海外就職詐欺の防止:フィリピン最高裁判所判例に学ぶ違法募集の定義と対策

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海外就職詐欺に遭わないために:違法募集の定義と罰則 – フェレール対フィリピン国事件

G.R. No. 121907, May 27, 1997

近年、海外での高収入の仕事に憧れる人々をターゲットにした就職詐欺が後を絶ちません。甘い言葉で誘い、高額な紹介料を騙し取る手口は巧妙化しており、求職者は注意が必要です。本稿では、フィリピン最高裁判所の判例「フェレール対フィリピン国事件」を基に、違法な募集行為とは何か、どのような行為が処罰の対象となるのかを解説します。この判例は、海外就職を斡旋すると偽り金銭を騙し取った事件を扱い、違法募集の定義と処罰、そして求職者が注意すべき点について重要な教訓を示唆しています。本稿を通じて、海外就職詐欺の手口を理解し、安全な就職活動に繋げていただければ幸いです。

違法募集とは?労働法第38条の解説

フィリピン労働法第38条は、違法募集を明確に定義し、処罰対象となる行為を規定しています。同条項は、募集活動を行う者が、労働雇用大臣が定めるガイドライン、特に募集・海外派遣を行うための免許または許可を取得していない場合、その行為を違法とみなすと定めています。ここで重要なのは、「募集行為」の定義です。労働法第13条(b)は、募集・あっせんを「労働者を勧誘、登録、契約、輸送、利用、雇用または調達する一切の行為」と広範に定義しており、求人広告、契約サービスの提供、雇用を約束する行為も含まれます。さらに、「有償または無償を問わず、2人以上の者に雇用を申し出たり、約束したりする者は、募集・あっせん業に従事しているとみなされる」と規定されており、営利目的でなくても、複数人を対象とした募集行為は規制の対象となることがわかります。

本判例で問題となった大口違法募集は、より重い処罰が科せられる犯罪類型です。大口違法募集と認定されるためには、以下の3つの要件が満たされる必要があります。

  1. 被告が労働法第13条(b)に定義される労働者の募集・あっせん、または労働法第34条に規定される禁止行為に従事していること。
  2. 被告が労働雇用大臣が定めるガイドライン、特に国内外の労働者を募集・派遣するための免許または許可を取得していないこと。
  3. 被告が3人以上の個人またはグループに対して違反行為を行っていること。

これらの要件を理解することで、どのような行為が違法募集に該当するのか、そして大口違法募集として重罪となるケースを把握することができます。海外就職を検討する際には、募集業者が適切な免許を持っているかを確認することが不可欠です。

事件の経緯:甘い誘い文句と裏切り

本事件の被告人であるノルマ・フェレールは、被害者であるクリスティナ・サピガオ、ゼナイダ・ルーカス、メイ・リザ・コーパス、ヘスサ・カバンに対し、自身が海外労働斡旋業者であると偽り、ロンドンの介護士の仕事を紹介すると持ちかけました。フェレールは、被害者らに履歴書、写真、卒業証明書などの書類と、紹介手数料として1人あたり13,500ペソを要求しました。被害者らは、海外で働きたい一心で、フェレールの要求に応じ、書類を提出し、手数料を支払いました。メイ・リザ・コーパスのみ、6,800ペソしか支払えませんでしたが、他の被害者は全額を支払いました。フェレールは、受領書を発行し、間もなくロンドンへ出発できると約束しました。

しかし、約束された出発日は何度も延期され、一向に出発の目処が立ちません。不審に思った被害者らがフェレールに詰め寄ると、彼女は口頭で何度も保証しましたが、実際には誰一人として海外に派遣する能力はありませんでした。痺れを切らした被害者らは、フェレールに手数料の返金を求めました。フェレールは、受領書と引き換えに約束手形を被害者らに渡しましたが、一部の被害者を除き、ほとんどの被害者は返金を受けることができませんでした。度重なる嘘と裏切りに怒った被害者らは、警察に通報、その後、国家捜査局(NBI)に相談しました。NBIの助言を受け、被害者らは労働雇用省(DOLE)から、フェレールが認可された募集業者ではないという証明書を取得し、告訴に至りました。

裁判所の判断:有罪判決と量刑

地方裁判所は、4件の詐欺罪(Estafa)と1件の大規模違法募集罪でフェレールを起訴しました。フェレールは罪状認否で無罪を主張しましたが、4件の訴訟は併合審理されました。裁判の結果、地方裁判所は、大規模違法募集罪についてフェレールを有罪と認定し、終身刑と10万ペソの罰金刑を言い渡しました。一方、詐欺罪については、検察側の立証が不十分であるとして無罪となりました。ただし、民事責任においては、一部の被害者に対して紹介手数料の返還と損害賠償を命じました。フェレールは、この判決を不服として最高裁判所に上告しました。

