ニュース記事を配布したら名誉毀損?最高裁判決から学ぶ名誉毀損の成立要件

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ニュース記事の再配布における名誉毀損の成否:最高裁判所が示した重要な判断基準

G.R. No. 124491, 1999年6月1日

現代社会において、ニュース記事や情報を共有することは日常的な行為です。しかし、その情報が名誉毀損にあたる場合、再配布した人も法的責任を問われる可能性があります。フィリピン最高裁判所のビカリオ対控訴裁判所事件は、この問題について重要な判断基準を示しました。本判例は、単にニュース記事を配布しただけでは名誉毀損は成立せず、悪意の存在と配布行為の関連性が重要であることを明確にしました。本稿では、この判例を詳細に分析し、名誉毀損の成立要件と再配布における注意点について解説します。

名誉毀損罪とは?条文と構成要件

フィリピン刑法第353条は、名誉毀損を「公然かつ悪意のある犯罪、悪徳、欠陥の虚偽または真実の記述、あるいは自然人または法人を信用失墜させ、不名誉にし、軽蔑させ、または死者の記憶を汚すような行為、不作為、状況、状態、または境遇の記述」と定義しています。名誉毀損罪が成立するためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

  1. 他者の信用を傷つける行為または状況の記述
  2. 記述の公表
  3. 名誉を毀損された人物の特定
  4. 悪意の存在

特に重要な要素の一つが悪意です。刑法第354条は、すべての名誉毀損的記述は悪意があると推定されると規定していますが、以下の場合は例外としています。

刑法第354条
「広報の要件。すべての名誉毀損的記述は、それが真実であっても、それを行う善良な意図と正当な動機が示されない限り、悪意があると推定される。ただし、以下の場合を除く。(中略)2. 秘密とされない司法、立法、その他の公的または公式な手続き、または前記手続きで行われた声明、報告、または演説、あるいは公務員が職務遂行において行ったその他の行為の、誠実かつ真実な報告で、コメントや批評を含まないもの(強調付加)。」

この条文は、公的機関の活動に関する報道は、公益に資するものであり、名誉毀損罪の成立を抑制する意図があることを示唆しています。しかし、報道を再配布する行為が常に免責されるわけではありません。再配布者が悪意をもって行った場合や、報道内容を歪曲・誇張した場合などは、名誉毀損罪に問われる可能性があります。

事件の経緯:新聞記事の配布と名誉毀損告訴

本件の原告であるロケ・ビカリオは、地方裁判所判事プロセソ・シドロが不正行為で告発されたという内容の「フィリピン・デイリー・インクワイアラー」紙の記事をコピーし、病院周辺で配布したとして名誉毀損罪で起訴されました。シドロ判事は、ビカリオの行為が自身の評判を著しく傷つけ、精神的苦痛を与えたと主張しました。一方、ビカリオは記事の配布を否定し、むしろ自身がシドロ判事を汚職で告発していたことを理由に、訴訟は不当な動機によるものだと反論しました。

第一審裁判所は、ビカリオが記事を多数に配布した証拠はないものの、少なくともアマドール・モンテスにコピーを渡した行為は「公表」にあたり、ビカリオの証言態度からシドロ判事に対する憎悪が認められるとして、名誉毀損罪の有罪判決を下しました。控訴裁判所も第一審判決を支持したため、ビカリオは最高裁判所に上告しました。

最高裁での争点

  • ニュース記事のコピーを配布する行為が名誉毀損にあたるか?
  • ビカリオの行為は合理的な疑いを排除して証明されたか?

最高裁判所の判断:配布行為と悪意の立証責任

最高裁判所は、第一審および控訴裁判所の判決を覆し、ビカリオの無罪を認めました。判決理由の中で、最高裁は名誉毀損罪の構成要件に照らし、本件では以下の点が立証されていないと指摘しました。

ニュース記事の情報源

裁判所は、問題の記事が「フィリピン・デイリー・インクワイアラー」紙によって独自に報道されたものであり、ビカリオが情報源であったり、記事の作成に関与した証拠はないと認定しました。控訴裁判所が「記事はビカリオのオンブズマンへの告訴状から作成された」と認定したのは誤りであるとしました。

配布の事実と範囲

第一審裁判所は、ビカリオがモンテスにコピーを渡したことを「公表」と認定しましたが、最高裁はモンテスの証言の信用性に疑問を呈しました。モンテスはシドロ判事の部下であり、客観的な証人とは言えないこと、また、他の証拠によって配布の事実が裏付けられていないことを指摘しました。裁判所は「モンテスの証言以外に、攻撃的なニュース記事のコピーを請願者が配布した事実を立証する者は誰も提示されなかった。検察はモンテスよりも客観的な立場にある他の証人を提示することもできたが、そうしなかった」と述べています。

