海外労働者の傷病:雇用主は適切な補償を支払う義務がある
G.R. No. 168922, April 13, 2011
海外で働く労働者が仕事中の事故で怪我をした場合、雇用主は適切な治療と補償を提供する義務があります。しかし、補償の範囲や請求の手続きは複雑であり、労働者自身が自分の権利を理解し、適切に行動することが重要です。本稿では、フィリピン最高裁判所の判例を基に、海外労働者の傷病に関する雇用主の責任と、労働者が補償を請求する際の注意点について解説します。
海外労働者の法的保護
海外で働くフィリピン人労働者(OFW)は、フィリピンの法律によって保護されています。特に重要なのは、フィリピン海外雇用庁(POEA)が定める標準雇用契約です。これは、OFWの権利と雇用主の義務を明確に定めたものであり、労働契約の内容を理解することは、自身の権利を守る上で不可欠です。
POEA標準雇用契約には、以下のような重要な条項が含まれています。
- 労働者の権利:適切な賃金、労働時間、安全な労働環境
- 雇用主の義務:医療費の負担、傷病手当の支給、障害補償
- 紛争解決:労働紛争が発生した場合の解決手続き
また、労働組合との団体交渉協約(CBA)が存在する場合、その内容も労働者の権利に影響を与えます。CBAは、POEA標準雇用契約よりも有利な条件を定めている場合があり、労働者は自身の所属する組合のCBAの内容を確認する必要があります。
本件に関連する重要な条項として、POEA標準雇用契約第20条(B)(2)には、以下のように定められています。
“Repatriate an injured or sick seaman and pay for his treatment and sick leave benefits until he is declared fit to work or his degree of disability has been clearly established by the company designated physician.”
これは、雇用主が負傷または病気の船員を本国に送還し、会社が指定した医師が労働可能と判断するか、障害の程度が明確に確立されるまで、治療費と傷病手当を支払う義務があることを意味します。
事件の経緯
2000年2月、ウィルフレド・アンティキナ氏は、マグサイサイ・マリタイム社を通じて、マスターバルク社が所有・運営するM/Tスター・ランガー号の三等機関士として雇用されました。契約期間は9ヶ月、月給は936米ドルでした。同年9月22日、アンティキナ氏は船のメンテナンス中に左腕を骨折する事故に遭い、ルーマニアの病院で治療を受けました。
その後、アンティキナ氏はフィリピンに帰国し、会社の指定医による診察を受けましたが、症状は改善せず、骨移植手術を勧められました。しかし、アンティキナ氏は手術を拒否し、雇用主に対して障害補償、傷病手当、損害賠償などを請求する訴訟を起こしました。
以下に、訴訟の経緯をまとめます。
- 労働仲裁人:アンティキナ氏の請求を認め、傷病手当、障害補償、弁護士費用を支給するよう命じました。
- 国家労働関係委員会(NLRC):雇用主の訴えを退け、労働仲裁人の決定を支持しました。
- 控訴裁判所:雇用主の訴えを一部認め、傷病手当の支給を否定し、障害補償の金額を減額しました。
アンティキナ氏は、控訴裁判所の決定を不服として、最高裁判所に上訴しました。
最高裁判所は、控訴裁判所の決定を支持し、アンティキナ氏の訴えを退けました。裁判所は、アンティキナ氏が所属する労働組合との団体交渉協約(CBA)の存在を証明できなかったこと、また、POEA標準雇用契約に基づいて障害補償の金額を算定した控訴裁判所の判断を支持しました。
最高裁判所は、以下のように述べています。
“What is indubitable in this case is that petitioner alleged in his Position Paper that there was a CBA with AMOSUP (a local union of which he was purportedly a member) which entitled him to disability benefits in the amount of US$80,000.00. It is elementary that petitioner had the duty to prove by substantial evidence his own positive assertions. He did not discharge this burden of proof when he submitted photocopied portions of a different CBA with a different union.”
この判決は、労働者が自身の権利を主張する際には、証拠を十分に提示する必要があることを示しています。
実務上の教訓
本判例から得られる教訓は、海外労働者が傷病を負った場合、以下の点に注意する必要があるということです。
- 労働契約の内容を理解し、自身の権利を把握する。
- 所属する労働組合のCBAの内容を確認する。
- 事故や傷病に関する証拠(診断書、治療記録など)を保管する。
- 雇用主との交渉や訴訟において、証拠を十分に提示する。
また、雇用主は、OFWの傷病に対して適切な補償を提供する義務を負っています。補償の範囲や金額は、POEA標準雇用契約やCBAによって定められていますが、労働者の状況に応じて柔軟に対応する必要があります。
重要なポイント
- 海外労働者は、POEA標準雇用契約によって保護されている。
- 労働組合のCBAは、労働者の権利に影響を与える。
- 労働者は、自身の権利を主張するために証拠を十分に提示する必要がある。
- 雇用主は、OFWの傷病に対して適切な補償を提供する義務を負う。
よくある質問
Q1: 海外で事故に遭った場合、まず何をすべきですか?
A1: まずは、雇用主に事故の状況を報告し、適切な医療機関で治療を受けてください。また、事故の状況を記録し、証拠となる書類(診断書、治療記録など)を保管してください。
Q2: 傷病手当は、どのような場合に支給されますか?
A2: 傷病手当は、業務上の傷病により労働ができない場合に支給されます。支給期間や金額は、POEA標準雇用契約やCBAによって定められています。
Q3: 障害補償は、どのような場合に支給されますか?
A3: 障害補償は、業務上の傷病により障害が残った場合に支給されます。障害の程度に応じて、補償金額が異なります。
Q4: 雇用主が補償を拒否した場合、どうすればいいですか?
A4: まずは、雇用主と交渉を試みてください。交渉がうまくいかない場合は、フィリピンの労働関係委員会(NLRC)に訴訟を提起することができます。
Q5: 弁護士に相談する必要はありますか?
A5: 補償請求の手続きは複雑であり、法的な知識が必要となる場合があります。弁護士に相談することで、適切なアドバイスやサポートを受けることができます。
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