サイバー名誉毀損の時効:フィリピン最高裁判所の最新判例と実務への影響

, ,

サイバー名誉毀損の時効は1年:最高裁判所がTolentino判決を覆す

G.R. No. 258524, October 11, 2023

ソーシャルメディアの普及に伴い、オンラインでの名誉毀損、特にサイバー名誉毀損は、企業や個人の評判を大きく傷つける可能性があります。フィリピンの法律では、名誉毀損は犯罪行為として扱われ、刑事訴追の対象となります。しかし、犯罪には時効があり、一定期間が経過すると訴追できなくなります。この点について、最高裁判所は重要な判決を下しました。

本稿では、ベルテニ・カタルーニャ・カウシン対フィリピン国民事件(BERTENI CATALUÑA CAUSING, VS. PEOPLE OF THE PHILIPPINES)の判決を分析し、サイバー名誉毀損の時効に関する重要な法的解釈と、実務への影響について解説します。

サイバー名誉毀損とは何か?関連する法律の解説

フィリピン刑法(RPC)第353条は、名誉毀損を「公然かつ悪意のある犯罪、悪徳、欠陥の告発」と定義しています。これは、個人または法人の名誉を傷つけ、信用を失わせ、軽蔑させる、または死者の記憶を汚す可能性のある行為です。第355条は、書面や類似の手段による名誉毀損を処罰します。

2012年に制定されたサイバー犯罪防止法(RA 10175)は、コンピューターシステムを介して行われる名誉毀損、すなわちサイバー名誉毀損を犯罪としています。RA 10175第4条(c)(4)は、RPC第355条で定義された名誉毀損行為がコンピューターシステムを介して行われた場合、サイバー犯罪として処罰されると規定しています。

重要な条文は以下の通りです。

RA 10175 第4条(c)(4):名誉毀損。改正刑法第355条に定義される違法または禁止された名誉毀損行為が、コンピューターシステムまたは将来考案される可能性のある類似の手段を介して行われた場合。

サイバー名誉毀損の時効については、刑法第90条が適用されます。この条文は、名誉毀損の時効を1年と定めています。しかし、RA 10175第6条は、情報通信技術(ICT)を使用して行われた犯罪の刑罰を1段階引き上げると規定しています。このため、サイバー名誉毀損の刑罰は、RPCに基づく名誉毀損よりも重くなります。

最高裁判所はこれまで、サイバー名誉毀損の時効を15年とする判例(Tolentino判決)を示していました。しかし、今回のカウシン事件判決で、この判例が覆されました。

カウシン事件の経緯:最高裁判所の判断

カウシン事件は、下院議員フェルディナンド・L・ヘルナンデスが、ベルテニ・カタルーニャ・カウシンをサイバー名誉毀損で訴えたことに端を発します。ヘルナンデス議員は、カウシンがFacebookに投稿した内容が、マラウィ包囲戦の犠牲者に対する公的資金を盗んだと示唆し、自身の名誉を毀損したと主張しました。

事件の経緯は以下の通りです。

  1. 2019年2月4日と4月29日:カウシンがFacebookに名誉毀損的な投稿をアップロード。
  2. 2020年12月16日:ヘルナンデス議員がカウシンをサイバー名誉毀損で告訴。
  3. 2021年5月10日:検察庁がカウシンをサイバー名誉毀損で起訴。
  4. 2021年6月28日:カウシンが時効を理由に起訴棄却を申し立て。
  5. 2021年10月5日:地方裁判所(RTC)が起訴棄却の申し立てを却下。
  6. 2021年11月15日:RTCが再考の申し立てを却下。
  7. カウシンが最高裁判所に上訴。

カウシンは、RPC第90条に基づき、名誉毀損の時効は1年であると主張しました。これに対し、RTCは、RA 10175には時効の規定がないため、特別法である行為第3326号を適用し、時効を12年と判断しました。また、RPCを適用しても、サイバー名誉毀損の刑罰が1段階引き上げられるため、時効は15年になると判断しました。

