言されるか、会社指定医によって障害の程度が評価されるまで、基本給に相当する病気手当を支払うものとする。船員が病気手当を受ける権利を有する期間は、120日を超えないものとする。…会社指定医の評価に船員が任命した医師が同意しない場合、雇用主と船員の間で共同で第三の医師に合意することができる。第三の医師の決定は、両当事者を拘束するものとする。」
事例の詳細
アンヘリート・S・マグノ氏は、Career Philippines Shipmanagement, Inc.を通じてMV Cape Flint号に「熟練船員」として雇用されました。勤務中、マグノ氏は背中と膝に痛みを覚え、本国に送還されました。会社指定医は、腰仙部捻挫と右膝関節炎と診断しました。MRI検査の結果、椎間板ヘルニアなどの症状が確認されました。その後、手術を受けましたが、痛みは改善しませんでした。
会社指定医は、2015年4月10日付の診断書で、マグノ氏の障害を11級(体幹の可動域または挙上力の3分の2の喪失)および10級(膝関節の不安定化)と評価しました。しかし、マグノ氏は診断書を受け取っておらず、会社から十分な説明もありませんでした。自身の状態に不安を感じたマグノ氏は、別の医師の診察を受けました。その医師は、マグノ氏が以前の仕事に戻ることは不可能であると診断しました。
マグノ氏は、会社に対し、医療記録の開示と第三の医師による評価を求めましたが、会社はこれに応じませんでした。そのため、マグノ氏は労働仲裁委員会(LA)に訴えを起こし、完全かつ永久的な障害給付、病気休暇手当、医療費、損害賠償などを請求しました。
LAはマグノ氏の訴えを認めましたが、控訴院(CA)はこれを覆し、部分的な障害給付のみを認めました。しかし、最高裁判所はCAの決定を覆し、NLRC(国家労働関係委員会)の決定を支持し、マグノ氏に完全かつ永久的な障害給付を支払うよう命じました。
最高裁判所は、以下の点を重視しました。
- 会社指定医が、定められた期間内に最終的な診断をマグノ氏に通知しなかったこと。
- 会社が、マグノ氏の要求に応じて第三の医師による評価を行わなかったこと。
- マグノ氏の障害が、彼が以前の仕事に戻ることを不可能にしていること。
最高裁判所は、POEA-SECに基づく船員の障害給付請求に関する重要な原則を改めて確認しました。
「会社指定医は、船員が医師に報告した時点から120日以内に、船員の障害等級に関する最終的な医学的評価を発行しなければならない。会社指定医が正当な理由なく120日以内に評価を行わない場合、船員の障害は永久的かつ完全なものとなる。」
「会社指定医が、延長された240日の期間内に評価を行わない場合、いかなる正当化があっても、船員の障害は永久的かつ完全なものとなる。」
実務上の影響
本判例は、船員とその雇用主にとって重要な教訓を与えます。雇用主は、会社指定医による診断を適切に通知し、船員の要求に応じて第三の医師による評価を行う義務があります。一方、船員は、自身の健康状態を把握し、必要な手続きを適切に進めることが重要です。
主な教訓
- 会社指定医の診断は、船員の障害給付請求において非常に重要である。
- 雇用主は、会社指定医による診断を適切に通知する義務がある。
- 船員は、自身の健康状態を把握し、必要な手続きを適切に進めることが重要である。
- 会社が第三の医師による評価を拒否した場合、船員は法的措置を検討すべきである。
よくある質問
Q: 会社指定医の診断に納得できない場合、どうすれば良いですか?
A: 別の医師の診察を受け、意見を求めることができます。会社に第三の医師による評価を要求することも可能です。
Q: 会社が第三の医師による評価を拒否した場合、どうすれば良いですか?
A: 労働仲裁委員会(LA)に訴えを起こすことができます。
Q: 障害給付の請求には、どのような書類が必要ですか?
A: 雇用契約書、医療記録、会社指定医の診断書、別の医師の診断書などが必要です。
Q: 障害給付の金額は、どのように決まりますか?
A: POEA-SECの規定に基づいて、障害の程度に応じて決まります。
Q: 障害給付の請求期限はありますか?
A: 請求期限は、POEA-SECや労働法によって定められています。早めに専門家にご相談ください。
Q: 会社指定医の診断が遅れた場合、どうなりますか?
A: 本判例の通り、船員の障害は自動的に「完全かつ永久的」とみなされる可能性があります。
Q: 会社指定医の診断書の内容が曖昧な場合、どうすれば良いですか?
A: 会社に診断書の明確化を求めるか、別の医師に診断書の解釈を依頼することができます。
Q: 障害給付の請求を弁護士に依頼するメリットはありますか?
A: 弁護士は、複雑な手続きを代行し、あなたの権利を守るために最善を尽くします。専門家のアドバイスを受けることで、安心して請求を進めることができます。
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