不当逮捕後の権利放棄:フィリピン最高裁判所の判例解説

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不当逮捕は罪を逃れる理由にはならない:権利放棄と裁判所の管轄権

G.R. No. 91483, 1997年11月18日

不当逮捕は刑事訴訟における重要な問題ですが、フィリピンの法制度においては、逮捕の違法性が自動的に有罪判決を覆すわけではありません。本稿では、最高裁判所の判例「THE PEOPLE OF THE PHILIPPINES VS. SAMUEL MAHUSAY Y FLORES AND CRISTITUTO PASPOS」を基に、不当逮捕と権利放棄の関係、そして裁判所の管轄権について解説します。この事例は、逮捕手続きに瑕疵があっても、その後の被告人の行動によって、裁判所が適法に事件を審理し、有罪判決を下せる場合があることを明確に示しています。

不当逮捕と権利放棄:法律の原則

フィリピン憲法は、すべての人が不当な逮捕や拘禁から保護される権利を保障しています。刑事訴訟規則第113条第5項は、令状なしで逮捕が許される状況を限定的に列挙しており、原則として逮捕には裁判所の令状が必要です。しかし、逮捕が違法であった場合でも、その後の手続きにおいて被告人が適切な異議申し立てを行わなかった場合、権利を放棄したとみなされることがあります。

具体的には、刑事訴訟規則第113条第5項は、以下の状況下での令状なし逮捕を認めています。

「第5条 令状によらない逮捕;適法な場合

 警察官または私人であっても、令状なしに人を逮捕することができる。

 (a) その者の面前で、逮捕されるべき者が罪を犯したとき、現に罪を犯しているとき、または罪を犯そうとしているとき。

 (b) 罪が現に犯されたばかりであり、逮捕する警察官または私人が、逮捕されるべき者がそれを犯したことを示す事実の個人的知識を有するとき。

 (c) 逮捕されるべき者が、刑務所または確定判決の執行を受けている場所、もしくは事件係属中に一時的に収容されている場所から逃亡した囚人である場合、またはある収容場所から別の収容場所に移動中に逃亡した場合。」

この規則(b)項の「事実の個人的知識」は、逮捕状なしの逮捕において、相当な理由に基づいている必要があります。これは、現実の確信または合理的な疑念の根拠を意味します。

しかし、最高裁判所は、逮捕の違法性に関する異議は、弁論前に提起されなければならず、さもなければ放棄されたものとみなされるという原則を確立しています。被告人が罪状認否を行い、裁判に参加し、証拠を提出した場合、もはや逮捕の合法性を争うことはできません。これは、被告人が裁判所の管轄権に自発的に服したと解釈されるためです。

事件の概要:ブガオ一家強盗強姦事件

本件は、1988年4月19日にレイテ州サンイシドロで発生した強盗強姦事件です。サミュエル・マフサイとクリスティトゥト・パスポスを含む武装した男たちが、トロアディオ・ブガオ宅に押し入り、金品を強奪し、娘のマリア・ルイサを輪姦しました。犯人グループは、新人民軍(NPA)のメンバーであると偽って侵入しました。

事件翌日、警察はブガオの通報を受け、捜査を開始。容疑者としてマフサイとパスポスらが逮捕されました。逮捕時、警察は盗品の一部と銃器を発見しました。しかし、逮捕はブガオの口頭供述のみに基づいて行われ、逮捕状は発行されていませんでした。裁判所は当初、これを現行犯逮捕と誤認しました。

裁判では、被害者の証言が重視されました。マリア・ルイサは、犯行時、懐中電灯の光で照らされたマフサイの顔を認識したと証言。また、パスポスの妹であるエスマルリタ・パスポスは、兄クリスティトゥトがマスクをしていたものの、身振りや体格から彼だと特定しました。一方、被告人らはアリバイを主張しましたが、裁判所はこれを退けました。

一審の地方裁判所は、マフサイ、パスポス、メンドーサを有罪と認定し、再監禁刑を言い渡しました。ガロは合理的な疑いの余地があるとして無罪となりました。マフサイとパスポスは控訴しましたが、逮捕の違法性と証拠不十分を主張しました。

最高裁判所の判断:逮捕の違法性と権利放棄

最高裁判所は、一審裁判所が逮捕を現行犯逮捕と誤認した点を認めました。しかし、逮捕の違法性は、その後の裁判手続きにおける被告人らの行動によって治癒されたと判断しました。裁判所は、以下の点を強調しました。

