労働協約が存在する場合の不当労働行為:会社が分裂組合と交渉した場合

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労働協約が存在する場合、会社が分裂組合と交渉することは不当労働行為となる

[G.R. No. 162943, 2010年12月6日]

イントロダクション

労働組合と会社間の関係は、しばしば複雑で、繊細なバランスを必要とします。労働組合は従業員の権利を代表し、会社は事業の円滑な運営を目指します。このバランスが崩れると、紛争が発生し、従業員と会社の双方に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、会社が正当な労働組合を無視し、分裂組合と交渉を始めた場合、法的問題が発生するだけでなく、従業員の士気低下や労働環境の悪化を招く可能性があります。

本稿で解説する最高裁判所の判決(G.R. No. 162943)は、まさにそのような状況下で下されました。この事例は、会社が既存の労働協約を無視し、分裂組合と交渉を行った行為が不当労働行為に該当するかどうかを判断したものです。この判決は、労働協約の重要性と、会社が正当な労働組合との関係を尊重する義務を明確に示しており、フィリピンの労働法における重要な判例の一つとなっています。

法的背景:団体交渉義務と不当労働行為

フィリピンの労働法は、労働者の権利保護と労使関係の安定を目的として、団体交渉権を保障し、不当労働行為を禁止しています。団体交渉とは、労働組合が会社と労働条件や待遇について交渉するプロセスであり、その結果として締結されるのが労働協約(CBA)です。労働協約は、会社と労働組合間の権利義務関係を定める重要な契約であり、法律と同様の効力を持ちます。

労働法第253条は、労働協約が存在する場合の団体交渉義務について規定しています。この条項は、「労働協約が存在する場合、団体交渉義務は、当事者双方がその有効期間中に協約を終了または修正しないことも意味するものとする。ただし、いずれかの当事者は、協約の満了日の少なくとも60日前に、協約を終了または修正する旨の書面による通知を送ることができる。両当事者は、現状を維持し、60日間の期間中、および/または両当事者間で新たな協約が締結されるまで、既存の協約の条件を完全に効力を有するものとして継続する義務を負うものとする。」と定めています。

また、労働法第248条は、使用者の不当労働行為を列挙しており、その中には以下の行為が含まれます。

  • (d) 労働組合の結成または運営を開始、支配、援助、またはその他の方法で妨害すること。労働組合の組織者または支持者に対する財政的またはその他の支援の提供を含む。
  • (i) 労働協約に違反すること。

これらの条項から明らかなように、会社は正当な労働組合との間で締結した労働協約を尊重し、その有効期間中は協約を誠実に履行する義務を負っています。既存の労働協約を無視し、別の組合と交渉することは、労働法が禁止する不当労働行為に該当する可能性があります。

ケースの概要:従業員組合対バイエル・フィリピン

本件の舞台は、製薬会社バイエル・フィリピンとその従業員組合(EUBP)です。EUBPは、バイエルの従業員の唯一の団体交渉機関として認められていました。1997年、EUBPはバイエルと労働協約(CBA)の交渉を行いましたが、賃上げ率を巡って交渉は決裂し、EUBPはストライキに突入しました。労働雇用省(DOLE)長官が紛争に介入する事態となりました。

紛争解決を待つ間、組合員の一部が組合指導部の承認なしに会社の賃上げ案を受け入れました。組合内に対立が生じる中、会社主催のセミナー中に、一部の組合員がFFWからの脱退、新組合(REUBP)の設立、新CBAの締結などを求める決議に署名しました。この決議には、組合員の過半数が署名しました。その後、EUBPとREUBPの間で組合費の取り扱いなどを巡り対立が激化し、バイエルは組合費を信託口座に預ける決定をしました。

EUBPは、バイエルが組合費をEUBPに支払わないことは不当労働行為であるとして、最初に訴訟を提起しました。その後、EUBPは、バイエルがREUBPと交渉し、新たなCBAを締結しようとしていることも不当労働行為であるとして、2回目の訴訟を提起しました。労働仲裁人および国家労働関係委員会(NLRC)は、いずれも管轄権がないとしてEUBPの訴えを退けましたが、控訴院はNLRCの決定を支持しました。EUBPは最高裁判所に上訴しました。

最高裁判所の判断:不当労働行為の成立

最高裁判所は、控訴院の判断を一部覆し、バイエルの行為が不当労働行為に該当すると判断しました。最高裁は、まず、本件が組合内の紛争ではなく、会社による不当労働行為に関する訴訟であることを明確にしました。裁判所は、EUBPが提起した訴訟は、組合の代表権争いではなく、バイエルが既存のCBAを無視し、分裂組合と交渉した行為の違法性を問うものであるとしました。

