契約期間満了を理由とする解雇は違法となりうる:教員の正規雇用 status に関する重要な判例
G.R. No. 107234, August 24, 1998
はじめに
学校法人において、契約期間満了を理由に教員を解雇するケースは少なくありません。しかし、長期間にわたり雇用が継続している場合、契約期間満了による解雇が正当と認められない場合があります。本稿では、フィリピン最高裁判所が示した重要な判例、アルフレド・ボンガル対国家労働関係委員会 (NLRC) およびAMAコンピュータカレッジ事件 を詳細に分析し、教員の雇用契約と正規雇用 status について解説します。この判例は、特に私立学校の教員、そして契約労働者を雇用するすべての企業にとって、重要な指針となるでしょう。
法的背景:有期雇用契約と正規雇用
フィリピンの労働法では、雇用形態は大きく有期雇用と正規雇用に分けられます。有期雇用契約は、特定の期間やプロジェクトのために雇用される形態であり、契約期間満了とともに雇用関係が終了するのが原則です。一方、正規雇用は期間の定めのない雇用であり、正当な理由がない限り解雇は認められません。
私立学校の教員の場合、私立学校規則マニュアル (Manual of Regulations for Private Schools) において、3年間の試用期間が定められています。この試用期間を満了し、かつ勤務評価が良好であれば、教員は正規雇用の status を取得すると解釈されています。しかし、学校側が契約を更新し続けることで、教員を正規雇用 status から遠ざけようとする事例も存在します。
労働法第294条(旧労働法第280条)は、正規雇用を以下のように定義しています。
「正規従業員とは、通常、事業主の通常の事業または業務に必要不可欠な活動に従事するために合理的な期間雇用された者をいう。プロジェクト従業員または季節従業員の定義に該当しない従業員は、正規従業員とみなされる。」
この定義に基づき、最高裁判所は、雇用契約の名称や形式にとらわれず、実質的な雇用関係に着目して正規雇用 status を判断する姿勢を示しています。
事件の概要:ボンガル対AMAコンピュータカレッジ事件
原告のアルフレド・ボンガル氏は、AMAコンピュータカレッジ (AMA) に講師として雇用され、社会科学と言語学部で教鞭を執っていました。彼の雇用契約は複数回更新され、1986年11月28日に始まり、1990年5月31日に終了しました。AMAは1990年6月2日に満了する契約を更新しないことを決定しました。
ボンガル氏は、3年以上の勤務を経ており、私立学校規則マニュアルに定められた教員の試用期間を超えていることから、正規雇用の status を取得したと主張しました。これに対し、AMAは、契約期間満了による雇用終了であり、ボンガル氏の勤務態度の不満(授業で教科書を読んでいるだけで、革新的な指導がないなど)を理由として解雇したと主張しました。AMAは、ボンガル氏が契約教員であり、契約期間満了により雇用関係は終了したと主張し、不当解雇には当たらないと反論しました。
また、AMAは、ボンガル氏がフルタイム講師として勤務したのは2年9ヶ月半であり、正規雇用に必要な3年間のフルタイム勤務に満たないと主張しました。
ボンガル氏は不当解雇を訴え、労働仲裁官リカルド・C・ノラは1991年4月2日、ボンガル氏に解雇手当とバックペイ (未払い賃金) の支払いを命じる決定を下しました。AMAはこれを不服としてNLRCに上訴しましたが、NLRCは1992年9月8日、労働仲裁官の決定を支持し、AMAの上訴を棄却しました。ボンガル氏も復職が認められなかったこと、慰謝料と懲罰的損害賠償が認められなかったことを不服として上訴しました。そして、最高裁判所に上告したのが本件です。
最高裁判所の判断:契約更新の繰り返しと正規雇用
最高裁判所は、労働仲裁官とNLRCが復職命令を出さなかったことを誤りであると判断し、ボンガル氏の訴えを認めました。裁判所は、解雇の主な理由が契約期間満了であるというAMAの主張に対し、ボンガル氏が約4年間勤務していた事実を指摘し、これを否定しました。また、AMAが主張する3年間のフルタイム勤務要件を満たしていないという点についても、NLRCの意見を引用し、以下のように述べています。
「もし、この(我々が考えるに、正義の実現にはあまりにも技術的すぎる)理屈が、教員の正規雇用 status を決定する過程で採用されるならば、教員が無限に非正規雇用のままになる可能性は、そう遠くない将来に予想される。なぜなら、悪質な学校が試用期間に関する規則を無効化したり、無意味にしたりするためにしなければならないことは、教員の採用または雇用を非正規雇用に限定するか、または、本件の原告に起こったように、正規雇用の status を非正規雇用 status に戻して、現職の教員が正規雇用になるのを防ぐことである。これは、試用期間に関する労働法規定を巧妙に回避する方法である。」
