裁判官による起訴状の変更は違法:予備調査における裁判官と検察官の役割
G.R. No. 123191 & 123442 (1998年12月17日)
はじめに
刑事事件の手続きにおいて、誰がどのような罪で起訴されるかを決定する権限は誰にあるのでしょうか?この問題は、個人の自由と公正な裁判の原則に深く関わる重要な問題です。今回の最高裁判所の判決は、この問題について明確な指針を示しました。ある殺人事件において、地方裁判所の裁判官が検察官の起訴状の内容を修正し、罪状を殺人罪から故殺罪に変更するよう命じたことが争われた事例です。最高裁判所は、裁判官には起訴状の内容を修正する権限はなく、そのような権限は検察官に専属すると判断しました。この判決は、フィリピンの刑事訴訟制度における裁判官と検察官の役割分担を明確にし、今後の実務に大きな影響を与えるものです。
事件の背景
この事件は、1995年2月9日にバタンガス州サンホセで発生した射殺事件に端を発します。被害者のギルバート・ディオギは、警察官である私的被告人ホアイメ・ブランコらによって射殺されました。当初、オンブズマン軍事監察官室の捜査官は、ブランコら警察官5人を殺人罪で起訴しました。しかし、地方裁判所のタカン裁判官は、予備審問の結果、ブランコの罪状を殺人罪から故殺罪に変更し、他の警察官を起訴対象から外すよう検察官に命じました。これに対し、検察官と被害者の遺族であるエドナ・ディオギは、タカン裁判官の命令は権限の逸脱であるとして、 certiorari の特別民事訴訟を最高裁判所に提起しました。
法的背景:予備調査と裁判官の役割
フィリピンの刑事訴訟法において、重大な犯罪(地方裁判所管轄の犯罪)については、起訴に先立ち予備調査を行う必要があります。予備調査とは、「地方裁判所が管轄する犯罪が行われたという十分な根拠があり、被疑者がおそらく有罪であり、裁判にかけられるべきであるという確固たる信念を生じさせるのに十分な根拠があるかどうかを判断するための審問または手続き」と定義されています(刑事訴訟規則112条1項)。
予備調査を行う権限を持つ者は、刑事訴訟規則112条2項に列挙されています。これには、地方検察官、市検察官、地方裁判所判事、地方巡回裁判所判事、国家検察官、地域検察官、および法律で認められたその他の官吏が含まれます。重要な点として、地方裁判所判事は、このリストには含まれていません。
1987年フィリピン憲法第3条2項は、「捜索状または逮捕状は、裁判官が申立人およびその証人を宣誓または確約の下に審査した後、相当の理由があると個人的に判断した場合に限り、発行されるものとする」と規定しています。この規定は、逮捕状の発行における裁判官の役割を強調していますが、予備調査そのものの実施権限を裁判官に与えるものではありません。
最高裁判所は、過去の判例(Castillo v. Villaluz, Salta v. Court of Appeals, People v. Inting など)において、予備調査は検察官の職務であり、裁判官の職務ではないことを明確にしてきました。裁判官の役割は、逮捕状を発行するための相当な理由の有無を判断することに限られます。起訴状の内容や起訴対象者を決定するのは、検察官の専権事項です。
最高裁判所の判断
最高裁判所は、タカン裁判官の命令を違法と判断し、取り消しました。判決理由の中で、最高裁判所は以下の点を強調しました。
- 裁判官の予備調査権限の欠如:地方裁判所判事は、刑事訴訟規則112条2項に列挙されておらず、法律によって予備調査を行う権限を与えられていない。タカン裁判官は、自ら予備調査を行い、証拠を評価し、罪状や起訴対象者を決定したが、これは権限の逸脱である。
- 検察官の起訴裁量権:起訴状の内容(罪状、起訴対象者、共犯関係など)を決定するのは、検察官の専権事項である。裁判官は、検察官が提出した起訴状に基づいて、逮捕状を発行するかどうか、および保釈の可否を判断する役割を担う。
