正当防衛の成立要件:フィリピン最高裁判所の判断基準
G.R. No. 114002, July 05, 1996
正当防衛は、自己または他者の生命、身体、財産に対する不法な侵害を阻止するために、合理的な範囲内で行われる行為を正当化する法原則です。しかし、その範囲や要件は厳格に定められており、一歩間違えれば犯罪行為と見なされる可能性があります。本記事では、フィリピン最高裁判所の判例を基に、正当防衛の成立要件を詳細に解説し、実務的なアドバイスを提供します。
はじめに
ある夜、エレウテリオ・C・コンペンディオ・ジュニアは、シリオ・ビトゥアラを刺殺した罪で起訴されました。事件の核心は、コンペンディオが正当防衛を主張したものの、裁判所はこれを認めず、殺人罪で有罪判決を下したことです。この事件は、正当防衛の成立要件がいかに厳格であるか、そして、裁判所が事実関係を詳細に検討するかを示しています。
法的背景:正当防衛の要件
フィリピン刑法典は、正当防衛を免責事由として認めています。しかし、正当防衛が成立するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 不法な攻撃(Unlawful Aggression):被害者からの現実的かつ差し迫った攻撃が存在すること。
- 合理的な必要性(Reasonable Necessity):攻撃を阻止するために用いた手段が、侵害の性質や程度に照らして合理的であること。
- 挑発の欠如(Lack of Sufficient Provocation):防御者が攻撃を誘発するような挑発行為を行っていないこと。
これらの要件は、正当防衛を主張する者が立証責任を負います。つまり、被告は、自己の行為が正当防衛の要件を満たすことを証明しなければなりません。特に、不法な攻撃の存在は、正当防衛の最も重要な要素であり、これが認められない場合、他の要件の検討は不要となります。
刑法第11条には、正当防衛に関する条項が明記されています。
第11条 以下の状況下においては、刑事責任は発生しない。
1. 自己または配偶者、直系尊属、直系卑属、兄弟に対する不法な攻撃に対する正当防衛。
この条文は、正当防衛が自己だけでなく、近親者に対する攻撃に対しても認められることを示しています。ただし、上記3要件を満たすことが前提となります。
事件の経緯:人民対エレウテリオ・C・コンペンディオ・ジュニア事件
1989年8月18日未明、シリオ・ビトゥアラがエレウテリオ・C・コンペンディオ・ジュニアによって刺殺されました。目撃者の証言によれば、コンペンディオはタクシー運転手であり、ビトゥアラを降車させた後、いきなり刺したとされています。コンペンディオは正当防衛を主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。
- 第一審:地方裁判所は、コンペンディオを殺人罪で有罪と認定。
- 控訴審:コンペンディオは控訴したが、控訴裁判所も原判決を支持。
- 最高裁判所:最高裁判所は、事件を審理し、正当防衛の成立要件を満たさないと判断。
最高裁判所は、以下の点を重視しました。
「被告が被害者を降車させた後、すぐに刺したという目撃者の証言は、正当防衛の主張と矛盾する。被害者からの不法な攻撃は存在せず、被告の行為は正当防衛とは認められない。」
さらに、裁判所は、コンペンディオが犯行後すぐに逃走したことも、有罪の証拠として考慮しました。
「被告が犯行後、すぐに逃走したことは、自己の行為が正当防衛ではないことを認識していたことを示唆する。」
結果として、最高裁判所は、コンペンディオの有罪判決を支持し、殺人罪の刑を確定させました。
実務的考察:正当防衛を主張する際の注意点
この事件から得られる教訓は、正当防衛の主張は、厳格な要件を満たす必要があるということです。特に、以下の点に注意する必要があります。
- 証拠の重要性:正当防衛を裏付ける客観的な証拠(目撃者の証言、現場の状況など)を収集することが不可欠です。
- 行為の合理性:防御行為は、侵害の程度に照らして合理的でなければなりません。過剰な反撃は、正当防衛とは認められません。
- 弁護士との相談:正当防衛を主張する可能性がある場合、できるだけ早く弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
主な教訓
- 正当防衛は、不法な攻撃に対する合理的な防御行為のみに認められる。
- 正当防衛を主張する者は、その要件を満たすことを立証する責任を負う。
- 客観的な証拠の収集と、弁護士との相談が不可欠である。
よくある質問
Q1: 正当防衛が認められるのは、どのような場合ですか?
A1: 正当防衛が認められるのは、不法な攻撃が存在し、その攻撃を阻止するために合理的な手段を用いた場合です。また、防御者が攻撃を誘発するような挑発行為を行っていないことも要件となります。
Q2: 過剰防衛とは何ですか?
A2: 過剰防衛とは、正当防衛の要件を満たすものの、防御行為が侵害の程度に照らして過剰である場合を指します。過剰防衛の場合、刑事責任が軽減されることがあります。
Q3: 自分の家で侵入者を発見した場合、どのような対応が適切ですか?
A3: まずは、警察に通報し、安全な場所に避難することが重要です。侵入者に対する防御行為は、必要最小限にとどめ、過剰な反撃は避けるべきです。
Q4: 正当防衛を主張する場合、どのような証拠が必要ですか?
A4: 正当防衛を裏付ける証拠としては、目撃者の証言、現場の写真や動画、医師の診断書などが挙げられます。また、警察への通報記録や、弁護士との相談記録も重要な証拠となります。
Q5: 正当防衛と緊急避難の違いは何ですか?
A5: 正当防衛は、不法な攻撃に対する防御行為であるのに対し、緊急避難は、自己または他者の生命、身体、財産に対する差し迫った危険を回避するための行為です。緊急避難の場合、危険を回避するために、やむを得ず他者の権利を侵害することが許容される場合があります。
ASG Lawは、正当防衛に関する豊富な知識と経験を有しています。正当防衛を主張する必要が生じた場合は、お気軽にご相談ください。最高の法的サポートを提供いたします。konnichiwa@asglawpartners.comまたはお問い合わせページからご連絡ください。お待ちしております。
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