悪意の不存在

第一審裁判所は、ビカリオがシドロ判事に憎悪を抱いていたことを悪意の根拠としましたが、最高裁はこれを否定しました。裁判所は「名誉毀損的とされる記事の流布に伴う悪意は、配布行為自体に伴うものでなければならない」と指摘し、過去の個人的な感情や裁判での態度から悪意を推測することは不適切であるとしました。さらに、記事自体がオンブズマンによる告発を報道したものであり、名誉毀損的な内容ではないことを重視しました。

最高裁は、報道記事の再配布において、以下の点を強調しました。

「確かに、名誉毀損記事の最初の発行者でなかったとしても、名誉毀損の責任を負う必要がないわけではない。名誉毀損的な再発行または反復の作成者は、最初の発行の結果については責任を負わないが、彼が行う、または行うことに参加するその後の発行の結果については責任を負う。名誉毀損的な事項が第三者によって以前に発行されていることは正当化されない。(中略)ただし、悪意が存在する場合に限る。」

しかし、本件ではビカリオの行為に悪意があったとは認められないと結論付けました。

実務上の教訓:ニュース記事の再配布と名誉毀損リスク

本判例は、ニュース記事を再配布する際に注意すべき重要な教訓を示しています。特に以下の3点は、実務において留意すべきポイントです。

  1. 悪意の有無が重要:ニュース記事の再配布が名誉毀損にあたるかどうかは、再配布者に悪意があったかどうかが重要な判断基準となります。単なる情報の伝達目的であれば、悪意ありとは認定されにくいでしょう。
  2. 報道内容の正確性:再配布する記事が、公的機関の発表や公式な記録に基づいた正確な報道であれば、名誉毀損のリスクは低いと考えられます。ただし、虚偽の内容や誇張された表現が含まれている場合は注意が必要です。
  3. コメントや意見の付加:記事を再配布する際に、個人的な意見やコメントを付加すると、名誉毀損のリスクが高まる可能性があります。特に、感情的な言葉や侮辱的な表現は避けるべきです。

よくある質問(FAQ)

Q1: ニュース記事をSNSでシェアしたら名誉毀損になりますか?

A1: 記事の内容やシェアの仕方によります。記事が正確な報道であり、単に情報を共有する目的であれば、名誉毀損となる可能性は低いでしょう。しかし、記事の内容が虚偽であったり、シェアする際に悪意のあるコメントを加えたりすると、名誉毀損となるリスクがあります。

Q2: ニュース記事の内容が間違っていた場合、再配布者は責任を問われますか?

A2: 再配布者が記事の内容が虚偽であることを知っていた場合や、確認を怠った場合は、責任を問われる可能性があります。しかし、記事が信頼できる情報源からのものであり、再配布者が虚偽であることを知らなかった場合は、責任を免れる可能性が高いでしょう。

Q3: 悪意とは具体的にどのようなことを指しますか?

A3: 名誉毀損における悪意とは、単なる不快感や個人的な恨みだけでなく、相手の名誉を傷つける意図や目的があることを指します。例えば、虚偽の情報を広めたり、相手を貶めるために記事を再配布したりする行為は、悪意があると認定される可能性が高いです。

Q4: 公的機関に関する批判的な記事を再配布しても名誉毀損になりますか?

A4: 公的機関や公人は、私人に比べて批判に対する許容度が高いと考えられています。批判的な記事であっても、公共の利益に関するものであり、事実に基づいたものであれば、名誉毀損となる可能性は低いでしょう。ただし、悪意をもって虚偽の情報を流布したり、人格攻撃に及んだりする場合は、名誉毀損となる可能性があります。

Q5: 名誉毀損で訴えられた場合、どのように対応すれば良いですか?

A5: まずは弁護士に相談し、法的アドバイスを受けることが重要です。弁護士は、事件の状況を分析し、適切な防御戦略を立ててくれます。また、裁判所への出廷や証拠の提出など、法的手続きをサポートしてくれます。


本稿は、フィリピン最高裁判所の判例を基に、一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、法的助言を構成するものではありません。具体的な法的問題については、必ず専門の弁護士にご相談ください。

名誉毀損問題でお困りの際は、ASG Lawにご相談ください。

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