フィリピン最高裁判所判例:供述の信憑性と伝聞証拠の排除原則

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供述の信憑性が争点となる刑事裁判:伝聞証拠排除原則の重要性

G.R. No. 124676, 1998年5月20日

刑事裁判において、有罪判決は合理的な疑いを容れない証拠によってのみ下されるべきであり、伝聞証拠は原則として証拠能力を持たない。本判例は、伝聞証拠とされた供述調書が有罪認定の根拠とされた強姦事件において、最高裁判所が原判決を破棄し、被告人を無罪とした事例である。供述の信憑性と伝聞証拠排除原則の重要性を改めて確認することができる。

事件の概要

本件は、父親が17歳の娘を強姦したとして起訴された事件である。第一審裁判所は、娘と母親の供述調書を証拠として採用し、父親に死刑判決を言い渡した。しかし、最高裁判所は、これらの供述調書が伝聞証拠に該当し、証拠能力がないと判断。検察側の証拠は他に乏しく、合理的な疑いを容れない有罪の立証には至らないとして、無罪判決を言い渡した。

法律の背景:伝聞証拠排除原則と例外

フィリピン証拠法規則130条36項は、証人は自己の知覚に基づいて知った事実のみを証言できると規定している。他者から聞いた話に基づく証言は伝聞証拠とされ、原則として証拠能力を持たない。これは、反対尋問の機会を保障し、証拠の信頼性を確保するための原則である。

ただし、伝聞証拠にも例外が認められる場合がある。その一つが、証拠法規則130条42項に規定される「出来事付随的言動(Res Gestae)」である。これは、驚くべき出来事が起こっている最中、またはその直前・直後に、その状況についてなされた供述で、自発的な反応や興奮によってなされたものであり、虚偽を捏造する機会がなかったと認められる場合に、証拠能力が認められる。

本件では、第一審裁判所は、被害者と母親の供述調書を「出来事付随的言動」として証拠採用したが、最高裁判所は、供述がなされた状況を詳細に検討し、その自発性を否定した。

最高裁判所の判断:供述調書の証拠能力

最高裁判所は、供述調書が「出来事付随的言動」に該当しない理由として、以下の点を挙げた。

  • 供述調書が作成されたのは、事件発生から36日後であり、虚偽を捏造するのに十分な時間があった。
  • 供述は、被害者が父親を強姦罪で訴える決意をした後になされたものであり、熟慮の末の判断である可能性が高い。
  • 供述がなされるまでに、妊娠、告訴状の提出、 medico-legal officer による診察など、重要な出来事がいくつか介在している。
  • 供述場所が事件現場から遠く離れており、供述の自発性を損なう可能性がある。

最高裁判所は、これらの点を総合的に考慮し、供述調書が自発的なものではなく、虚偽が混入する可能性を排除できないと判断した。したがって、供述調書は伝聞証拠として証拠能力を否定され、有罪認定の根拠とすることはできないと結論付けた。

さらに、最高裁判所は、第一審裁判所が量刑判断において、強姦罪の加重事由として「親族関係」を考慮した点についても誤りを指摘した。改正刑法335条は、被害者が18歳未満であり、加害者が親である場合、死刑を科すことを義務付けている。したがって、「親族関係」は、刑法15条の包括的な加重事由ではなく、改正法によって特定された特別の加重事由として適用されるべきであると述べた。

最終的に、最高裁判所は、検察側の証拠が伝聞証拠である供述調書と medico-legal officer の証言のみであり、合理的な疑いを容れない有罪の立証には至らないとして、原判決を破棄し、被告人を無罪とした。

実務上の教訓:伝聞証拠の取り扱いと証拠収集の重要性

本判例は、刑事裁判における伝聞証拠排除原則の重要性を改めて強調するものである。特に、被害者の供述が唯一の証拠となる性犯罪事件においては、供述の信憑性を慎重に判断する必要がある。捜査機関は、供述調書に頼るだけでなく、客観的な証拠の収集に努め、法廷で証言できる証人を確保することが重要となる。

主な教訓

  • 伝聞証拠は原則として証拠能力を持たない。
  • 「出来事付随的言動」の例外規定の適用は厳格に判断される。
  • 供述調書の証拠能力は、供述がなされた状況、時間的間隔、場所、供述者の状態などを総合的に考慮して判断される。
  • 性犯罪事件においては、客観的な証拠収集と証人確保が不可欠である。

よくある質問 (FAQ)

  1. 伝聞証拠とは何ですか?
    伝聞証拠とは、証人が直接経験した事実ではなく、他人から聞いた話を法廷で証言する証拠のことです。原則として証拠能力が認められません。
  2. なぜ伝聞証拠は証拠能力がないのですか?
    伝聞証拠は、証言の信頼性が低く、反対尋問による検証ができないため、証拠能力が否定されます。
  3. 「出来事付随的言動」とはどのようなものですか?
    「出来事付随的言動」とは、驚くべき出来事の直後になされた、自発的で信頼性の高い供述のことです。伝聞証拠の例外として証拠能力が認められる場合があります。
  4. 供述調書は常に伝聞証拠になりますか?
    供述調書は、供述者が法廷で証言しない場合、原則として伝聞証拠となります。供述者が法廷で証言し、反対尋問を受けることで、証拠能力が認められる場合があります。
  5. 性犯罪事件で供述調書以外にどのような証拠が必要ですか?
    性犯罪事件では、被害者の供述調書に加えて、 medico-legal report、目撃者の証言、状況証拠など、客観的な証拠を収集することが重要です。
  6. 弁護士に相談するメリットは何ですか?
    弁護士は、事件の法的問題を専門的な知識で分析し、適切な法的アドバイスを提供することができます。証拠収集、法廷弁護、交渉など、法的紛争解決を全面的にサポートします。

ASG Lawは、フィリピン法務のエキスパートとして、刑事事件に関するご相談を承っております。本判例のような伝聞証拠の問題から、証拠収集、法廷弁護まで、幅広く対応いたします。お気軽にご相談ください。

メールでのお問い合わせはkonnichiwa@asglawpartners.comまで。お問い合わせページからもご連絡いただけます。




Source: Supreme Court E-Library

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