裁判所は、労働法第253条が定める団体交渉義務に焦点を当てました。裁判所は、「労働協約は、労働と資本の間の安定と相互協力を促進するために締結されるものであることを想起すべきである。使用者は、正当な理由もなく、適切な手続きを踏むことなく、以前に契約していた正式に認証された団体交渉機関との労働協約を一方的に破棄し、別のグループと新たに交渉することを決定することは許されるべきではない。そのような行為が容認されるならば、使用者と労働組合間の交渉は決して誠実かつ有意義なものとはならず、苦労の末に締結された労働協約も尊重されず、信頼されることもなくなるだろう。」と述べ、既存のCBAの重要性を強調しました。

さらに、裁判所は、バイエルがREUBPと交渉し、組合費をREUBPに支払った行為は、EUBPに対する不当労働行為であると認定しました。裁判所は、バイエルがEUBPが正当な団体交渉機関であることを認識していたにもかかわらず、REUBPを支持し、EUBPとのCBAを無視したことは、EUBPに対する敵意の表れであると指摘しました。裁判所は、「回答者らの行為の全体像は、明らかにEUBPに対する敵意に満ちている。」と断じました。

ただし、最高裁判所は、EUBPが求めた精神的損害賠償および懲罰的損害賠償については、法人である労働組合には認められないとして、これを否定しました。しかし、裁判所は、権利侵害に対する名目的損害賠償として25万ペソ、弁護士費用として回収額の10%をEUBPに支払うようバイエルに命じました。また、バイエルに対し、REUBPに支払った組合費をEUBPに支払うよう命じました。

実務上の意義:企業が留意すべき点

本判決は、企業が労働組合との関係において留意すべき重要な教訓を示しています。企業は、従業員の団体交渉権を尊重し、正当な労働組合との間で締結した労働協約を誠実に履行する義務を負っています。既存の労働協約を無視し、分裂組合や別のグループと交渉することは、不当労働行為に該当する可能性があり、法的責任を問われるだけでなく、労使関係の悪化を招く可能性があります。

企業は、組合内の紛争が発生した場合でも、軽率な行動を避け、中立的な立場を維持することが重要です。特定の組合を支持したり、組合運営に介入したりすることは、不当労働行為とみなされるリスクがあります。組合費の取り扱いについても、慎重な対応が求められます。正当な受領者が不明確な場合は、信託口座に預けるなどの措置を講じ、紛争解決後に適切な組合に支払うべきです。

キーレッスン

  • 労働協約の尊重: 企業は、正当な労働組合との間で締結した労働協約を尊重し、その内容を誠実に履行する義務があります。
  • 中立性の維持: 組合内紛争が発生した場合、企業は中立的な立場を維持し、特定の組合を支持するような行為は避けるべきです。
  • 団体交渉義務の履行: 労働協約の有効期間中は、正当な労働組合とのみ団体交渉を行うべきです。分裂組合や別のグループとの交渉は、不当労働行為となる可能性があります。
  • 組合費の適切な管理: 組合費の取り扱いには十分注意し、正当な受領者に確実に支払われるように管理する必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 会社が不当労働行為を行った場合、どのような法的責任を負いますか?

A1. 不当労働行為を行った会社は、労働法に基づき、刑事責任や行政責任を問われる可能性があります。また、損害賠償責任を負う場合もあります。本件のように、名目的損害賠償や弁護士費用が認められることもあります。

Q2. 組合内で紛争が発生した場合、会社はどのように対応すべきですか?

A2. 組合内紛争が発生した場合、会社は中立的な立場を維持し、紛争に介入することは避けるべきです。組合費の取り扱いなど、判断に迷う場合は、労働法の専門家や弁護士に相談することをお勧めします。

Q3. 労働協約の有効期間中に、会社が別の組合と交渉することはできますか?

A3. 原則として、労働協約の有効期間中は、会社は既存の労働協約を締結した正当な労働組合とのみ交渉を行うべきです。別の組合と交渉することは、既存の労働協約の侵害、ひいては不当労働行為となる可能性があります。

Q4. 分裂組合とはどのような組合ですか?

A4. 分裂組合とは、既存の労働組合から分裂してできた新しい労働組合のことです。本件では、EUBPから分裂したREUBPが分裂組合にあたります。分裂組合の正当性は、労働法に基づき判断されることになります。

Q5. 労働組合のない会社でも、不当労働行為は問題になりますか?

A5. はい、労働組合のない会社でも、従業員の団体交渉権を侵害する行為は不当労働行為となる可能性があります。例えば、従業員が労働組合を結成しようとする動きを妨害する行為などは、不当労働行為に該当する可能性があります。

ASG Lawは、フィリピンの労働法務に精通しており、不当労働行為に関するご相談も承っております。労使関係でお困りの際は、お気軽にご連絡ください。

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