船員の病気と障害補償:勤務との因果関係の証明義務

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本判決は、海外で働く船員が病気や障害に対して補償を受けるための重要な判断基準を示しています。最高裁判所は、船員の病気が職務に関連しているという推定が働くものの、補償を受けるには、その病気が実際に職務に起因するか、または職務によって悪化したことを船員自身が証明する必要があるという判断を下しました。この判決は、船員が適切な証拠を準備し、会社指定医の診断に異議がある場合には第三者の医師による評価を求めることの重要性を強調しています。

海上勤務で発症した病気、仕事との関連性をどう証明する?船員の補償請求の分かれ道

本件は、CF Sharp Crew Management Inc.が提起した、船員のManuel M. Cunananに対する障害補償請求に関する訴訟です。Cunananはノルウェーのクルーズ船でアシスタントの木工として働いていましたが、高血糖と高血圧と診断され、本国に送還されました。その後、彼は、自分の病気が仕事に関連しているとして、障害補償を請求しました。労働仲裁人(LA)はCunananの訴えを退けましたが、国家労働関係委員会(NLRC)はこれを覆し、補償を認める決定を下しました。このNLRCの決定に対し、CF Sharp Crew Management Inc.は上訴しましたが、控訴院(CA)は手続き上の不備を理由に却下しました。最高裁判所は、手続き上の問題を指摘したCAの判断を覆し、実質的な正義の実現のために事件を審理しました。

最高裁判所は、船員の障害補償請求においては、いくつかの重要な法的原則が適用されることを確認しました。まず、フィリピン海外雇用庁(POEA)の標準雇用契約(SEC)に基づき、職業病として特定されている病気については、その病気が仕事に関連しているという推定が働きます。ただし、SECに記載されていない病気であっても、仕事に関連していると推定される可能性があります。

重要な点として、単に病気が仕事に関連していると推定されるだけでは、自動的に補償が認められるわけではありません。船員は、自分の仕事の条件が病気の原因となったか、少なくとも病気のリスクを高めたことを、十分な証拠によって証明する必要があります。これは、補償の裁定が単なる主張や推定に基づいて行われるべきではないという、適正手続きの原則に基づくものです。

POEA-SEC第20条(B)(4):SECに記載されていない病気は、仕事に関連していると推定される。

本件において、Cunananは高血圧(ステージ1)と2型糖尿病と診断されました。POEA-SECによれば、高血圧が職業病とみなされるためには、本態性高血圧であり、腎臓、心臓、眼、脳などの臓器機能の障害を引き起こし、永続的な障害をもたらす必要があります。Cunananは自分の高血圧が本態性高血圧であると主張しましたが、それを裏付けるための十分な証拠を提出しませんでした。また、糖尿病はPOEA-SECの職業病リストには含まれていません。

さらに、Cunananは自分の病気がどのようにして発症したかについて、一貫性のない主張をしていました。当初、彼は船上で事故に遭ったことが原因だと主張しましたが、後に、自分の糖尿病は船上での不健康な食生活が原因だと主張しました。最高裁判所は、これらの主張を裏付ける証拠が不足していると判断しました。

最高裁判所は、会社指定医がCunananを2010年8月24日に就業可能と判断したことも重視しました。Cunananはこの判断に異議を唱えず、就業可能証明書に署名しました。また、Cunananは会社指定医の治療を受けながら、別の医師の診察を受けていましたが、POEA-SECで定められた第三者の医師による評価を求める手続きを踏みませんでした。

POEA-SEC第20条(B)(3):船員が指名した医師が評価に同意しない場合、雇用者と船員の間で共同で第三の医師に評価を依頼することができる。第三の医師の決定は、両当事者を拘束する最終的な決定となる。

これらの要素を総合的に考慮した結果、最高裁判所は、Cunananの病気が仕事に関連しているという十分な証拠がなく、会社指定医が彼を就業可能と判断したこと、そして第三者の医師による評価がなかったことから、Cunananの障害補償請求を認めませんでした。本判決は、船員が障害補償を請求する際には、適切な証拠を準備し、必要な手続きを遵守することの重要性を強調しています。

この訴訟の主要な争点は何でしたか? 船員の病気が仕事に関連しているかどうか、そして障害補償を受けるための要件が満たされているかどうかでした。
POEA-SECとは何ですか? フィリピン海外雇用庁が定める標準雇用契約のことで、海外で働くフィリピン人船員の雇用条件を規定しています。
職業病とは何ですか? POEA-SECのリストに記載されている、仕事が原因で発症する特定の病気です。
職業病としてリストされていない病気は補償の対象になりませんか? リストにない病気でも、仕事に関連していることを証明できれば、補償の対象となる可能性があります。
会社指定医の判断に異議がある場合、どうすればよいですか? POEA-SECに基づき、雇用者と共同で第三の医師に評価を依頼することができます。
第三の医師の判断はどのように扱われますか? 第三の医師の判断は最終的なものであり、雇用者と船員の両方を拘束します。
本判決は、船員にとってどのような意味を持ちますか? 船員は、障害補償を請求する際には、病気が仕事に関連していることを証明するための十分な証拠を準備する必要があります。
本判決は、雇用者にとってどのような意味を持ちますか? 雇用者は、船員の障害補償請求に対して、適切に対応するための手続きを確立する必要があります。

今回の判決は、海外で働く船員が病気や障害に対して補償を求める際の重要な指針となります。船員は、会社指定医の診断だけでなく、自らの主張を裏付ける客観的な証拠を収集し、必要に応じて第三者医師の意見を求めることが重要です。

本判決の具体的な状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Lawのお問い合わせフォームまたはメール(frontdesk@asglawpartners.com)にてご連絡ください。

免責事項:本分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的指導については、資格のある弁護士にご相談ください。
出典: CF SHARP CREW MANAGEMENT INC. VS. MANUEL M. CUNANAN, G.R No. 210072, 2021年8月4日

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