この最高裁判所の判決は、雇用前の健康診断(PEME)における船員の既存疾患の告知義務を強調しています。船員がPEMEで高血圧や糖尿病などの病歴を意図的に隠蔽した場合、労働災害補償の請求は認められません。この判決は、船員の健康状態に関する透明性の重要性を強調し、虚偽の告知がどのように補償請求を無効にするかを明確にしています。
健康診断での虚偽告知:船員の補償請求を左右するものは?
本件は、レオニデス・P・リレラ氏がユナイテッド・フィリピン・ラインズ社を相手に、永続的な労働災害補償を求めて起こした訴訟です。リレラ氏は3等航海士として乗船中に体調を崩し、日本で治療を受けました。帰国後、会社指定医から高血圧と糖尿病は遺伝性であり、業務に起因するものではないと診断されました。しかし、リレラ氏は、高血圧性心血管疾患、胸水、膝関節炎と診断した別の医師の診断を基に、補償を請求しました。しかし裁判所は、リレラ氏が以前の健康診断で高血圧と糖尿病の既往歴を隠蔽していたため、補償を受ける資格がないと判断しました。
船員の雇用は、契約時に署名する契約によって規制されます。これらの契約の規定が法律、道徳、公共の秩序、または公共の政策に反しない限り、それらは当事者間では法律としての効力を持ちます。船員とその雇用者は相互の合意によって規制されますが、POEA規則および規制では、POEA-SECをすべての船員の契約に組み込む必要があります。本件において裁判所は、POEA-SEC第20条(E)に照らし、リレラ氏が過去の高血圧と糖尿病の診断を隠蔽したと判断しました。この条項は、PEMEで既存の疾患を故意に隠蔽した船員は、虚偽表示の責任を負い、補償および給付を受ける資格がないと規定しています。
裁判所は、リレラ氏が以前の雇用主との2009年のPEMEで高血圧と診断され、メタプロロールを服用していた事実を指摘しました。また、2010年には糖尿病と診断され、メトホルミンを服用していました。しかし、2012年1月のPEMEでは、高血圧、心臓病、リウマチ熱、糖尿病にかかったことがあるかどうか尋ねられた際に、虚偽の申告をしました。最高裁判所は、Lerona v. Sea Power Shipping Enterprises, Inc.の判例を引用し、PEMEで高血圧を告知しなかった船員の補償請求を否認しました。リレラ氏が虚偽告知をしたことは、自身の健康状態について会社を欺こうとした意図を示唆しています。
リレラ氏は、会社指定医が240日以内に明確な評価を下さなかったため、第三者の医師の意見を求めることができなかったと主張しました。しかし、裁判所は、PEMEに合格しても、意図的な隠蔽を正当化することはできず、労働災害補償請求を却下できないと指摘しました。PEMEは、船員の生理的状態の概要を把握するものであり、隠れた病状をすべて発見できるものではありません。
リレラ氏は高血圧性心血管疾患、糖尿病、変形性関節症に苦しんでいましたが、裁判所はPOEA-SECに基づいて、これらの疾患が労働災害と関連しているとは認めませんでした。高血圧性心血管疾患については、船員が処方された薬を遵守し、医師が推奨する生活習慣の改善を行っていたことを示す証拠が必要でした。糖尿病は遺伝性の疾患であり、業務に起因するものではないとされました。また、リレラ氏は乗船中に変形性関節症の症状を訴えておらず、業務との因果関係も示されませんでした。
最高裁判所は会社指定医の評価を重視しました。会社指定医は、リレラ氏の治療開始から職場復帰が可能と判断するまで、継続的に診察と治療を行ってきました。一方、リレラ氏が選んだ医師は、診察を一度行っただけで、診断に至った経緯を詳しく説明しませんでした。裁判所は、Montierro v. Rickmers Marine Agency Phils., Inc.とHernandez v. Magsaysay Maritime Corporationの判例を引用し、会社指定医の評価を優先しました。会社指定医は船員の健康状態を継続的に監視し、正確な診断と障害の程度を評価する上でより有利な立場にあると判断されたからです。
以上のことから、裁判所は控訴裁判所の判決を支持し、リレラ氏の永続的な労働災害補償請求を却下しました。この判決は、船員が雇用前の健康診断で正確な情報を提供することの重要性を明確にし、虚偽の告知が労働災害補償請求に与える影響を強調しています。
FAQs
本件の主な争点は何でしたか? | 主な争点は、船員が雇用前の健康診断で過去の病歴を隠蔽した場合、労働災害補償を受ける資格があるかどうかでした。裁判所は、虚偽告知は補償の対象とならないと判断しました。 |
POEA-SECとは何ですか? | POEA-SEC(Philippine Overseas Employment Administration-Standard Employment Contract)は、フィリピン海外雇用庁が定める標準雇用契約であり、海外で働くフィリピン人船員の権利と義務を規定しています。 |
PEMEで病歴を隠蔽するとどうなりますか? | PEMEで病歴を故意に隠蔽すると、船員は虚偽表示の責任を負い、労働災害補償および給付を受ける資格を失う可能性があります。また、雇用契約の解除や行政処分を受ける可能性もあります。 |
なぜ会社指定医の診断が重視されるのですか? | 会社指定医は、船員の治療開始から職場復帰が可能と判断するまで、継続的に診察と治療を行っています。そのため、船員の健康状態をより詳細に把握しており、正確な診断を下せる可能性が高いと判断されるためです。 |
糖尿病や高血圧は労働災害と認められますか? | 糖尿病は一般的に遺伝性の疾患であり、業務に起因するものではないとされています。高血圧性心血管疾患については、業務との因果関係を示す具体的な証拠が必要です。 |
本件は船員の雇用にどのような影響を与えますか? | 本件は、船員が雇用前の健康診断で正確な情報を提供することの重要性を改めて示しました。虚偽の告知は労働災害補償請求に影響を与えるだけでなく、雇用関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。 |
第三者の医師の意見を求める必要はありますか? | 会社指定医の診断に異議がある場合、通常は第三者の医師の意見を求める手続きが必要となります。しかし、本件では、船員が過去の病歴を隠蔽していたため、第三者の医師の意見を求める手続きの有無は判断に影響を与えませんでした。 |
高血圧性心血管疾患と診断されましたが、労働災害補償を受けるにはどうすればいいですか? | 高血圧性心血管疾患と診断された場合、労働災害補償を受けるには、業務との因果関係を示す具体的な証拠が必要です。また、処方された薬を遵守し、医師が推奨する生活習慣の改善を行っていたことを示す必要があります。 |
本判決は、船員として働く上で健康状態を正直に開示することが非常に重要であることを明確にしています。既存の健康状態を隠蔽すると、たとえ勤務中に健康上の問題が発生しても、補償を受ける権利を失う可能性があります。この判決は、誠実さの重要性と、雇用契約の条件を理解し、遵守することの重要性を強調しています。
本判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、お問い合わせまたはfrontdesk@asglawpartners.comまで、ASG Lawにご連絡ください。
免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的助言については、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:RILLERA V. UNITED PHILIPPINE LINES, INC., G.R. No. 235336, 2020年6月23日
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