不渡り小切手法(BP 22)違反:会社役員の責任と実務上の注意点

, ,

不渡り小切手の発行は犯罪:取締役も責任を負う事例

G.R. No. 99032, 1997年3月26日

フィリピンの不渡り小切手法(Batas Pambansa Blg. 22、通称BP 22)は、正当な理由なく不渡りとなる小切手を発行する行為を犯罪としています。本件、リカルド・A・リャマド対控訴裁判所及びフィリピン国人民(Ricardo A. Llamado vs. Court of Appeals and People of the Philippines)判決は、会社 treasurer(財務担当役員) が会社の小切手に署名した場合、たとえ自身が取引に直接関与していなくても、BP 22違反の責任を個人として負う可能性があることを明確にしました。本稿では、この最高裁判所の判決を詳細に分析し、企業及び個人の実務に与える影響について解説します。

不渡り小切手法(BP 22)とは?

BP 22は、ビジネスにおける小切手の信頼性を維持し、不渡り小切手の発行を抑制するために制定された法律です。同法第1条には、以下の重要な規定があります。

「資金不足または預金口座閉鎖を理由に支払いが拒絶された小切手を作成、発行、または振り出した者は、当該小切手の作成または振り出しの理由を知っていたか否かにかかわらず、この法律に基づく責任を負う。」

この条文が示すように、BP 22は、小切手が不渡りになった時点で、発行者に犯罪責任を問う、いわゆる厳格責任主義を採用しています。重要なのは、不渡りの原因が資金不足だけでなく、「支払停止」も含まれる点です。また、同法は、法人名義の小切手の場合の責任についても規定しています。

「小切手が会社、団体、または事業体によって振り出された場合、当該振出人のために実際に小切手に署名した個人または人々は、本法に基づき責任を負う。」

この規定により、会社等の代表者や役員が署名した小切手が不渡りとなった場合、署名者個人も刑事責任を負う可能性があることが明確になります。過去の最高裁判例では、Lozano vs. Martinez (G.R. No. 63419, 1986年12月18日) などで、BP 22の合憲性と厳格責任主義が確立されています。

リャマド事件の経緯

リカルド・A・リャマド氏は、パン・アジア・ファイナンス・コーポレーション(Pan Asia Finance Corporation)の treasurer でした。レオン・ゴー氏(Leon Gaw)は、同社に18万ペソを投資しました。その際、リャマド氏と社長のハシント・パスクアル氏(Jacinto Pascual)は、投資元利金18万6,500ペソを支払う小切手をゴー氏に交付しました。この小切手は、リャマド氏とパスクアル氏が署名したものでした。

しかし、期日到来後、ゴー氏が小切手を銀行に持ち込んだところ、支払停止と資金不足を理由に不渡りとなりました。ゴー氏はリャマド氏に不渡りを通知しましたが、支払いは行われず、最終的にBP 22違反で刑事告訴されました。

一審の地方裁判所はリャマド氏を有罪とし、控訴裁判所も一審判決を支持しました。リャマド氏は最高裁判所に上告しましたが、最高裁も控訴審判決を支持し、リャマド氏の有罪が確定しました。

リャマド氏の主な主張は以下の通りでした。

  • 小切手は投資が成功した場合の条件付きの支払いであり、「対価」のためのものではない。
  • 自身は小切手に署名しただけで、取引に直接関与していない。
  • 不渡り後に支払い条件を変更する合意(更改)が成立しており、BP 22違反は成立しない。
  • 小切手は会社名義であり、個人として責任を負うべきではない。

しかし、最高裁判所はこれらの主張を全て退けました。判決の中で、最高裁は以下の点を強調しました。

「知識は立証が困難な心の状態を伴う。したがって、法規自体が推定を創設する。すなわち、振出人は、小切手の振出時および支払呈示時に、銀行の資金または信用が不足していることを知っていたという推定である。」

リャマド氏は、不渡り通知後5銀行日以内に支払いを行わず、この推定を覆すことができませんでした。また、最高裁は、リャマド氏が小切手に署名した treasurer という役職、および取引の経緯から、彼が取引に関与していなかったという主張を認めませんでした。

「法律が処罰するのは、不渡り小切手の発行であり、発行目的や発行条件ではない。価値のない小切手を発行する行為そのものが違法行為(malum prohibitum)である。」

さらに、最高裁は、支払い条件の変更に関する合意は、実際には履行されておらず、単にゴー氏の告訴を遅らせるための空約束に過ぎなかったと判断し、更改の成立を認めませんでした。そして、BP 22の条文を引用し、会社名義の小切手に署名したリャマド氏個人が責任を負うことを改めて確認しました。

実務上の影響と教訓

本判決は、企業、特に役員にとって、不渡り小切手問題に関する重要な教訓を与えてくれます。

企業への影響

企業は、小切手の管理体制を強化する必要があります。特に、役員が blank check(白地小切手)に署名する慣行は、本判決が示すように、大きなリスクを伴います。小切手の発行と管理に関する内部統制を確立し、不渡り小切手が発生しないように努めるべきです。

役員への影響

役員は、会社名義の小切手に署名する際には、その責任の重さを十分に認識する必要があります。たとえ自身が取引に直接関与していなくても、署名者としてBP 22違反の責任を問われる可能性があります。特に treasurer などの財務担当役員は、小切手の資金状況を常に把握し、不渡りが発生しないように注意しなければなりません。

重要な教訓

  • 小切手の安易な発行は厳禁: 特に blank check への署名は避けるべきです。
  • 資金管理の徹底: 小切手発行前に、口座残高を必ず確認しましょう。
  • 役員の責任: 会社名義の小切手に署名する役員も、個人として責任を負う可能性があります。
  • 不渡り発生時の対応: 不渡り通知を受けたら、速やかに支払いを済ませることが重要です。
  • 安易な合意は危険: 口約束や履行されない合意は、法的責任を免れる理由にはなりません。

よくある質問(FAQ)

Q1. BP 22違反で逮捕されることはありますか?

A1. はい、BP 22違反は犯罪であり、逮捕・起訴される可能性があります。有罪判決を受けた場合、懲役刑や罰金刑が科せられることがあります。

Q2. 会社が倒産した場合、役員個人がBP 22の責任を負いますか?

A2. はい、会社が倒産した場合でも、小切手に署名した役員個人の責任は免れません。BP 22は署名者個人に責任を問う法律です。

Q3. 不渡りになった小切手を後日現金で支払えば、罪は問われませんか?

A3. いいえ、BP 22は小切手発行時に犯罪が成立するため、後日支払っても、遡って罪がなくなるわけではありません。ただし、支払いが済んでいる事実は、量刑判断において考慮される可能性があります。

Q4. 投資の保証として小切手を振り出した場合もBP 22違反になりますか?

A4. はい、投資の保証として振り出した小切手であっても、不渡りになればBP 22違反となる可能性があります。小切手の発行目的は、BP 22の成否には影響しません。

Q5. どのような場合に「支払停止」となりますか?

A5. 支払停止は、例えば、小切手の振出人が銀行に支払いをしないよう依頼した場合や、口座が凍結された場合などに発生します。

不渡り小切手問題は、企業経営における重大なリスクの一つです。ASG Law は、フィリピン法務に精通した専門家が、BP 22に関するご相談から訴訟対応まで、幅広くサポートいたします。お困りの際は、お気軽にご連絡ください。

メールでのお問い合わせは konnichiwa@asglawpartners.com まで。
お問い合わせは お問い合わせページ から。

ASG Law – フィリピン法務のエキスパート

Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です