フィリピン法:正当防衛が認められない場合の殺人罪から傷害罪への減刑
G.R. No. 89075, October 15, 1996
はじめに
フィリピンの刑事裁判において、被告人が殺人を犯したことを認めた上で正当防衛を主張した場合、裁判所は被告人の主張を厳密に審査する必要があります。正当防衛が認められない場合でも、事件の状況によっては、殺人罪から傷害罪への減刑が認められることがあります。本判例は、まさにそのような事例を扱っており、刑事弁護における重要な教訓を示しています。
本件は、アントニオ・シーが刺殺された事件で、ロベルト・ゲロラガ、エフレン・アティーボ、レメディオス・ルアドが殺人罪で起訴されました。一審の地方裁判所は、3人全員を有罪としましたが、最高裁判所は、ゲロラガの行為は正当防衛には当たらないものの、殺人罪ではなく傷害罪に該当すると判断し、ルアドとアティーボについては無罪を言い渡しました。
法的背景
フィリピン刑法第248条は、殺人を「報酬、代価、または約束に基づいて」人を殺害する行為と定義しています。この「報酬」という要素は、申し出た側と申し出られた側の両方に適用され、前者は教唆による正犯、後者は実行による正犯となります。
しかし、人の生命を奪ったとしても、正当防衛が認められる場合があります。刑法第11条は、正当防衛の要件として、①被害者による不法な侵害、②侵害を阻止または撃退するための手段の合理的な必要性、③防御する側に十分な挑発がないこと、を挙げています。
正当防衛が認められるためには、これらの要件がすべて満たされなければなりません。たとえ不法な侵害があったとしても、反撃の程度が過剰であれば、正当防衛は認められません。
本件で重要なのは、被告人が報酬を目的に殺人を犯したのか、それとも自己防衛のためにやむを得ず殺人を犯したのかという点です。裁判所は、被告人の意図を慎重に判断し、すべての証拠を総合的に考慮する必要があります。
判例の概要
事件の発端は、レメディオス・ルアドが「ヘレン・レパント司令官」と名乗る人物から脅迫状を受け取ったことでした。ルアドは、夫のエミリオと相談し、警察に通報するとともに、レパントの身元を特定または逮捕した者に3,000ペソの報酬を与えることを決めました。
ロベルト・ゲロラガは、ルアドの元従業員で、この話を聞き、レパントの捜索に協力することになりました。ゲロラガは、夜間にシー邸を監視していたところ、アントニオ・シーがゴミ箱に近づくのを目撃しました。ゲロラガはシーをレパントだと疑い、声をかけたところ、シーがナイフで襲いかかってきたため、揉み合いになり、シーを刺殺してしまいました。
一審の地方裁判所は、ゲロラガの正当防衛の主張を認めず、ルアドとアティーボを含む3人全員を殺人罪で有罪としました。しかし、最高裁判所は、ゲロラガの行為は正当防衛には当たらないものの、殺人罪ではなく傷害罪に該当すると判断しました。その理由として、ゲロラガがシーを殺害する意図はなく、単にレパントの身元を特定しようとしただけであり、シーの攻撃に対する過剰な反撃であったことを挙げました。
ルアドとアティーボについては、報酬はレパントの身元特定と逮捕に対するものであり、殺害に対するものではないことから、共謀関係は認められないとして、無罪を言い渡しました。
実務上の教訓
本判例から得られる教訓は以下のとおりです。
- 正当防衛の主張は、厳格な要件を満たさなければ認められない。
- 反撃の程度が過剰であれば、正当防衛は認められない。
- 被告人の意図は、すべての証拠を総合的に考慮して判断される。
- 報酬の目的が殺害ではなく、身元特定や逮捕に対するものであれば、殺人罪の成立は否定される。
よくある質問
Q: 正当防衛が認められるための要件は何ですか?
A: 正当防衛が認められるためには、①被害者による不法な侵害、②侵害を阻止または撃退するための手段の合理的な必要性、③防御する側に十分な挑発がないこと、の3つの要件がすべて満たされなければなりません。
Q: 反撃の程度が過剰だった場合、正当防衛は認められますか?
A: いいえ、反撃の程度が過剰だった場合、正当防衛は認められません。過剰防衛として、より軽い罪に問われる可能性があります。
Q: 報酬の目的が殺害ではなく、身元特定や逮捕に対するものであれば、殺人罪は成立しませんか?
A: はい、報酬の目的が殺害ではなく、身元特定や逮捕に対するものであれば、殺人罪は成立しません。ただし、傷害罪などの別の罪に問われる可能性はあります。
Q: 弁護士に依頼するメリットは何ですか?
A: 弁護士は、法律の専門家であり、被告人の権利を擁護し、最適な弁護戦略を立てることができます。また、裁判所との交渉や証拠の収集など、複雑な手続きを代行することもできます。
Q: 本件の判決は、今後の刑事裁判にどのような影響を与えますか?
A: 本件の判決は、正当防衛の要件や意図の判断について、今後の刑事裁判における重要な参考事例となります。特に、報酬が絡む事件においては、報酬の目的が殺害に対するものか、それとも別の目的に対するものかを慎重に判断する必要があります。
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