フィリピン最高裁判所は、船員の疾病に対する補償請求において、職務関連性の推定と、補償を受けるための要件との間の区別を明確化しました。この判決は、疾病が職業病のリストに含まれていない場合でも、船員が補償を受けられる可能性を残しつつ、船員には一定の立証責任があることを確認したものです。重要なのは、単に職務に関連する病気であるというだけでなく、その病気が実際に仕事によって引き起こされたり、悪化したりしたことを証明する必要があるということです。この判決は、今後の船員保険に関する訴訟において、重要な判例となるでしょう。
転倒事故から脳腫瘍発覚、職務起因性の証明は?
本件は、船員のベネディクト・N・ロマーナ氏が、乗船中に金属製の天井が落下し頭部を負傷したことがきっかけで脳腫瘍(血管芽腫)を発症し、その後、障害給付を求めた訴訟です。ロマーナ氏は、自身の病気が職務に起因すると主張しましたが、雇用主であるマグサイサイ・マリタイム社らはこれを否定。会社指定医は、ロマーナ氏の病気が職務に関連するものではないとの見解を示しました。裁判所は、船員の病気が職務に関連しているという推定と、実際に補償を受けるための要件との間の法的区別について判断を下すことになりました。
フィリピンの2000年POEA-SEC(フィリピン海外雇用庁標準雇用契約)の下では、特定の職業病による障害または死亡は「職務関連の病気」と見なされます。しかし、POEA-SECの第20条(B)(4)は、リストにない病気についても、職務関連の病気であるという反論可能な推定を認めています。重要なのは、この推定が、リストにない病気でも障害給付を受けられる可能性を残している点です。ただし、船員は、単に病気が職務に関連する可能性があるというだけでなく、その病気が実際に仕事によって引き起こされたり、悪化したりしたことを証明する責任があります。
最高裁判所は、職務関連性の推定と補償可能性との間には明確な区別があることを強調しました。職務関連性とは、船員の病気が仕事に関連している可能性があるという推定を意味するに過ぎません。一方、補償可能性とは、船員が実際に補償や給付を受ける権利があるかどうかを意味し、そのためには、船員の労働条件が病気を引き起こしたか、少なくともそのリスクを高めたことを証明する必要があります。
この判決において、裁判所は、Tagle v. Anglo-Eastern Crew Management, Phils., Inc.やLicayan v. Seacrest Maritime Management, Inc.などの過去の判例を引用し、POEA-SECの第20条(B)(4)の推定が、同契約の第32-A条の要件と併せて解釈されるべきであることを明らかにしました。すなわち、職務関連性の推定は認められるものの、補償を受けるためには、(1)船員の仕事がリスクを伴うものであり、(2)病気がそのリスクへの暴露の結果として発生し、(3)一定の暴露期間内に発症し、(4)船員に重大な過失がないという4つの条件を満たす必要があります。
ロマーナ氏の事例において、裁判所は、同氏の脳腫瘍が職務に関連していることを示す十分な証拠がないと判断しました。特に、頭部負傷の主張を裏付ける証拠がなく、また、仕事上の有害物質への暴露が病気のリスクを高めたという具体的な証拠も示されませんでした。従って、ロマーナ氏の障害給付の請求は棄却されました。今回の最高裁の判決は、今後の船員保険に関する訴訟において、重要な判例となるでしょう。
FAQs
本件における主要な争点は何でしたか? | 船員の病気が職務に関連しているという推定と、実際に補償を受けるための要件との関係が争点となりました。裁判所は、両者の間には明確な区別があることを強調しました。 |
POEA-SEC第20条(B)(4)とは何ですか? | これは、POEA-SECのリストにない病気について、職務関連の病気であるという反論可能な推定を定める条項です。しかし、この推定だけでは補償は認められません。 |
補償を受けるためには、どのような条件を満たす必要がありますか? | (1)船員の仕事がリスクを伴うものであり、(2)病気がそのリスクへの暴露の結果として発生し、(3)一定の暴露期間内に発症し、(4)船員に重大な過失がない、という4つの条件を満たす必要があります。 |
会社指定医の診断が重視されるのはなぜですか? | 会社指定医は、船員の健康状態を最もよく把握している立場にあるため、その診断は重要な証拠となります。ただし、船員が独自に医師の診断を求める権利も認められています。 |
ロマーナ氏は、なぜ補償を受けることができなかったのですか? | ロマーナ氏は、自身の脳腫瘍が職務に関連していることを示す十分な証拠を提出できなかったため、補償を受けることができませんでした。特に、頭部負傷の主張を裏付ける証拠がなく、仕事上の有害物質への暴露が病気のリスクを高めたという具体的な証拠も示されませんでした。 |
この判決は、今後の船員保険の訴訟にどのような影響を与えますか? | この判決は、職務関連性の推定と補償可能性の要件を明確化したため、今後の訴訟において重要な判例となるでしょう。船員は、単に病気が職務に関連する可能性があるというだけでなく、その病気が実際に仕事によって引き起こされたり、悪化したりしたことを証明する必要があることを認識する必要があります。 |
船員は自分の医療記録をどのように守るべきですか? | 船員は、乗船前、乗船中、降船後のすべての医療記録を保管しておくことが重要です。これらの記録は、補償請求を行う際に重要な証拠となります。 |
もし会社指定医の診断に納得がいかない場合、船員はどうすれば良いですか? | 船員は、会社とは別の医師に診断を求める権利があります。意見が対立する場合は、会社と船員の合意に基づいて第三の医師に判断を委ねることが可能です。 |
今回の判決は、船員の疾病補償請求における重要な法的原則を明確化するものです。船員は、自身の健康を守るために、日々の労働環境に注意し、異常を感じたらすぐに医師の診断を受けることが重要です。
本判決の具体的な状況への適用に関するお問い合わせは、ASG Lawまでご連絡ください(お問い合わせ)、またはメール(frontdesk@asglawpartners.com)でお問い合わせください。
免責事項:この分析は情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。お客様の状況に合わせた具体的な法的ガイダンスについては、資格のある弁護士にご相談ください。
出典:BENEDICT N. ROMANA v. MAGSAYSAY MARITIME CORPORATION, G.R. No. 192442, 2017年8月9日
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