最高裁判所は、カウシンの上訴を認め、サイバー名誉毀損の時効は1年であると判断しました。最高裁は、RA 10175は新たな犯罪を創設したものではなく、RPCの名誉毀損規定をオンラインに適用したに過ぎないと判断しました。裁判所の判決理由は以下の通りです。

RA 10175は、サイバー名誉毀損という新たな犯罪を創設したものではなく、コンピューターシステムの使用によって行われた場合、刑法第353条および第355条で既に定義され、処罰されている名誉毀損を施行したに過ぎない。

また、最高裁は、RPC第90条第4項を適用し、名誉毀損または類似の犯罪の時効は1年であると明記しました。これにより、以前のTolentino判決が覆されました。

刑法第90条第4項は、その文言通りに解釈されるべきである。名誉毀損罪は1年で時効となる。この規定は、RA 10175第4条(c)(4)が、コンピューターシステムを介して行われた場合、刑法第355条に基づく名誉毀損罪と同じであることを考慮し、サイバー名誉毀損の時効期間を決定するものでなければならない。

さらに、最高裁は、時効の起算点は、被害者、当局、またはその代理人が犯罪を発見した日からであると判示しました。ただし、今回の事件では、カウシンが時効の成立を証明するための証拠を提出しなかったため、RTCの起訴棄却申し立て却下の判断を支持しました。

実務への影響:企業と個人が知っておくべきこと

カウシン事件判決は、サイバー名誉毀損の時効に関する法的解釈を明確化し、実務に大きな影響を与えます。企業や個人は、以下の点に留意する必要があります。

  • サイバー名誉毀損の時効は1年である。
  • 時効の起算点は、被害者、当局、またはその代理人が犯罪を発見した日である。
  • 名誉毀損の被害者は、犯罪を発見後、速やかに法的措置を講じる必要がある。
  • 被告は、時効の成立を証明する責任を負う。

重要な教訓

  • オンラインでの名誉毀損は、迅速な対応が必要である。
  • 時効の成立を主張する場合は、証拠を揃える必要がある。
  • 法的助言を求めることが重要である。

事例

A社は、競合他社がSNSに投稿した虚偽の情報により、評判を著しく傷つけられました。A社は投稿から10ヶ月後にこの情報を知り、直ちに法的措置を講じました。この場合、A社は時効期間内に訴訟を提起したため、競合他社を訴えることができます。

Bさんは、ある人物がブログに投稿した名誉毀損的な記事により、精神的な苦痛を受けました。Bさんは記事の投稿から1年半後にこの記事を発見し、訴訟を検討しましたが、時効が成立しているため、法的措置を講じることはできません。

よくある質問(FAQ)

Q: サイバー名誉毀損とは何ですか?

A: コンピューターシステムを介して行われる名誉毀損です。Facebook、Twitter、ブログなどのオンラインプラットフォームでの名誉毀損的な発言が含まれます。

Q: サイバー名誉毀損の時効は何年ですか?

A: 1年です。

Q: 時効の起算点はいつですか?

A: 被害者、当局、またはその代理人が犯罪を発見した日です。

Q: 時効が成立した場合、法的措置を講じることはできますか?

A: いいえ、できません。時効が成立すると、刑事訴追はできなくなります。

Q: サイバー名誉毀損の被害に遭った場合、どのような法的措置を講じることができますか?

A: 刑事告訴および民事訴訟を提起することができます。弁護士に相談し、適切な法的助言を得ることが重要です。

Q: 時効の成立を主張する場合、どのような証拠が必要ですか?

A: 犯罪の発見日を証明する証拠が必要です。例えば、投稿のスクリーンショット、通知書、調査報告書などが挙げられます。

Q: サイバー名誉毀損を未然に防ぐためには、どのような対策を講じるべきですか?

A: オンラインでの発言には注意し、他人の名誉を傷つける可能性のある情報を拡散しないようにしましょう。また、SNSの設定を見直し、プライバシーを保護することも重要です。

サイバー名誉毀損に関するご相談は、ASG Lawまでお気軽にお問い合わせください。お問い合わせ またはメール konnichiwa@asglawpartners.com までご連絡ください。コンサルテーションのご予約をお待ちしております。

Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です