フィリピンにおける船員の障害給付請求:第三者医師の評価に関する重要な指針

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船員の障害給付請求における第三者医師の評価:新たな指針と義務

G.R. No. 253480, April 25, 2023

フィリピンでは、海外で働く船員の保護が重要な課題です。船員が職務中に病気や怪我を負った場合、適切な補償と治療を受ける権利があります。しかし、障害給付の請求手続きは複雑で、しばしば紛争が生じます。この度、最高裁判所は、船員の障害給付請求における第三者医師の評価に関する重要な判決を下し、今後の指針を示しました。本記事では、この判決の概要と実務上の影響について解説します。

障害給付請求の法的背景:POEA-SECと第三者医師の役割

フィリピン人船員の海外雇用は、フィリピン海外雇用庁(POEA)が定める標準雇用契約(SEC)に基づいて行われます。2010年POEA-SEC第20条A項は、船員が職務中に負った怪我や病気に対する雇用者の責任を規定しています。特に、船員の障害の程度に関する医師の評価は、給付の可否や金額を決定する上で重要な要素となります。

POEA-SEC第20条A項3は、会社指定医師の評価に船員が同意しない場合、第三者医師による評価を求めることができると規定しています。この第三者医師の決定は、両当事者を拘束するものとされています。この規定は、紛争解決のメカニズムとして機能し、訴訟に至る前に当事者間で合意を形成することを目的としています。

最高裁判所は、第三者医師の評価が義務的な手続きであることを繰り返し強調してきました。しかし、第三者医師の選任手続きや、雇用者がこの手続きを拒否した場合の法的効果については、これまで明確な指針がありませんでした。今回の判決は、この点について詳細なルールを定め、今後の実務に大きな影響を与えると考えられます。

重要な条文として、以下の規定があります。

3. x x x x

For this purpose, the seafarer shall submit himself to a post‑ employment medical examination by a company-designated physician within three working days upon his return except when he is physically incapacitated to do so, in which case, a written notice to the agency within the same period is deemed as compliance. In the course of the treatment, the seafarer shall also report regularly to the company-designated physician specifically on the dates as prescribed by the company-designated physician and agreed to by the seafarer. Failure of the seafarer to comply with the mandatory reporting requirement shall result in his forfeiture of the right to claim the above benefits.

If a doctor appointed by the seafarer disagrees with the assessment, a third doctor may be agreed jointly between the employer and the seafarer. The third doctor’s decision shall be final and binding on both parties.

事件の経緯:ブナヨグ対Foscon Shipmanagement事件

本件の原告であるテオドロ・B・ブナヨグは、Foscon Shipmanagement社(以下「Foscon」)に雇われ、MIT Morning Breeze号の料理長として9ヶ月間勤務しました。2016年7月31日、船上で咳、発熱、呼吸困難を発症し、日本の病院で左肺肺炎と診断されました。その後、フィリピンに送還され、会社指定医師の診察を受けました。会社指定医師は、ブナヨグを「再発性胸水、左」と診断し、治療を行いましたが、2016年9月28日には就労可能と判断しました。

ブナヨグは、自身の医師の診察を受け、胸水のために就労不能であるとの診断を受けました。彼はFosconに医師の診断結果を通知し、第三者医師による評価を求めましたが、Fosconはこれに応じませんでした。そのため、ブナヨグは障害給付を求めて訴訟を提起しました。

労働仲裁人、国家労働関係委員会(NLRC)、控訴院は、いずれもブナヨグの訴えを棄却しました。これらの裁判所は、会社指定医師の診断を重視し、ブナヨグの医師の診断は科学的根拠に欠けると判断しました。ブナヨグは、この決定を不服として最高裁判所に上訴しました。

最高裁判所は、本件において以下の点を明確にしました。

  • 船員が会社指定医師の診断に同意しない場合、第三者医師による評価を求める権利があること
  • 雇用者は、船員からの第三者医師の評価の要請に誠実に対応する義務があること
  • 雇用者が第三者医師の評価を拒否した場合、裁判所は両当事者の医師の診断を比較検討し、証拠に基づいて判断を下すこと

最高裁判所は、本件において、ブナヨグの医師の診断は科学的根拠に欠けるため、会社指定医師の診断を支持しました。しかし、雇用者が第三者医師の評価を拒否した場合の法的効果について、詳細な指針を示しました。

実務上の影響:企業と船員へのアドバイス

今回の最高裁判所の判決は、船員の障害給付請求に関する実務に大きな影響を与えると考えられます。特に、以下の点に注意が必要です。

  • 雇用者は、船員からの第三者医師の評価の要請に誠実に対応する義務がある。 正当な理由なく拒否した場合、裁判所は雇用者に不利な判断を下す可能性がある。
  • 船員は、第三者医師の評価を求める場合、医師の診断書を添付するなど、十分な証拠を提示する必要がある。 証拠が不十分な場合、裁判所は会社指定医師の診断を支持する可能性がある。
  • 紛争が生じた場合、当事者は訴訟に至る前に、第三者医師による評価を通じて合意形成を目指すべきである。 これにより、時間と費用の節約につながる可能性がある。

今回の判決は、雇用者と船員の双方に、より明確な指針を提供しました。雇用者は、第三者医師の評価の要請に誠実に対応する義務を負い、船員は、十分な証拠を提示する必要があることを認識すべきです。

主な教訓

  • 船員からの第三者医師の評価の要請には、速やかに対応すること
  • 船員は、医師の診断書など、十分な証拠を収集すること
  • 紛争解決のため、訴訟に至る前に合意形成を目指すこと

よくある質問(FAQ)

Q1: 会社指定医師の診断に同意できない場合、どうすればよいですか?

A1: 自身の医師の診察を受け、診断書を取得してください。その後、雇用者に第三者医師による評価を求める書面を提出してください。

Q2: 雇用者が第三者医師の評価を拒否した場合、どうなりますか?

A2: 訴訟を提起することができます。裁判所は、両当事者の医師の診断を比較検討し、証拠に基づいて判断を下します。

Q3: 第三者医師の評価費用は誰が負担しますか?

A3: 原則として、当事者間で合意して負担します。合意がない場合、裁判所が決定します。

Q4: 第三者医師の評価結果に不満がある場合、どうすればよいですか?

A4: 第三者医師の評価結果は、両当事者を拘束するものとされています。ただし、評価に明らかな誤りがある場合、裁判所に異議を申し立てることができます。

Q5: 今回の判決は、既に訴訟中の事件にも適用されますか?

A5: はい、今回の判決は、未確定の事件にも適用されると考えられます。

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