最高裁判所は、地方裁判所の判決を支持し、フェレールの有罪判決を確定させました。判決理由の中で、最高裁判所は、以下の点を重視しました。

  • 被害者らの証言は具体的で信用性が高く、一貫性がある。
  • 被害者らが海外就職を希望していた状況証拠と、フェレールの募集行為が合致する。
  • フェレールが主張するアパート賃貸契約は、書面による証拠がなく、不自然である。
  • フェレールが受領書を約束手形に交換した行為は、罪を隠蔽しようとする意図が窺える。

最高裁判所は、地方裁判所の「検察側の証拠は疑いの余地なく信憑性が高く、被告の証言は信用できない」という判断を全面的に支持しました。また、裁判官が審理を担当していなくても、記録に基づいて判決を下すことは適法であるとし、フェレールが主張したデュープロセス(適正手続き)の侵害についても、審理中に十分な弁明の機会が与えられていたとして退けました。

「第一に、被告の証言は、原告の肯定的な主張(People vs. Tibayan, 85 SCRA 378, 395)に勝ることはできません。原告の証言は消極的な性質のものです。ここでは被告によって示されていませんが、不適切な動機がない限り、原告が被告に対して虚偽の証言をする理由はありません(People vs. Lanseta, 95 SCRA 166)。」

「第二に、原告が語った話は、論理と理性にかなっています。なぜなら、彼らは新卒であり、自然な傾向として、お金がほとんどないか、まったく必要ない多額の家賃を払ってアパートを探すのではなく、仕事を探すからです。この議論は、手続きの中で検察官によって強く主張されました。見過ごすことのできない説得力があり論理的な議論です。」

海外就職詐欺から身を守るために:実務上の教訓

本判例は、海外就職詐欺の手口と違法募集の定義を明確に示し、求職者が注意すべき重要な教訓を教えてくれます。海外就職を検討する際には、以下の点に注意し、詐欺被害に遭わないように自衛することが重要です。

  • 募集業者の免許確認:海外労働者を募集する業者は、政府機関(フィリピン海外雇用庁 POEAなど)の認可が必要です。必ず免許の有無を確認しましょう。
  • 甘い言葉に注意:「高収入」「簡単」「すぐ働ける」など、甘い言葉には注意が必要です。うますぎる話には裏があると考えましょう。
  • 契約内容の確認:契約書の内容をよく確認し、不明な点は必ず質問しましょう。口約束だけでなく、書面で契約内容を確認することが重要です。
  • 手数料の相場:紹介手数料には相場があります。相場からかけ離れた高額な手数料を要求する業者には注意が必要です。
  • 情報収集:インターネットや関係機関(大使館、労働省など)から情報を収集し、信頼できる業者を選びましょう。
  • 相談窓口の活用:不安なことや疑問点があれば、消費者センターや弁護士などの専門家、または関係機関に相談しましょう。

海外就職は、キャリアアップや高収入を得るための魅力的な選択肢ですが、同時にリスクも伴います。本判例を教訓に、慎重な情報収集と業者選びを行い、安全な海外就職を実現しましょう。

よくある質問(FAQ)

  1. Q: 違法募集を行う業者の特徴は?
    A: 正規の免許を持たずに募集活動を行ったり、高額な手数料を請求したり、甘い言葉で勧誘したりする業者には注意が必要です。
  2. Q: 違法募集に遭ってしまった場合の対処法は?
    A: まずは証拠(契約書、領収書、メールなど)を保管し、警察や消費者センター、弁護士などの専門家に相談しましょう。
  3. Q: POEA(フィリピン海外雇用庁)とは何ですか?
    A: POEAは、フィリピン政府の海外雇用に関する機関で、海外労働者の保護と適正な雇用斡旋を目的としています。
  4. Q: 海外就職斡旋業者の免許はどのように確認できますか?
    A: POEAのウェブサイトなどで、認可された業者リストを確認することができます。
  5. Q: 日本でフィリピン人労働者を雇用したい場合、どのような点に注意すべきですか?
    A: 日本の労働法規を遵守することはもちろん、フィリピンの労働法やPOEAの規制も考慮する必要があります。専門家への相談をお勧めします。

海外就職、そして外国人労働者の雇用に関するご相談は、ASG Lawにお任せください。当事務所は、国際法務に精通した弁護士が、皆様のビジネスと個人の海外進出を強力にサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。

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Source: Supreme Court E-Library
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