船員の労働災害:船医の最終診断遅延と永続的全労働不能給付の権利

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本判決は、海外就労船員の労働災害における船医の最終診断の重要性を明確にしています。船医が所定の期間内に最終的な診断を下さなかった場合、船員は法的に永続的全労働不能給付を受ける権利があります。本稿では、この原則に基づき、船員の権利と雇用者の義務について解説します。

最終診断の遅延は船員をどう変えるか:労働災害と永続的全労働不能給付の権利

本件は、アシスタント・ブッチャーとして雇用されたジョン・A・パスター氏が、乗船中の事故により左肘と腰を負傷し、治療を受けたものの、船医からの最終的な労働能力評価が所定の期間内に行われなかったため、永続的全労働不能給付を求めた事案です。争点は、船員が永続的全労働不能給付を受ける権利があるかどうかでした。

本件において重要なのは、2010年フィリピン海外雇用庁標準雇用契約(POEA-SEC)における船員の労働災害に関する規定です。POEA-SEC第20条(A)項は、船員が業務に関連する傷害または疾病を負った場合、雇用者は船員を会社指定医に診察させ、会社指定医は送還日から120日以内に船員の労働能力または障害の程度を明確に評価する責任を負うと定めています。120日を超えても診断が確定しない場合、一時的な全労働不能期間は最大240日まで延長されます。この期間内に最終診断が出されない場合、船員の障害は法的に永続的かつ全面的であると見なされます。

最高裁判所は、会社指定医が240日の延長期間内に最終診断を下さなかったため、パスター氏の障害は法的に永続的かつ全面的であると判断しました。裁判所は、会社指定医が診断期間内に労働能力の評価を行う義務を怠った場合、船員は自動的に永続的全労働不能給付を受ける権利が生じると判示しました。重要な点として、裁判所は、船員が労働災害給付を請求する上で、障害そのものではなく、労働能力の喪失を補償することを強調しました。

会社指定医の評価に不満がある場合、POEA-SECは船員が別の医師の意見を求めることができると規定しています。しかし、本判決では、会社指定医が所定の期間内に有効な評価を行わなかったため、第三者の医師による評価を求める必要はないとされました。船医が適時に評価を下さなかった場合、法的措置により船員の障害が全面的かつ永続的であると判断されるためです。雇用者は、裁判手続きを経ずに、船員に対して適切な補償を提供することにより、訴訟を回避することができます。

裁判所は、Collective Bargaining Agreement(CBA:団体交渉協約)に基づき、パスター氏に80,000米ドルの給付金を支払うよう命じました。さらに、弁護士費用も認められました。本判決は、海外就労船員の労働災害における雇用者の責任を明確にし、船員の権利を擁護する上で重要な判例となります。

FAQs

本件の主要な争点は何でしたか? 船医が所定の期間内に最終診断を下さなかった場合に、船員が永続的全労働不能給付を受ける権利があるかどうかでした。
POEA-SECとは何ですか? フィリピン海外雇用庁標準雇用契約のことで、海外で働く船員の雇用条件や労働災害に関する規定を定めています。
会社指定医の役割は何ですか? 労働災害に遭った船員の治療を担当し、その労働能力または障害の程度を評価する責任があります。
会社指定医が診断を下す期間はどのくらいですか? 送還日から120日以内ですが、必要な場合は最大240日まで延長されます。
最終診断が遅れた場合、どうなりますか? 船員の障害は法的に永続的かつ全面的であると見なされ、永続的全労働不能給付を受ける権利が生じます。
船員は会社指定医の評価に不満がある場合、どうすればいいですか? 別の医師の意見を求めることができますが、会社指定医が有効な評価を行わなかった場合は、その必要はありません。
CBAとは何ですか? Collective Bargaining Agreementの略で、団体交渉協約のことです。船員の労働条件や給付金について定めています。
永続的全労働不能とはどのような状態を指しますか? 労働者がその通常の業務を遂行できない状態を指し、必ずしも完全な麻痺や無力状態を必要としません。
船員は弁護士費用を請求できますか? 労働災害給付を請求するために訴訟を起こす必要があった場合、弁護士費用を請求できる場合があります。

本判決は、海外就労船員の労働災害における権利を保護し、雇用者に対する責任を明確にする上で重要な役割を果たします。今後、同様の紛争が生じた際には、本判決が重要な判断基準となるでしょう。

本判決の特定の状況への適用に関するお問い合わせは、お問い合わせいただくか、frontdesk@asglawpartners.comまでメールでご連絡ください。

免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的ガイダンスについては、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:JON A. PASTOR V. BIBBY SHIPPING PHILIPPINES, INC., G.R. No. 238842, 2018年11月19日

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