  • 被告人らは罪状認否で無罪を主張し、裁判に参加した。
  • 被告人らは逮捕状の却下を申し立てなかった。

最高裁判所は、過去の判例を引用し、「逮捕状または被告人の人に対する裁判所の管轄権取得手続きに関する異議は、弁論前に申し立てられなければならず、さもなければ異議は放棄されたとみなされる」と改めて確認しました。したがって、逮捕の違法性は、被告人らが裁判所の管轄権に自発的に服した時点で治癒されたと結論付けました。

また、最高裁判所は、共謀の理論に基づき、被告人らの有罪を認めました。裁判所は、「共謀は、二人以上の者が重罪の実行に関して合意し、それを実行することを決定したときに存在する」と定義し、本件において、被告人らの行動が共謀を示唆していると判断しました。具体的には、以下の点が指摘されました。

  • 被告人らは一緒に犯行現場に到着した。
  • 被告人らは同時に家宅を物色し、金品を探した。
  • 強盗と暴行が行われている間、グループの一部はマリア・ルイサを輪姦した。
  • 被告人らは犯行現場から急いで立ち去った。

これらの行為は、「共同目的、行動の協調、および利益の共同性」を示すものと解釈され、共謀が成立すると判断されました。その結果、最高裁判所は、マフサイとパスポスに対し、それぞれ3期の再監禁刑を科し、マリア・ルイサに対し、それぞれ5万ペソの慰謝料を支払うよう命じました。

「疑いの余地なく、検察は被告人らの有罪を裏付ける信頼できる証人を擁していました。ブガオの、被告人らが罪を犯したと非難する明確で率直かつ自発的な証言は、被害者らが被告人らを強盗強姦という非常に重大かつ凶悪な罪で告訴するもっともらしい理由を示していないという事実によって裏付けられています。」

実務上の教訓:不当逮捕に直面した場合の対応

本判例から得られる実務上の教訓は、不当逮捕された場合でも、適切な法的措置を講じることが不可欠であるということです。逮捕の違法性を主張するためには、以下の点に注意する必要があります。

  • 逮捕直後に弁護士に相談し、法的助言を求める。
  • 罪状認否前に、逮捕状の却下または違法逮捕を理由とする訴訟の却下を裁判所に申し立てる。
  • 裁判手続きにおいて、逮捕の違法性を繰り返し主張し、権利放棄とみなされるような行動を避ける。

権利を適切に行使しなかった場合、逮捕の違法性は裁判手続きの中で治癒され、有罪判決を覆すことが困難になる可能性があります。本判例は、不当逮捕の問題を提起しつつも、刑事司法制度における手続きの重要性と、権利放棄の原則を明確に示しています。

よくある質問(FAQ)

Q1: 不当逮捕とは具体的にどのような場合を指しますか?

A1: 不当逮捕とは、令状なしに逮捕されるべき理由がない場合や、令状があっても手続きに重大な瑕疵がある場合など、法的手続きに違反して行われる逮捕を指します。例えば、現行犯ではないのに令状なしで逮捕されたり、逮捕状に記載された容疑事実と異なる罪で逮捕されたりする場合などが該当します。

Q2: 不当逮捕された場合、どのような法的権利がありますか?

A2: 不当逮捕された場合、不当な拘禁からの解放を求める権利、弁護士の援助を受ける権利、黙秘権、裁判所に逮捕の違法性を訴える権利などがあります。これらの権利は、憲法および刑事訴訟法によって保障されています。

Q3: 逮捕が不当であった場合、必ず無罪になりますか?

A3: いいえ、逮捕が不当であったとしても、それだけで自動的に無罪になるわけではありません。逮捕の違法性は、裁判手続きにおける証拠の採用や手続きの適法性に影響を与える可能性がありますが、最終的な有罪判決は、証拠に基づいて判断されます。本判例のように、逮捕の違法性が権利放棄によって治癒された場合、裁判所は事件を審理し、有罪判決を下すことができます。

Q4: 権利放棄とはどのような意味ですか?

A4: 権利放棄とは、自発的に自己の権利を放棄することを意味します。刑事訴訟においては、被告人が逮捕の違法性を知りながら、適切な時期に異議申し立てを行わず、裁判手続きに積極的に参加した場合、逮捕の違法性を争う権利を放棄したとみなされることがあります。

Q5: 弁護士に相談する重要性は何ですか?

A5: 弁護士は、法的権利や手続きに関する専門知識を有しており、不当逮捕された場合に適切な法的助言や弁護活動を提供することができます。早期に弁護士に相談することで、権利を適切に行使し、不利益を最小限に抑えることができます。

不当逮捕と権利放棄に関するご相談は、ASG Lawにお任せください。当事務所は、刑事事件に精通した弁護士が、お客様の権利擁護を全力でサポートいたします。

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