犯罪の道具の没収:第三者の所有権はどこまで保護されるか
G.R. No. 172678, 2011年3月23日
フィリピンでは、犯罪に使用された道具や手段は没収されるのが原則です。しかし、その道具の所有者が犯罪に関与していない第三者である場合、所有権はどのように保護されるのでしょうか?本判例は、第三者による所有権の主張が認められるための要件と、適切な手続きについて重要な教訓を示しています。
日常に潜む没収のリスク:漁船が奪われる?
想像してみてください。あなたが所有する漁船が、知らない間に犯罪に使用され、政府に没収されてしまう事態を。これは決してありえない話ではありません。本件、シーライオン漁業株式会社対フィリピン国事件は、まさにそのような事態に直面した企業が、没収された漁船を取り戻そうと裁判で争った事例です。一見すると当然に保護されるべき第三者の所有権ですが、裁判所は会社の訴えを退け、漁船の没収を認めました。なぜこのような結論に至ったのでしょうか?本稿では、本判例を詳細に分析し、第三者の所有権が没収から保護されるための要件と、企業が注意すべき点について解説します。
没収に関するフィリピンの法的枠組み:刑法と特別法
フィリピンにおける没収は、主に刑法第45条と、各特別法によって規定されています。刑法第45条は、犯罪に使用された道具や手段の没収を原則としつつ、「犯罪に関与していない第三者の所有物である場合を除く」と規定し、第三者の所有権保護に配慮しています。
刑法第45条 犯罪の収益または道具の没収および没収
重罪の実行に対して課せられるすべての刑罰は、犯罪の収益およびそれが実行された道具または手段の没収を伴うものとする。そのような収益および道具または手段は、犯罪の責任を負わない第三者の財産でない限り、政府に没収および没収されるものとする。ただし、合法的な商業の対象とならない物品は破棄されるものとする。(強調筆者)
一方、本件で問題となった共和国法8550号(フィリピン漁業法)や9147号(野生生物資源保護法)などの特別法にも、没収に関する規定が存在します。これらの特別法は、刑法第10条により、刑法の規定を補充するものと解釈されますが、特別法が刑法と異なる規定を設けている場合は、特別法が優先されます。本件では、漁業法8550号が、違法操業に使用された漁船の没収を規定しており、刑法第45条との関係が争点となりました。
シーライオン漁業事件の経緯:所有者の主張と裁判所の判断
事件は、パラワン州バラバク沖で違法操業を行っていた中国漁船をフィリピン沿岸警備隊が拿捕したことに端を発します。拿捕された漁船には、シーライオン漁業会社が所有するF/Vシーライオン号も含まれていました。しかし、シーライオン号の船長と乗組員は、遭難した中国漁船を救助しただけであり、違法操業には関与していなかったと主張しました。地方検察官は、シーライオン号の乗組員を不起訴としたものの、中国漁民17名を違法漁業で起訴し、F/Vシーライオン号は証拠品として押収されました。
シーライオン漁業会社は、漁船の返還を求めましたが、地方裁判所は中国漁民に対する有罪判決とともに、F/Vシーライオン号の没収を命じました。会社はこれを不服として控訴しましたが、控訴裁判所も地方裁判所の判断を支持し、最終的に最高裁判所まで争われることとなりました。
最高裁判所の判断:手続きの重要性と証拠の不十分さ
最高裁判所は、まず、会社が控訴裁判所に提起した訴訟の種類が不適切であったと指摘しました。会社は、地方裁判所の没収命令を不服として、 certiorari(違法な裁判手続きに対する是正命令)を求めたのですが、最高裁判所は、これは通常の控訴で争うべき事柄であると判断しました。
「特別民事訴訟である certiorari は、裁判所、委員会、または司法または準司法機能を実行する役人が、管轄権がないか管轄権を超えて、または管轄権の欠如または管轄権の超過に相当する重大な裁量権の濫用をもって行動した場合にのみ、管轄権の問題を提起する独立した訴訟である。」
その上で、最高裁判所は、仮に手続き上の問題がなかったとしても、会社の主張は認められないと判断しました。その理由は、会社がF/Vシーライオン号の所有者であることを証明する十分な証拠を提出しなかったこと、そして、没収手続きにおいて適切な時期に所有権を主張しなかったことにあります。
会社は、地方検察官に対しては所有権を主張し、漁船の返還を求めていましたが、裁判所に対しては、有罪判決後の再審請求の段階で初めて所有権を証明する書類を提出しました。最高裁判所は、これでは時期尚早であり、裁判所が没収命令を下す前に、適切な手続きで所有権を主張し、証拠を提出する必要があったとしました。
