レイプ事件における「強制または脅迫」の立証責任の重要性
G.R. No. 118946, 1997年10月16日
レイプの罪は、しばしば密室で行われるため、告訴人の証言は慎重に扱われる必要があります。しかし、告訴人の証言だけで有罪判決が下されることもあり、被告人は冤罪を証明することが非常に困難です。本稿では、フィリピン最高裁判所のサレム対フィリピン事件(G.R. No. 118946)を分析し、レイプ事件における「強制または脅迫」の立証責任の重要性、および告訴人の証言の信憑性について解説します。
事件の概要
本件は、リコ・ジャムラン・サレムが、マリソル・D・サベリャーノをレイプしたとして起訴された事件です。一審裁判所はサレムを有罪としましたが、最高裁判所は一審判決を破棄し、サレムを無罪としました。最高裁判所は、レイプ罪の成立要件である「強制または脅迫」の立証が不十分であると判断しました。
法的背景:レイプ罪の構成要件
フィリピン刑法第335条第1項は、レイプ罪を「女性器への挿入が、暴力または脅迫によって行われた場合」と定義しています。レイプ罪で有罪判決を下すためには、検察官は以下の2つの要素を合理的な疑いを超えて証明する必要があります。
- 被告人が告訴人と性交したこと
- 性交が暴力または脅迫によって行われたこと
本件では、被告人が告訴人と性交したことは争いがありませんでした。争点は、性交が暴力または脅迫によって行われたかどうかでした。
最高裁判所は、レイプ事件の審理における3つの原則を再確認しました。
- レイプの訴えは容易に提起できるが、証明は困難であり、無罪の被告人が無罪を証明するのはさらに困難である。
- レイプは通常二人きりで行われるため、告訴人の証言は極めて慎重に吟味されなければならない。
- 検察側の証拠はそれ自体で成立する必要があり、弁護側の証拠の弱さから強さを引き出すことはできない。
サレム事件の詳細な分析
告訴人のマリソル・サベリャーノは、1994年8月13日午後7時頃、自宅近くの雑貨店に砂糖を買いに行く途中、被告人のリコ・サレムに襲われたと証言しました。彼女は、サレムに腕を掴まれ、草むらに引きずり込まれ、脅迫されたため抵抗できなかったと述べました。一方、サレムは、サベリャーノとは恋人関係であり、合意の上で性交したと主張しました。
一審裁判所は、告訴人の証言を全面的に信用し、サレムを有罪としました。しかし、最高裁判所は、一審裁判所の判断を覆しました。最高裁判所は、告訴人の証言には矛盾点が多く、暴力または脅迫の立証も不十分であると判断しました。
最高裁判所が指摘した主な点は以下の通りです。
- 脅迫の信憑性:告訴人は、脅迫によって抵抗できなかったと証言しましたが、事件当時、周囲には灯りがともっており、近隣住民も起きていた可能性があります。告訴人は、助けを求める機会が十分にありましたが、そうしませんでした。最高裁判所は、「脅迫」は現実よりも幻想に近いものであり、非武装のレイプ犯に対して被害者が叫び声を上げないのは考えにくいとしました。
「明らかに、いわゆる「脅迫」または「威嚇」は、現実というよりも幻想であった。リコはナイフさえ持っていなかった。彼は非武装だった。それにもかかわらず、ミラソルは雑貨店で砂糖を買うことができた。もし彼女が本当に脅迫や威嚇を受けていたのなら、店や明かりがまだついていた近所の人々に助けを求めたり、単に助けを求めて叫んだりすることで、窮地から容易に抜け出すことができただろう。」
- 告訴人の証言の矛盾:告訴人は、被告人がズボンのジッパーを破って下着を脱がせたと証言しましたが、その一連の動きは不自然であると指摘されました。また、告訴人は、背中、腹部、太ももに線状の擦り傷を負っていましたが、その原因について明確な説明をしていません。最高裁判所は、これらの傷は告訴人の両親によるものだった可能性も示唆しました。
- 第三者の証言:弁護側の証人であるリカルド・ロブレスは、事件当夜、告訴人と被告人が自転車に乗って笑いながら通り過ぎるのを目撃したと証言しました。最高裁判所は、告訴人が本当にレイプされたのであれば、被告人と笑い合うことは考えにくいとしました。
「ロブレスは、反対尋問でも一貫していた –
裁判所:
Q: ここに自転車があります。通常、運転手のためのスペースは1つだけですが、女性はどこに乗っていますか?
A: (証人は、被告人と告訴人が目撃者に目撃されたときにどのように自転車に乗っていたかを実演させられた – 女性は運転手の前のバーに座っていた)。
Q: 彼らは愛情深かったですか?
A: はい (強調は筆者による)。」
実務上の教訓
サレム事件は、レイプ事件における立証責任の重要性を改めて強調するものです。特に、告訴人の証言の信憑性と、強制または脅迫の存在を裏付ける客観的証拠の必要性を明確にしました。本判決から得られる実務上の教訓は以下の通りです。
- 告訴人の証言の慎重な吟味:裁判所は、レイプ事件において、告訴人の証言を慎重に吟味する必要があります。告訴人の証言に矛盾点や不自然な点がある場合、その信憑性を疑う必要があります。
- 客観的証拠の重要性:レイプ事件では、告訴人の証言だけでなく、客観的証拠も重要です。例えば、被害者の身体的損傷、事件現場の状況、第三者の証言などが客観的証拠となり得ます。
- 無罪推定の原則:被告人は、有罪が証明されるまでは無罪と推定されます。検察官は、被告人の有罪を合理的な疑いを超えて証明する責任があります。
よくある質問(FAQ)
- Q: レイプ罪における「強制または脅迫」とは具体的に何を指しますか?
- A: 「強制」とは、物理的な力を行使して性交を強要することを指します。「脅迫」とは、被害者に危害を加えることを示唆または暗示することにより、被害者の自由な意思決定を奪うことを指します。
- Q: レイプ事件で告訴人が証言する際に、最も重要なことは何ですか?
- A: 告訴人の証言は、一貫性があり、具体的で、客観的な証拠と矛盾しないことが重要です。
- Q: レイプ事件で被告人が無罪となるのはどのような場合ですか?
- A: 検察官が、レイプ罪の構成要件である「強制または脅迫」を合理的な疑いを超えて証明できない場合、被告人は無罪となる可能性があります。また、告訴人の証言の信憑性が低い場合や、弁護側が被告人の無罪を裏付ける証拠を提出した場合も、無罪となる可能性があります。
- Q: レイプ被害に遭った場合、まず何をすべきですか?
- A: まず、安全な場所に避難し、警察に通報してください。証拠保全のため、入浴や着替えは避け、医療機関を受診してください。
- Q: レイプ事件の弁護を依頼する場合、どのような弁護士を選ぶべきですか?
- A: レイプ事件の弁護経験が豊富で、刑事事件に精通した弁護士を選ぶべきです。
ASG Law法律事務所は、フィリピン法、特に刑事法分野における豊富な経験と専門知識を有しています。レイプ事件を含む刑事事件でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
お問い合わせは、konnichiwa@asglawpartners.com または お問い合わせページ から。


Source: Supreme Court E-Library
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