警備員が職務命令に基づき銃器を所持する場合、善意であれば不法所持の罪に問われない
HILARIO COSME Y TERENAL, PETITIONER, VS. PEOPLE OF THE PHILIPPINES, RESPONDENT. G.R. No. 261113, November 04, 2024
フィリピンでは、銃器の不法所持は重大な犯罪です。しかし、警備員が職務命令(DDO)に基づいて銃器を所持する場合、その銃器がライセンスされていると信じる善意があれば、不法所持の罪に問われない可能性があります。この最高裁判所の判決は、警備業界における銃器所持の責任範囲を明確にする上で重要な意味を持ちます。
はじめに
銃器の不法所持は、フィリピンにおいて深刻な問題であり、社会の安全を脅かす犯罪の一つです。しかし、特に警備員のような特定の職業においては、銃器の所持が職務上必要となる場合があります。今回の事件は、警備員が職務命令に基づいて銃器を所持していた場合に、その銃器が実際にはライセンスされていなかったとしても、不法所持の罪に問われるかどうかという重要な法的問題を提起しました。この判決は、警備業界における銃器所持の責任範囲を明確にする上で、今後の判例に大きな影響を与える可能性があります。
法的背景
フィリピン共和国法第10591号(包括的銃器弾薬規制法)第28条(a)は、銃器および弾薬の不法な取得または所持を犯罪として規定しています。この法律において重要なのは、銃器の所持自体が禁止されているのではなく、ライセンスまたは許可なく銃器を所持することが違法であるという点です。
最高裁判所は、不法所持の罪における構成要件(corpus delicti)を確立するために、検察が以下の点を証明する責任を負うと判示しました。
- 銃器が存在すること
- 被告が銃器を所有または所持しており、かつ、当該銃器を所持または携帯するための対応するライセンスまたは許可を有していないこと
「または許可」という文言が重要です。なぜなら、銃器の所持者が必ずしもライセンス保持者であるとは限らないからです。ライセンス保持者でない者は、職務命令(DDO)のような法律で認められた許可証を所持していることが期待されます。2018年の共和国法第10591号の改正施行規則は、DDOが警備員に対し、特定の期間および勤務場所において支給された銃器を携帯する権限を与えるものと規定しています。
共和国法第10591号第28条(a)
「第28条 銃器および弾薬の不法な取得、または所持 – 銃器および弾薬の不法な取得、所持は、以下のように処罰されるものとする。
(a) 短銃を不法に取得または所持する者は、中程度の期間のprisión mayorの刑に処する。」
事件の概要
事件の被告人であるヒラリオ・コスメは、あるガソリンスタンドで勤務中の警備員でした。彼は勤務中、制服を着用しておらず、銃器の所持許可証を提示することができませんでした。警察官は彼を逮捕し、銃器と弾薬を押収しました。検察は、コスメが銃器の所持許可証を持っていないことを証明する証拠を提出しました。一方、コスメは、自分が警備会社に雇用されており、職務命令に基づいて銃器を所持していたと主張しました。彼はまた、会社から銃器はライセンスされていると伝えられていたと証言しました。
地方裁判所はコスメを有罪と判決しましたが、控訴裁判所もこれを支持しました。控訴裁判所は、コスメが銃器の所持許可証を持っていなかったこと、および職務命令を提示できなかったことを重視しました。しかし、最高裁判所は、これらの裁判所の判決を覆し、コスメを無罪としました。
最高裁判所の判決の重要なポイントは以下の通りです。
- 警備員は、職務命令に基づいて銃器を所持する場合、その銃器がライセンスされていると信じる善意があれば、不法所持の罪に問われない。
- 職務命令は、警備員に対し、特定の期間および勤務場所において支給された銃器を携帯する権限を与える。
- 検察は、被告が銃器を所持するためのライセンスまたは許可を有していないことを証明する責任を負う。
最高裁判所は、コスメが職務命令に基づいて銃器を所持しており、会社から銃器はライセンスされていると伝えられていたことから、彼には銃器を不法に所持する意図がなかったと判断しました。裁判所はまた、警備会社が銃器のライセンスを取得する責任を負っており、警備員は会社がその義務を履行していると信じる権利があると指摘しました。
最高裁判所は、以下のように述べています。
「コスメは、職務命令に記載された「警備員に支給された銃器はライセンスされている」という記述に依拠する権利があり、その記述の真実性を証明する証拠を雇用主に要求することは期待できない。」
「警備員が職務命令で許可された場所および期間内に銃器を所持していた場合、彼は共和国法第10591号およびその施行規則に基づいて許可された権限の範囲内で行動していたと言える。」
実務上の影響
この判決は、フィリピンの警備業界に大きな影響を与える可能性があります。特に、警備会社は、警備員に支給する銃器のライセンスを確実に取得し、警備員が職務命令を常に携帯するように徹底する必要があります。警備員は、職務命令の内容を理解し、その指示に従う責任があります。また、万が一、銃器の所持許可を求められた場合には、職務命令を提示できるように準備しておく必要があります。
この判決は、今後の同様の事件において、警備員の善意の抗弁が認められる可能性を高めるでしょう。しかし、警備員が職務命令の内容を理解していなかったり、職務命令に違反する行為を行っていた場合には、不法所持の罪に問われる可能性が残ります。
主要な教訓
- 警備会社は、警備員に支給する銃器のライセンスを確実に取得すること。
- 警備員は、職務命令を常に携帯し、その内容を理解すること。
- 警備員は、職務命令に違反する行為を行わないこと。
よくある質問
Q: 警備員が職務命令なしに銃器を所持していた場合、どうなりますか?
A: 職務命令なしに銃器を所持していた場合、不法所持の罪に問われる可能性が高くなります。職務命令は、警備員が銃器を所持する正当な理由を証明する重要な書類です。
Q: 警備会社が銃器のライセンスを取得していなかった場合、どうなりますか?
A: 警備会社が銃器のライセンスを取得していなかった場合、警備会社の経営者または管理者は、銃器の不法所持で起訴される可能性があります。
Q: 警備員が職務命令に違反する行為を行っていた場合、どうなりますか?
A: 警備員が職務命令に違反する行為を行っていた場合、不法所持の罪に問われる可能性が高くなります。例えば、職務命令で許可された場所以外で銃器を所持していた場合や、職務命令で許可された期間外に銃器を所持していた場合などが該当します。
Q: 警備員が銃器の所持許可を求められた場合、どうすればよいですか?
A: 警備員は、銃器の所持許可を求められた場合には、職務命令を提示し、自分が職務に基づいて銃器を所持していることを説明する必要があります。
Q: この判決は、警備業界以外にも適用されますか?
A: この判決は、主に警備業界における銃器所持の問題を扱っていますが、同様の状況にある他の職業にも参考になる可能性があります。例えば、運送会社が従業員に銃器を支給する場合などです。ただし、具体的な適用範囲は、個々の事件の事実関係によって判断されることになります。
ご質問やご相談がありましたら、ASG Lawまでお気軽にお問い合わせください。お問い合わせ またはメール konnichiwa@asglawpartners.com までご連絡ください。
コメントを残す