- 逮捕状発行のための相当の理由と起訴のための十分な証拠の区別:裁判官が判断するのは、逮捕状を発行するための「相当の理由」(probable cause)であり、起訴の可否を判断するための「十分な証拠」(sufficient evidence)ではない。後者は、予備調査を経て検察官が判断する事項である。
最高裁判所は、People v. Inting の判例を引用し、「裁判官と検察官は、逮捕状発行のための相当の理由を決定するための予備審問と、被告人を裁判にかけるべきか釈放すべきかを確かめるための本来の予備調査とを区別すべきである」と改めて強調しました。逮捕状発行のための相当の理由の判断は裁判官が行い、起訴すべきかどうか、すなわち被告人が起訴された罪で有罪であると信じるに足る合理的な理由があるかどうか、そしてそれゆえに裁判の費用、苦難、および恥辱にさらされるべきかどうかは、検察官の職務であると述べました。
判決の意義と実務への影響
この判決は、フィリピンの刑事訴訟制度における裁判官と検察官の役割分担を明確にした重要な判例です。裁判官は、逮捕状の発行の可否を判断する権限は持つものの、検察官の起訴裁量権を侵害することは許されません。検察官は、証拠に基づいて罪状や起訴対象者を決定する独立した権限を持ちます。裁判官が起訴状の内容に介入することは、権力分立の原則に反し、刑事訴訟手続きの公正さを損なう可能性があります。
実務上の教訓
- 検察官の独立性:検察官は、証拠に基づいて独立して起訴裁量権を行使すべきであり、裁判官からの不当な介入を排除する必要があります。
- 裁判官の役割:裁判官は、逮捕状の発行の可否、保釈の可否など、法律で定められた範囲内で権限を行使すべきであり、検察官の起訴裁量権を尊重する必要があります。
- 弁護士の戦略:弁護士は、裁判官が起訴状の内容に不当に介入した場合、 certiorari の特別民事訴訟などの法的手段を検討し、クライアントの権利を擁護する必要があります。
まとめ
Gozos v. Tac-an 判決は、フィリピンの刑事訴訟制度における重要な判例であり、裁判官と検察官の役割分担を明確にしました。この判決は、今後の刑事訴訟実務において、検察官の起訴裁量権を尊重し、裁判官の権限逸脱を抑制するための重要な指針となるでしょう。
よくある質問 (FAQ)
- 予備調査とは何ですか?
予備調査とは、犯罪の疑いがある場合に、検察官が起訴するかどうかを判断するために行う捜査手続きです。証拠を収集し、関係者に事情聴取を行い、犯罪の成否や被疑者の特定を行います。 - 逮捕状はどのように発行されますか?
逮捕状は、裁判官が、検察官の提出した資料や証拠に基づいて、被疑者が犯罪を犯した相当な理由があると判断した場合に発行されます。 - 起訴状とは何ですか?
起訴状とは、検察官が裁判所に提出する、被疑者の犯罪事実を記載した書面です。起訴状には、罪名、犯罪の日時・場所、犯罪の内容などが記載されます。 - 裁判官は起訴状を変更できますか?
いいえ、裁判官は検察官が作成した起訴状を一方的に変更することはできません。裁判官の役割は、起訴状に基づいて逮捕状を発行するかどうか、保釈を認めるかどうかなどを判断することです。起訴状の内容に関する最終的な決定権は検察官にあります。 - この判決は弁護士にとってどのような意味がありますか?
この判決は、弁護士が刑事事件を扱う上で、検察官の起訴裁量権の重要性を改めて認識する必要があることを示しています。裁判官が不当に起訴状の内容に介入した場合、弁護士は適切な法的手段を講じてクライアントの権利を擁護する必要があります。
ASG Lawは、フィリピン法に関する専門知識を持つ法律事務所です。刑事訴訟、予備調査、起訴状に関するご相談は、konnichiwa@asglawpartners.comまでお気軽にお問い合わせください。詳細については、お問い合わせページをご覧ください。


Source: Supreme Court E-Library
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