さらに、最高裁判所は、会社が提出した所有権証明書も、正式な証拠として認められるための手続き(証拠の申出)を踏んでいないため、証拠能力がないと判断しました。これらの理由から、最高裁判所は、F/Vシーライオン号の没収を認めた下級審の判断を支持し、会社の上告を棄却しました。
本判例から得られる教訓:第三者の権利保護のために
本判例は、第三者の所有権が没収から保護されるためには、以下の点が重要であることを示唆しています。
- 早期の権利主張:没収の対象となる財産の所有者は、捜査・訴訟の初期段階から積極的に所有権を主張し、その証拠を提出する必要があります。
- 適切な手続き:裁判所が定める手続きに従い、正式な証拠として認められる形で所有権を証明する必要があります。
- 証拠の準備:所有権を証明する書類(登録証、購入契約書など)を事前に準備し、いつでも提出できるようにしておくことが重要です。
本判例は、形式的な手続きの重要性と、証拠に基づいた主張の必要性を改めて強調するものです。企業は、本判例の教訓を踏まえ、所有財産の管理を徹底し、万が一の事態に備えて、適切な対応策を講じておくことが求められます。
実務への影響:今後の類似事例への適用
本判例は、今後のフィリピンにおける没収事件において、第三者の所有権保護に関する重要な先例となるでしょう。特に、企業が所有する財産が、従業員や取引先の不正行為によって犯罪に使用され、没収の対象となるリスクは常に存在します。企業は、本判例を参考に、以下の対策を講じることで、没収リスクを軽減することができます。
- コンプライアンス体制の強化:従業員に対する法令遵守教育を徹底し、不正行為の発生を未然に防ぐ。
- 契約書の見直し:取引先との契約において、違法行為に関与した場合の責任範囲を明確化する条項を設ける。
- 保険への加入:没収リスクをカバーする保険への加入を検討する。
- 法的アドバイザーとの連携:没収リスクに関する法的アドバイスを定期的に受ける。
キーポイント
- 犯罪に使用された道具や手段は没収されるのが原則。
- 刑法第45条は、第三者の所有権を保護する例外規定を設けている。
- 特別法が刑法と異なる規定を設けている場合は、特別法が優先される。
- 第三者の所有権を主張するためには、早期の権利主張、適切な手続き、十分な証拠が必要。
- 企業は、コンプライアンス体制の強化や契約書の見直しなどにより、没収リスクを軽減できる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 漁船が没収された場合、必ず取り戻すことはできないのでしょうか?
A1. いいえ、必ずしもそうではありません。本判例は、所有者が適切な時期に、適切な手続きで、十分な証拠を提出すれば、没収を免れる可能性があることを示唆しています。重要なのは、早期に弁護士に相談し、適切な対応を取ることです。
Q2. 会社名義の漁船が従業員の違法行為で使用された場合、会社も責任を問われるのでしょうか?
A2. 本判例では、会社自体は犯罪行為を行っていないため、刑事責任を問われることはありませんでした。しかし、漁船は没収されるという結果になりました。会社が没収を免れるためには、従業員の違法行為について会社に過失がなかったことなどを証明する必要があります。
Q3. 没収された漁船を取り戻すための具体的な手続きは?
A3. まず、地方裁判所の没収命令に対して控訴する必要があります。控訴審では、所有権を証明する証拠を提出し、没収命令の取り消しを求めます。弁護士に依頼し、適切な訴訟戦略を立てることが重要です。
Q4. 漁船以外の財産(自動車、不動産など)も没収される可能性はありますか?
A4. はい、犯罪に使用された財産であれば、漁船以外の財産も没収される可能性があります。刑法第45条は、犯罪の道具や手段全般を没収の対象としており、財産の種類を限定していません。
Q5. 没収のリスクに備えて、企業ができることは?
A5. コンプライアンス体制の強化、契約書の見直し、保険への加入、法的アドバイザーとの連携などが有効です。また、従業員に対する財産管理に関する教育も重要です。
本件のような没収問題でお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。当事務所は、フィリピン法に精通した弁護士が、お客様の権利保護のために尽力いたします。
お問い合わせは、konnichiwa@asglawpartners.com または お問い合わせページ からお願いいたします。ASG Lawは、お客様のフィリピンでのビジネスを強力にサポートします。


出典: 最高裁判所電子図書館
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