臨終の言葉は殺人事件の重要な証拠となり得る:フィリピン最高裁判所の判例解説

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臨終の言葉は殺人事件の重要な証拠となり得る

G.R. No. 127753, 2000年12月11日

殺人事件において、被害者の最後の言葉、いわゆる「臨終の言葉」は、有力な証拠となり得ます。本稿では、フィリピン最高裁判所が下したドミンゴ・バルデス事件の判決を基に、臨終の言葉の証拠能力と、それが刑事裁判に与える影響について解説します。

事件の概要

1995年10月31日夜、ラブラドール・バルデスは自宅のニパ小屋の下で父親と話していたところ、銃で撃たれて死亡しました。事件当時、父親のマルセロ・バルデスは被害者と一緒にいましたが、犯人の顔をはっきりと見ていました。また、被害者は駆けつけた家族に対し、犯人がドミンゴ・バルデスであると告げました。ドミンゴ・バルデスは殺人罪と不法銃器所持の罪で起訴され、地方裁判所は死刑と終身刑を言い渡しました。

法的背景:臨終の言葉とは

フィリピン証拠法規則130条37項は、臨終の言葉(Dying Declaration)について規定しています。これは、死期が迫っていると自覚している者が、死因やその状況について述べた供述は、その死が問題となっている刑事事件において証拠として採用できるとするものです。ただし、臨終の言葉が証拠として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 供述者が死期が迫っていることを自覚していたこと
  • 供述者が証人としての能力を有していたこと
  • 供述が供述者の死因およびその状況に関するものであること
  • 供述が供述者の死が問題となっている刑事事件で提出されること

重要なのは、供述者が「死期が迫っていることを自覚していた」ことです。これは、必ずしも死を予感する言葉を口にしている必要はなく、負傷の程度や状況から客観的に判断されます。例えば、致命傷を負い、出血がひどい状況であれば、死期が迫っていることを自覚していたと推認されることがあります。

証拠法規則130条37項には、以下のように規定されています。

「第37条 臨終の言葉―死期が迫っていると自覚している者が行った供述は、その死が問題となっている事件においては、その死因及び状況に関する証拠として採用することができる。」

最高裁判所の判断:臨終の言葉の証拠能力

最高裁判所は、本件において、被害者のラブラドール・バルデスの言葉が臨終の言葉として証拠能力を持つか否かを審理しました。被告人側は、被害者が死を意識していなかったとして、臨終の言葉の証拠能力を争いました。しかし、最高裁判所は、以下の点を指摘し、被害者の言葉を臨終の言葉として認めました。

  • 被害者は銃で致命傷を負っており、大量の出血があったこと
  • 被害者は家族に対して「もうだめだ」と発言していたこと
  • 被害者が犯人の名前を具体的に述べていたこと

裁判所は、被害者の負傷の程度、発言内容、事件の状況などを総合的に考慮し、被害者が死期を自覚していたと判断しました。そして、被害者が犯人としてドミンゴ・バルデスの名前を挙げたことは、臨終の言葉として証拠能力を持つと結論付けました。

最高裁判所は判決の中で、次のように述べています。

「被害者が死期を自覚していたことは、被害者に与えられた傷の程度と深刻さによって示されている。被害者は、死に至る前に、誰が彼を撃ったのかを述べる供述を複数回行った。被害者の発言は、誰が襲撃者であるかという質問に対する答えであった。そのような発言は、差し迫った死を意識している状況下で発せられた被害者の死の状況に関する宣言として認められる。」

また、最高裁判所は、主要な目撃者である被害者の父親マルセロ・バルデスの証言も重視しました。マルセロは、事件当時、 kerosene lamp の明かりの下で犯人の顔をはっきりと見ており、犯人が被告人ドミンゴ・バルデスであることを証言しました。最高裁判所は、地方裁判所が証人の証言の信用性を適切に評価したと判断し、その事実認定を尊重しました。

実務上の教訓と今後の展望

本判決は、臨終の言葉が刑事裁判において重要な証拠となり得ることを改めて示しました。特に殺人事件においては、被害者の最後の言葉が事件の真相解明に大きく貢献することがあります。弁護士は、臨終の言葉の証拠能力を適切に評価し、裁判戦略を立てる必要があります。検察官は、臨終の言葉を証拠として提出する際には、証拠法規則の要件を十分に満たしていることを立証する必要があります。

また、本判決は、不法銃器所持と殺人罪の関係についても重要な判例を示しました。当初、被告人は殺人罪と不法銃器所持罪で別々に起訴されましたが、最高裁判所は、共和国法8294号(RA 8294)の遡及適用を認め、不法銃器所持は殺人罪の加重事由に過ぎないと判断しました。これにより、被告人の刑罰は死刑から終身刑に減刑されました。RA 8294は、不法銃器を使用した殺人事件において、不法銃器所持を独立した犯罪ではなく、加重事由として扱うことを定めています。この判例は、RA 8294の遡及適用に関する重要な解釈を示しており、今後の同様の事件に影響を与えると考えられます。

主な教訓

  • 臨終の言葉は、殺人事件において有力な証拠となり得る。
  • 臨終の言葉が証拠として認められるためには、証拠法規則の要件を満たす必要がある。
  • RA 8294により、不法銃器所持は殺人罪の加重事由となり、独立した犯罪とはならない場合がある。
  • 証人の証言の信用性は、裁判官が直接観察して判断するため、非常に重要である。

よくある質問(FAQ)

Q1: 臨終の言葉は、どのような場合に証拠として認められますか?

A1: 臨終の言葉が証拠として認められるためには、供述者が死期が迫っていることを自覚していたこと、証人能力があったこと、供述が死因や状況に関するものであること、刑事事件で提出されることなどの要件を満たす必要があります。

Q2: 被害者が「犯人は〇〇だ」と言った場合、必ず証拠として認められますか?

A2: いいえ、必ずしもそうとは限りません。裁判所は、供述者の状況、発言内容、事件の状況などを総合的に判断し、臨終の言葉としての証拠能力を判断します。死期が迫っている自覚が認められない場合や、証言の信用性が低いと判断された場合は、証拠として認められないこともあります。

Q3: 臨終の言葉以外に、殺人事件で重要な証拠は何ですか?

A3: 臨終の言葉以外にも、目撃者の証言、科学的証拠(DNA鑑定、指紋鑑定など)、凶器、防犯カメラ映像など、様々な証拠が重要となります。事件の内容や状況によって、どの証拠が重要となるかは異なります。

Q4: RA 8294は、いつから適用されていますか?

A4: RA 8294は、1997年7月6日に施行されました。本判決では、被告人に有利となるため、遡及適用が認められました。

Q5: 不法銃器所持は、常に殺人罪の加重事由になるのですか?

A5: RA 8294が適用される場合、不法銃器所持は殺人罪の加重事由となります。ただし、RA 8294が適用されない場合や、不法銃器所持が殺人事件とは無関係である場合は、独立した犯罪として処罰されることがあります。

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Source: Supreme Court E-Library
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