裁判所は、解雇が契約期間満了によってもたらされたという前提では、当事者間の関係がこじれているという判断の根拠はないとしました。さらに、AMAが主張する学生からの苦情による解雇についても、事実に基づいた根拠がなく、認められないとしました。ボンガル氏には、正当な手続きである通知と弁明の機会が与えられておらず、解雇は違法であると判断されました。
最高裁判所は、違法解雇された従業員は、原則として復職とバックペイを受ける権利があると判示しました。しかし、復職が現実的でない場合、例えば、労使関係が著しく悪化している場合や、解雇された従業員が以前に就いていた職が存在しない場合などには、解雇手当による代替が認められる場合があります。本件では、ボンガル氏が訴訟中に定年に近づいていたことを考慮し、復職ではなく解雇手当とバックペイ、退職金 (該当する場合) の支払いを命じました。
実務上の教訓:企業が学ぶべきこと
本判例は、企業、特に教育機関が有期雇用契約を濫用し、従業員を正規雇用 status から遠ざけることを戒めるものです。契約更新を繰り返すことで、形式的には有期雇用契約であっても、実質的には正規雇用とみなされる場合があります。企業は、以下の点に留意する必要があります。
- 契約更新の繰り返しは正規雇用とみなされるリスクがある:有期雇用契約を何度も更新し、従業員が長期間継続して勤務している場合、契約期間満了による解雇は違法と判断される可能性があります。
- 客観的な評価基準と正当な解雇理由が必要:契約期間満了による雇止めを行う場合でも、客観的な評価基準に基づき、かつ正当な理由が必要です。単に契約期間満了を理由とするだけでは、違法解雇と判断されるリスクがあります。
- 正当な解雇手続きの遵守:従業員を解雇する場合、解雇理由の通知と弁明の機会を与えるなど、労働法で定められた正当な解雇手続きを遵守する必要があります。
- 退職金制度の整備:長期勤務した従業員が解雇された場合、退職金制度に基づいた適切な補償を行うことが重要です。
主要なポイント
- 有期雇用契約の形式にとらわれず、実質的な雇用関係が重視される。
- 契約更新を繰り返した場合、正規雇用とみなされる可能性が高い。
- 契約期間満了による解雇であっても、客観的な理由と正当な手続きが必要。
- 長期勤務者には、解雇手当や退職金などの適切な補償が必要。
よくある質問 (FAQ)
- Q: 有期雇用契約を更新し続ければ、従業員をずっと非正規雇用のままにできますか?
A: いいえ、できません。契約更新を繰り返した場合、裁判所は実質的な雇用関係を重視し、正規雇用とみなす可能性があります。 - Q: 契約期間満了時に、一方的に雇止めできますか?
A: いいえ、できません。客観的な評価基準に基づいた正当な理由が必要です。また、解雇予告期間や解雇手当の支払いが必要となる場合があります。 - Q: 試用期間中の従業員は、簡単に解雇できますか?
A: いいえ、試用期間中であっても、客観的かつ合理的な理由が必要です。また、不当解雇と判断された場合、損害賠償責任を負う可能性があります。 - Q: 違法解雇された場合、どのような救済措置がありますか?
A: 復職、バックペイ (未払い賃金)、解雇手当、慰謝料、懲罰的損害賠償などが認められる場合があります。 - Q: 正規雇用と非正規雇用の違いは何ですか?
A: 正規雇用は期間の定めのない雇用であり、解雇規制が厳しく、社会保険や福利厚生が充実しているのが一般的です。一方、非正規雇用は期間の定めのある雇用であり、雇用が不安定で、待遇面で正規雇用に劣る場合があります。 - Q: 契約社員から正規社員になることはできますか?
A: はい、契約社員から正規社員への登用制度がある企業もあります。また、契約更新を繰り返すことで、実質的に正規雇用とみなされる場合もあります。 - Q: 労働組合に加入するメリットはありますか?
A: 労働組合は、労働者の権利を守り、労働条件の改善を交渉する団体です。加入することで、不当解雇や労働問題に対して、組織的な支援を受けることができます。
ASG Lawからのお知らせ
ASG Lawは、フィリピンの労働法務に精通した法律事務所です。当事務所は、企業の人事労務問題、労働紛争、契約書作成・リーガルチェックなど、幅広い分野でリーガルサービスを提供しております。本稿で解説した正規雇用に関する問題や、その他労働法に関するご相談がございましたら、お気軽にkonnichiwa@asglawpartners.comまでご連絡ください。お問い合わせページからもお問い合わせいただけます。御社の人事労務管理を強力にサポートさせていただきます。


Source: Supreme Court E-Library
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