住居における殺人事件:酌量減軽事由が量刑に与える影響
G.R. No. 129051, July 28, 1999
近年、フィリピンでは依然として暴力犯罪が後を絶ちません。特に殺人事件は、社会に深刻な影響を与える犯罪類型の一つです。今回解説する最高裁判所の判例、PEOPLE OF THE PHILIPPINES VS. ROMEO MOLINA Y FLORES事件は、住居に侵入して行われた殺人事件であり、謀殺罪の成立要件、特に「住居」という場所が量刑に与える影響について重要な判断を示しています。本判例は、謀殺罪における「住居」の意義、酌量減軽事由の適用、そして死の床における供述(ダイイング・デクラレーション)の証拠能力など、実務上重要な法的原則を多く含んでいます。本稿では、本判例を詳細に分析し、今後の実務に与える影響と、一般市民が知っておくべき教訓を解説します。
事件の概要と争点
1995年7月14日の夜、ドミンゴ・フローレスは自宅で就寝中に、従兄弟であるロメオ・モリーナに襲われ、石とナイフで頭部や首を আঘাতされ死亡しました。目撃者はドミンゴの娘であるメラニーで、彼女は犯人がモリーナであることを証言しました。ドミンゴ自身も、父親であるエフロシニオに対し、犯人が「インサン」(親戚)のロミー、すなわちモリーナであることを告げました。モリーナは犯行を否認し、事件当夜は病院にいたと主張しましたが、一審の地方裁判所はモリーナに死刑判決を言い渡しました。本件は自動上訴として最高裁判所に審理されることになりました。本件の主な争点は、①モリーナが真犯人であるか、②犯行は謀殺罪に該当するか(特に、背信性(treachery)と住居侵入の加重事由の有無)、③量刑は妥当か、でした。
関連法規と判例:謀殺罪と加重・減軽事由
フィリピン刑法第248条は、一定の обстоятельстваの下で殺人を犯した場合、謀殺罪として処罰することを定めています。本件で問題となったのは、以下の点です。
刑法第248条(謀殺罪)
第246条の規定に該当しない者が他人を殺害した場合において、次のいずれかの обстоятельстваを伴うときは、謀殺罪として、終身刑から死刑に処する。
- 背信性、優勢な力を利用すること、武装した者の援助を受けること、または防御を弱める手段もしくは免責を確保または提供する手段もしくは人物を用いること。
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本条において重要な「背信性(treachery)」とは、相手に防御の機会を与えない不意打ちによって、相手を無防備な状態にして犯行を遂行することを意味します。また、「住居」における犯行は、刑法第14条第5項により加重事由とされています。これは、住居が個人のプライバシーと安全が保障されるべき場所であり、そのような場所で犯行が行われた場合、非難の程度がより高いと解されるためです。最高裁判所は、住居侵入が加重事由となるためには、被害者側に挑発行為がないことが必要であると判示しています(U.S. vs. Licarte, 23 Phil. 10 (1912))。
一方、刑法には量刑を減軽する事由も定められています。本件で争点となったのは、「重大な侮辱に対するVindication(恨みの晴らし)」という酌量減軽事由です。これは、被害者から重大な侮辱を受けた者が、激高して犯行に及んだ場合に適用される可能性があります。ただし、最高裁判所は、Vindicationが認められるためには、侮辱と犯行との間に相当因果関係が必要であり、単なる復讐心に基づく犯行はVindicationに該当しないと解しています。
最高裁判所の判断:有罪認定と量刑の変更
最高裁判所は、まず一審判決を支持し、モリーナが真犯人であると認定しました。その根拠として、以下の点を挙げています。
- メラニーの証言: 娘であるメラニーは、事件の一部始終を目撃しており、犯人がモリーナであることを明確に証言しました。裁判所は、メラニーの証言は具体的で信用性が高いと判断しました。
- ドミンゴのダイイング・デクラレーション: 被害者ドミンゴは、死の間際に父親エフロシニオに対し、犯人がモリーナであることを告げました。最高裁判所は、ダイイング・デクラレーションは、死を目前にした者が虚偽の供述をする可能性が低いことから、高い証拠能力を持つと判示しました。ダイイング・デクラレーションの成立要件は以下の通りです。
- 供述時、死が差し迫っており、供述者がそれを自覚していたこと。
- 供述が死因とその状況に関するものであること。
- 供述が、供述者が証言できる事実に関するものであること。
- 供述者がその後死亡したこと。
- 供述が、供述者の死亡が問題となっている刑事事件で提出されたこと。
- モリーナのアリバイの否認: モリーナは事件当時病院にいたと主張しましたが、裁判所は、モリーナの証言には矛盾点が多く、信用性が低いと判断しました。また、病院から被害者宅まで容易に移動可能であったことも、アリバイを否定する根拠となりました。
次に、最高裁判所は、犯行が謀殺罪に該当すると判断しました。その理由として、以下の点を指摘しています。
- 背信性(treachery)の認定: モリーナは、就寝中のドミンゴを襲撃しており、ドミンゴは全く抵抗できませんでした。最高裁判所は、これは背信性に該当すると判断しました。裁判所は、「攻撃が突発的かつ予期せぬものであり、被害者を無防備にし、加害者の邪悪な目的を危険なく達成することを保証する場合、背信性(alevosia)が存在する」と判示しています(People vs. Uycoque, 246 SCRA 769 (1995))。
