試用期間中の従業員解雇:違法となるケースと企業が取るべき対策 – オリエント・エクスプレス事件判例解説

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試用期間中の不当解雇を防ぐ:明確な基準設定の重要性

[ G.R. No. 113713, 1997年6月11日 ]
オリエント・エクスプレス・プレイスメント・フィリピン対国家労働関係委員会事件

フィリピンでは、多くの労働者が試用期間付きで雇用されますが、その期間中の解雇を巡るトラブルは後を絶ちません。試用期間は、企業が従業員の能力や適性を評価する期間であると同時に、従業員にとっても雇用条件を見極める期間です。しかし、企業が一方的に「能力不足」などを理由に解雇してしまうケースも少なくありません。今回の判例解説では、最高裁判所が示した重要な判断、すなわち試用期間中の従業員を解雇するには、事前に明確な評価基準を従業員に提示する必要があるという点を中心に解説します。具体的な事例を通して、企業が不当解雇のリスクを避け、適法に試用期間を運用するための対策を学びましょう。

明確な基準提示の義務:労働法が企業に求めるもの

フィリピン労働法典第281条は、試用期間付き雇用について規定しています。重要なのは、この条項が「合理的な基準」という概念を導入している点です。条文には、

「試用期間中の従業員のサービスは、雇用主が従業員に雇用時に周知した合理的な基準に従って、正規従業員としての資格を満たさない場合に終了することができる。」

と明記されています。つまり、企業は試用期間中の従業員を解雇する場合、単に「能力不足」と主張するだけでは不十分であり、事前にどのような基準で評価するのかを具体的に従業員に伝え、その基準に照らして従業員が不適格であったことを証明する責任を負うのです。

この「合理的な基準」は、職種や業務内容によって異なりますが、一般的には以下のような要素が含まれます。

  • 業務遂行能力: 業務に必要な知識、スキル、経験がどの程度備わっているか。
  • 勤務態度: 出勤状況、協調性、責任感など、組織の一員として働く上で重要な姿勢。
  • 目標達成度: 試用期間中に設定された目標をどの程度達成できたか。

これらの基準は、抽象的なものではなく、具体的かつ客観的に評価できるものでなければなりません。例えば、「コミュニケーション能力」という基準を設ける場合、「顧客からの問い合わせに対し、適切な情報提供と丁寧な対応ができる」といった具体的な行動レベルで定義する必要があります。また、これらの基準は、雇用契約締結時や試用期間開始前に、従業員に書面で明示的に伝えることが不可欠です。口頭での説明だけでは、後々トラブルの原因となりかねません。

事件の経緯:オペレーターとして採用された労働者の不当解雇

オリエント・エクスプレス・プレイスメント・フィリピン事件は、海外派遣労働者の試用期間中の解雇に関する事例です。原告のアントニオ・フローレス氏は、クレーンオペレーターとして月給500米ドルで1年間の雇用契約を結びました。しかし、サウジアラビアに派遣されてわずか1ヶ月5日後、勤務先の企業から「能力不足」と判断され、解雇・本国送還されてしまいます。

フローレス氏は、解雇理由が不当であるとして、フィリピン海外雇用庁(POEA)に訴えを起こしました。オリエント・エクスプレス側は、フローレス氏の業務評価シートを証拠として提出し、能力不足と非協力的な勤務態度が解雇理由であると主張しました。

POEAは、フローレス氏の訴えを認め、オリエント・エクスプレス社に対し、契約期間の残りの期間の給与相当額の支払いを命じました。POEAは、解雇理由とされた能力不足について、企業側が事前に合理的な業務基準をフローレス氏に示していなかった点を重視しました。また、国家労働関係委員会(NLRC)もPOEAの決定を支持し、オリエント・エクスプレス社側の再審請求を棄却しました。

オリエント・エクスプレス社は、NLRCの決定を不服として、最高裁判所に上告しました。最高裁では、フローレス氏が実際にクレーンオペレーターとして業務を行っていた事実は認めましたが、解雇の有効性については、下級審の判断を支持しました。最高裁は、

