フィリピンの公共事業における外国人資本規制:議決権株式の重要性

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外国人資本規制の核心:議決権株式とは何か?

G.R. No. 176579, June 28, 2011

フィリピンの経済発展において、外国人投資は重要な役割を果たしています。しかし、公共事業のような特定の分野では、国家の主権と国民の利益を守るため、外国人資本の比率が憲法によって厳しく制限されています。この制限の解釈をめぐり、長年にわたり議論が続いてきました。特に、「資本」という言葉が何を指すのか、その定義は曖昧でした。この曖昧さを解消し、明確な基準を示したのが、今回取り上げる最高裁判所の画期的な判決、ガンボア対テベス事件です。この判決は、公共事業における外国人資本規制の解釈に終止符を打ち、今後の投資環境に大きな影響を与えることになりました。企業、特に公共事業に関わる企業にとって、この判決の理解は不可欠です。なぜなら、事業の合法性、ひいては存続に関わる重大な問題だからです。本稿では、この重要な判決を詳細に分析し、その法的意義と実務上の影響を解説します。

憲法が定める外国人資本規制:条文と背景

フィリピン憲法第12条第11項は、公共事業における外国人資本の参入を制限する条項です。具体的には、「公共事業の運営に関するフランチャイズ、証明書、またはその他の形式の許可は、フィリピン市民、またはフィリピンの法律に基づいて設立された法人もしくは団体であって、その資本の60パーセント以上がそのような市民によって所有されているもの以外には付与されない」と規定しています。

この規定の目的は、公共事業という国民生活に不可欠なインフラを、外国人による支配から守り、フィリピン国民が主体的に経済をコントロールできるようにすることにあります。1935年憲法から一貫して受け継がれてきたこの精神は、フィリピンの経済ナショナリズムの根幹をなすものです。しかし、条文で用いられている「資本」という用語の定義は曖昧で、長年の間、解釈が分かれていました。この「資本」の定義こそが、本件の最大の争点となりました。

「資本」とは何か?:2つの解釈と対立

憲法が定める「資本」の定義をめぐっては、大きく分けて2つの解釈が存在しました。一つは、総資本、つまり発行済株式総数を指すという解釈です。この解釈によれば、議決権の有無にかかわらず、すべての株式が「資本」に含まれるため、外国人所有の割合は、発行済株式総数に基づいて計算されることになります。もう一つは、議決権株式、つまり会社の経営支配権を左右する議決権のある株式のみを指すという解釈です。この解釈によれば、外国人所有の割合は、議決権株式に基づいて計算されることになります。

この2つの解釈の対立は、企業の外国人資本比率の計算方法に大きな違いをもたらします。例えば、議決権のない優先株式を多く発行している企業の場合、総資本解釈を採用すれば、外国人資本比率が低く抑えられ、規制をクリアしやすくなります。一方、議決権株式解釈を採用すれば、議決権のある株式の外国人所有割合が重視されるため、規制に抵触する可能性が高まります。ガンボア対テベス事件は、この長年の論争に決着をつける、重要な判決となりました。

事件の経緯:PTIC株の売却と憲法違反の疑義

事件の舞台となったのは、フィリピン最大の通信事業者であるフィリピン長期距離電話会社(PLDT)です。事の発端は、フィリピン政府が保有していたフィリピン通信投資公社(PTIC)の株式を売却しようとしたことにあります。PTICはPLDTの株式を保有しており、その売却はPLDTの外国人資本比率に影響を与える可能性がありました。原告のガンボア氏は、PLDTの株主であり、このPTIC株の売却によってPLDTの外国人資本比率が憲法で定められた40%を超過するとして、訴訟を提起しました。

訴訟の過程で、政府側はPTIC株の売却は憲法に違反しないと主張しました。その根拠として、総資本解釈を採用し、PLDTの総資本に占める外国人資本の割合は40%以下であると主張しました。一方、ガンボア氏は議決権株式解釈を主張し、PLDTの議決権株式に占める外国人資本の割合は40%を超過していると反論しました。地方裁判所は政府側の主張を認めましたが、ガンボア氏はこれを不服として最高裁判所に上告しました。

最高裁判所は、この事件を憲法解釈に関わる重要な案件と位置づけ、大法廷で審理することにしました。審理では、「資本」の定義、憲法制定時の意図、関連法規、過去の判例などが詳細に検討されました。そして、ついに、フィリピンの外国人資本規制の歴史を大きく変える判決が下されたのです。

最高裁判所の判断:議決権株式こそが「資本」

最高裁判所は、判決の中で、憲法第12条第11項の「資本」とは、議決権株式、すなわち取締役の選任議決権のある株式のみを指すと明確に判断しました。判決は、その理由として、以下の点を指摘しました。