- 住居侵入の加重事由の認定: モリーナは、ドミンゴの住居に侵入して犯行に及んでおり、住居侵入の加重事由が成立すると判断されました。裁判所は、「住居は所有者にとって神聖な場所のようなものである。他人の家に行って中傷したり、傷つけたり、悪事を働いたりする者は、他の場所で罪を犯す者よりも罪が重い」というヴィアダの言葉を引用し、住居の重要性を強調しました。
しかし、最高裁判所は、量刑については一審判決を修正しました。それは、モリーナに「重大な侮辱に対するVindication」という酌量減軽事由が認められると判断したためです。裁判所の認定によれば、モリーナは事件当日、ドミンゴから暴行を受けており、そのことに対するVindicationの感情が犯行の動機の一つになったと考えられます。最高裁判所は、住居侵入の加重事由とVindicationの酌量減軽事由を相殺し、死刑判決を破棄し、終身刑(reclusion perpetua)に減刑しました。
判決要旨:
以上の理由により、原判決を是認するが、量刑を死刑から終身刑に減刑する。
住居侵入の加重事由は、重大な侮辱に対するVindicationの酌量減軽事由によって相殺される。
実務上の教訓とポイント
本判例は、今後の刑事裁判実務において、以下の点で重要な教訓を与えています。
重要なポイント
- ダイイング・デクラレーションの証拠能力: 死の床における供述は、状況証拠が乏しい事件において、有力な証拠となり得る。
- 目撃証言の重要性: 特に親族の目撃証言は、詳細で具体的であれば、高い信用性が認められる。
- アリバイの立証責任: アリバイを主張する被告人は、アリバイが真実であることを立証する責任を負う。曖昧なアリバイは、裁判所に容易に否認される。
- 背信性(treachery)の認定: 就寝中の襲撃は、典型的な背信性の例として、今後も同様の判断が維持される可能性が高い。
- 住居侵入の加重事由: 住居はプライバシーの保護領域であり、住居における犯行は重く処罰される傾向にある。
- 酌量減軽事由の適用: Vindicationが認められるためには、侮辱と犯行の因果関係が重要であり、単なる復讐心では認められない。
- 量刑判断の柔軟性: 加重事由と減軽事由のバランスを考慮し、裁判所は柔軟に量刑判断を行う。
よくある質問(FAQ)
Q1: ダイイング・デクラレーションは、どのような場合に証拠として認められますか?
A1: ダイイング・デクラレーションが証拠として認められるためには、①供述者が死を目前にしている状況で供述したこと、②供述内容が死因や状況に関するものであること、③供述者が生存していれば証言できた内容であること、④供述者がその後死亡したこと、⑤刑事事件の裁判で提出されたものであること、が必要です。
Q2: 背信性(treachery)とは、具体的にどのような行為を指しますか?
A2: 背信性とは、相手に防御の機会を与えないように、意図的かつ不意打ち的に攻撃することを指します。例えば、就寝中の襲撃、背後からの攻撃、油断している隙を突いた攻撃などが該当します。重要なのは、被害者が自己防衛する機会がなかったことです。
Q3: 住居侵入は、必ず加重事由になりますか?
A3: 住居侵入は、原則として加重事由となります。ただし、被害者側に挑発行為があった場合など、例外的に加重事由とならない場合もあります。また、住居侵入自体が犯罪となる場合もあります(不法侵入罪など)。
Q4: Vindication(恨みの晴らし)は、どのような場合に酌量減軽事由として認められますか?
A4: Vindicationが酌量減軽事由として認められるためには、①被害者から重大な侮辱を受けたこと、②侮辱によって被告人が激高し、犯行に及んだこと、③侮辱と犯行との間に相当因果関係があること、が必要です。単なる個人的な恨みや復讐心に基づく犯行は、Vindicationとは認められません。
Q5: 量刑判断において、加重事由と減軽事由はどのように考慮されますか?
A5: 量刑判断においては、加重事由と減軽事由の両方が総合的に考慮されます。加重事由が多ければ量刑は重くなり、減軽事由が多ければ量刑は軽くなる傾向にあります。ただし、裁判所は個々の事件の обстоятельстваを詳細に検討し、柔軟に量刑判断を行います。本判例のように、加重事由と減軽事由が相殺される場合もあります。
本稿では、PEOPLE OF THE PHILIPPINES VS. ROMEO MOLINA Y FLORES事件を詳細に解説しました。本判例は、謀殺罪における重要な法的原則と、実務上の教訓を示唆しています。ASG Lawは、フィリピン法に精通した専門家集団であり、刑事事件に関するご相談も承っております。本判例に関するご質問や、その他法律問題でお困りの際は、お気軽にご連絡ください。
ASG Lawは、フィリピン法に関する専門知識と豊富な経験を活かし、お客様の правовые вопросы解決をサポートいたします。刑事事件、民事事件、企業法務など、幅広い分野に対応しております。まずはお気軽にご相談ください。


Source: Supreme Court E-Library
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