「労働法典第281条に基づき、試用期間中の従業員の解雇を正当化するためには、雇用主は、従業員が正規従業員としての資格を得るための合理的な基準を、雇用時に従業員に周知していたことを示す必要がある。本件において、請願者(オリエント・エクスプレス社)は、被請願者(フローレス氏)の業績不良を評価するための合理的な基準を特定しておらず、そのような基準がマニラでの採用時に彼に知らされていたことを証明することさえ怠った。」

と判示し、オリエント・エクスプレス社の上告を棄却しました。この判決は、試用期間中の解雇における企業側の基準提示義務を改めて明確にしたものとして、重要な意義を持ちます。

企業が講じるべき対策:不当解雇のリスクを回避するために

オリエント・エクスプレス事件の判決は、企業が試用期間中の従業員を解雇する際に、どのような点に注意すべきかを示唆しています。企業は、以下の対策を講じることで、不当解雇のリスクを大幅に減らすことができます。

  1. 明確な評価基準の策定と周知: 職種ごとに具体的な評価項目と基準を定め、雇用契約締結時または試用期間開始前に、書面で従業員に提示する。
  2. 試用期間中の定期的なフィードバック: 定期的な面談などを通じて、従業員の業務遂行状況や課題についてフィードバックを行い、改善の機会を与える。
  3. 評価記録の作成と保管: 評価の過程や結果を記録として残し、解雇の必要が生じた場合に、客観的な証拠として提示できるようにする。
  4. 解雇理由の明確化と記録: 解雇を決定する場合には、具体的な理由を従業員に書面で通知し、記録として保管する。
  5. 労働法専門家への相談: 試用期間の運用や解雇の手続きについて、労働法専門家(弁護士など)に事前に相談し、 legal compliance を確認する。

これらの対策を講じることで、企業は試用期間を適法かつ効果的に運用し、不当解雇のリスクを最小限に抑えることができます。また、従業員との信頼関係を構築し、長期的な人材育成にも繋がるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 試用期間はどのくらい設定できますか?
A1. フィリピン労働法では、試用期間の長さについて明確な上限規定はありません。しかし、一般的には6ヶ月以内が妥当とされています。ただし、雇用契約や労働協約で異なる定めがある場合は、そちらが優先されます。
Q2. 試用期間中に解雇する場合、解雇予告期間や退職金は必要ですか?
A2. 試用期間中の解雇は、正規従業員の解雇とは異なり、解雇予告期間や退職金は原則として不要です。ただし、雇用契約や労働協約で異なる定めがある場合は、そちらに従う必要があります。
Q3. 試用期間中に従業員が自己都合で退職する場合、何か手続きは必要ですか?
A3. 従業員が自己都合で退職する場合でも、企業側は退職の手続きを行う必要があります。具体的には、最終給与の支払い、源泉徴収票の発行、退職証明書の発行などです。また、従業員から退職届を提出してもらうことが望ましいです。
Q4. 試用期間が終わったら、自動的に正規従業員になるのですか?
A4. いいえ、試用期間が満了したからといって、自動的に正規従業員になるわけではありません。企業が従業員を正規従業員として採用する意思表示を行う必要があります。多くの場合、試用期間満了前に、企業から従業員に対して、正規従業員としての採用通知が書面で交付されます。
Q5. 評価基準を提示しなかった場合、解雇は必ず違法になりますか?
A5. はい、評価基準を事前に提示しなかった場合、試用期間中の解雇は違法と判断される可能性が非常に高くなります。オリエント・エクスプレス事件の判例からも明らかなように、最高裁判所は、企業側の基準提示義務を厳格に解釈しています。

試用期間中の従業員解雇に関するご相談は、フィリピン法務に精通したASG Lawにお任せください。当事務所は、マカティ、BGCを拠点とし、労働法務に関する豊富な経験と実績を有しています。企業様の状況を詳細にヒアリングし、最適な legal advice をご提供いたします。まずはお気軽にご連絡ください。

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