  • 憲法制定時の意図: 憲法制定会議の議事録を詳細に分析した結果、「資本」とは、企業の支配権、すなわち経営へのコントロールを意味する議決権を伴う株式を指すという意図が明確に示されている。
  • 企業統治の原則: 企業の支配権は、取締役の選任を通じて行使される。取締役を選任できるのは、議決権株式を持つ株主のみである。したがって、企業の支配権を外国人から守るためには、議決権株式の外国人所有割合を制限する必要がある。
  • 外国人投資法の定義: 外国人投資法も、「フィリピン国民」の定義において、「議決権のある発行済株式資本の少なくとも60%をフィリピン国民が所有し、保有している法人」と規定しており、議決権株式を重視する立場を明確にしている。

判決は、これらの理由から、総資本解釈は憲法の意図に反し、議決権株式解釈こそが正当であると結論付けました。そして、PLDTの議決権株式の外国人所有割合が40%を超過している可能性が高いことを指摘し、証券取引委員会(SEC)に対し、憲法の定義に基づいてPLDTの外国人資本比率を再計算し、違反が認められる場合は適切な制裁措置を講じるよう命じました。

最高裁判所は判決の中で、次のように述べています。「憲法第12条第11項の『資本』という用語は、取締役の選任議決権のある株式のみを指し、したがって本件では普通株式のみを指し、発行済株式総数(普通株式と無議決権優先株式の合計)を指さないと判示する。」

判決の実務的影響:企業が取るべき対応

ガンボア対テベス事件判決は、フィリピンの公共事業における外国人資本規制の解釈を大きく変えるものであり、企業、特に公共事業に関わる企業は、この判決を十分に理解し、適切な対応を取る必要があります。具体的には、以下の点に注意する必要があります。

  • 資本構成の見直し: 自社の資本構成、特に議決権株式の外国人所有割合を再確認し、憲法および関連法規に適合しているか検証する必要があります。
  • SECへの報告義務: SECは、判決に基づき、公共事業企業の外国人資本比率の監督を強化する可能性があります。SECへの報告義務や情報開示要求に適切に対応できるよう、準備しておく必要があります。
  • コンプライアンス体制の強化: 外国人資本規制に関するコンプライアンス体制を強化し、違反リスクを未然に防ぐことが重要です。法務部門や専門家と連携し、適切な体制構築を進める必要があります。

主要な教訓

  1. 「資本」の定義は議決権株式: フィリピン憲法における公共事業の外国人資本規制において、「資本」とは議決権株式を指す。発行済株式総数ではない。
  2. 支配権の維持が目的: この規制の目的は、公共事業の支配権をフィリピン国民が維持することにある。議決権を通じて経営をコントロールできるかが重要となる。
  3. SECの監視強化: SECは今後、議決権株式ベースでの外国人資本比率を厳しく監視する可能性が高い。企業はコンプライアンス体制を強化する必要がある。
  4. 実務への影響大: この判決は、公共事業への投資戦略、資本構成、M&Aなどに大きな影響を与える。企業は法的専門家と相談し、適切に対応すべきである。

よくある質問 (FAQ)

  1. 質問1: なぜ今、この判決が重要なのでしょうか?

    回答: この判決は、長年曖昧だった「資本」の定義を明確にし、外国人資本規制の運用基準を確立しました。これにより、今後の公共事業への投資、M&A、企業経営に大きな影響を与えるため、企業にとって非常に重要です。

  2. 質問2: 議決権のない優先株式は発行しても問題ないですか?

    回答: 議決権のない優先株式は、議決権株式の外国人所有割合の計算には影響しません。しかし、総資本には含まれるため、企業の資本構成全体を考慮した上で発行戦略を検討する必要があります。

  3. 質問3: この判決はPLDT以外の企業にも適用されますか?

    回答: はい、この判決は、すべての公共事業企業に適用されます。電気通信事業だけでなく、電力、水道、交通など、公共性の高い事業を行う企業は、この判決を遵守する必要があります。

  4. 質問4: 外国人資本比率の計算方法がよくわかりません。

    回答: 議決権株式の外国人所有割合を計算する必要があります。具体的には、普通株式の発行済株式数のうち、外国人が所有する株式数の割合を算出します。詳細な計算方法やご不明な点については、法務専門家にご相談ください。

  5. 質問5: 今後、フィリピンの公共事業への投資は難しくなりますか?

    回答: 投資が不可能になるわけではありません。しかし、議決権株式ベースでの外国人資本規制が明確になったことで、より慎重な投資計画と資本構成戦略が求められるようになります。法規制を遵守し、適切な事業計画を立てれば、投資機会は依然として存在します。

ASG Lawは、フィリピン法務、特に外国人投資規制に関する豊富な経験と専門知識を有しています。本判決に関するご相談、またはフィリピンでの事業展開における法務アドバイスが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせは、konnichiwa@asglawpartners.com または お問い合わせページ から。

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