フィリピンにおける代表事務所の税務免除:シンクォ・エレクトリック産業事件からの主要な教訓
Commissioner of Internal Revenue v. Shinko Electric Industries Co., Ltd., G.R. No. 226287, July 06, 2021
フィリピンで事業を展開する企業にとって、税務上の問題は常に大きな懸念事項です。特に、海外の親会社を持つ代表事務所は、その活動がフィリピン国内でどのように評価されるかによって、税務負担が大きく変わります。シンクォ・エレクトリック産業事件は、代表事務所がフィリピン国内でどのように扱われるべきか、そしてその税務上の免除がどのように適用されるかについて重要な指針を提供しています。この事件では、シンクォ・エレクトリック産業株式会社の代表事務所が、フィリピン国内での活動に対して所得税や付加価値税(VAT)を課されるべきかどうかが争点となりました。
この事件の中心的な法的疑問は、シンクォの代表事務所がフィリピン国内で所得を生み出していない場合、所得税やVATの対象となるかどうかというものでした。シンクォは、フィリピンでの活動が情報提供や製品のプロモーションに限定されており、フィリピン国内で直接収益を上げていないと主張しました。一方、税務当局は、シンクォが「適格サービス」を提供しているとして、地域運営本部(ROHQ)として課税すべきだと主張しました。
法的背景
フィリピンの税法において、代表事務所は明確に定義されていませんが、外国投資法(RA No. 7042)の実施規則(IRR)では、代表事務所は親会社のクライアントと直接取引し、フィリピン国内で収益を上げないとされています(Section 1(c), Rule I)。これに対し、地域本部(RHQ)は、フィリピン国内で収益を上げない行政サービスを提供する事務所であり、所得税やVATから免除されます(Section 22(DD) and Section 28(A)(6)(a) of the NIRC)。一方、地域運営本部(ROHQ)は、フィリピン国内で収益を上げる「適格サービス」を提供する事務所であり、10%の企業所得税と12%のVATの対象となります(Section 22(EE) and Section 28(A)(6)(b) of the NIRC)。
これらの定義は、企業がフィリピンでどのような活動を行うかによって、税務上の扱いが大きく異なることを示しています。例えば、ある日本企業がフィリピンに代表事務所を設け、フィリピン国内での収益を上げずに情報提供や製品のプロモーションのみを行っている場合、その事務所はRHQと同様に扱われ、税務免除を受けることが可能です。これに対し、同じ企業がフィリピンでマーケティングや製品開発などの「適格サービス」を提供する場合、ROHQとして扱われ、課税対象となります。
事例分析
シンクォ・エレクトリック産業事件では、シンクォがフィリピンに代表事務所を設け、親会社の製品の情報提供とプロモーションを行っていました。シンクォは、フィリピン国内での収益を上げていないとして、税務当局からの所得税とVATの課税に異議を唱えました。この異議は、税務裁判所(CTA)において取り扱われ、最終的に最高裁判所まで持ち込まれました。
CTAは、シンクォが提出した証拠に基づき、シンクォがフィリピン国内で収益を上げていないと判断しました。また、シンクォの活動が代表事務所の範囲内に収まっていると認め、RHQと同様に扱うべきだとしました。この判断は、シンクォが親会社から完全に補助されていること、フィリピン国内で直接収益を上げていないこと、そしてフィリピンのクライアントと直接取引していることが理由とされました。
最高裁判所は、CTAの判断を支持し、以下のように述べました:「シンクォがフィリピン国内で収益を上げていないことは明らかであり、その活動は代表事務所の範囲内に収まっている。したがって、シンクォはRHQと同様に扱われ、所得税やVATから免除されるべきである。」
この事件を通じて、代表事務所がフィリピン国内でどのように扱われるべきか、そしてその税務上の免除がどのように適用されるかについて、以下の重要なポイントが明確になりました:
- 代表事務所は、フィリピン国内で収益を上げない場合、RHQと同様に扱われ、所得税やVATから免除される。
- 「適格サービス」を提供しない限り、代表事務所はROHQとして扱われない。
- 代表事務所が親会社のクライアントと直接取引する場合でも、フィリピン国内で収益を上げていない限り、税務免除を受けることが可能である。
実用的な影響
この判決は、フィリピンで代表事務所を運営する企業、特に日本企業にとって重要な影響を持ちます。シンクォのケースは、代表事務所がフィリピン国内で収益を上げていない場合、所得税やVATから免除される可能性があることを示しています。これにより、日本企業はフィリピンでの事業展開を計画する際に、税務上の負担を軽減することが可能となります。
企業に対しては、代表事務所の活動がフィリピン国内で収益を上げないように注意する必要があります。また、親会社からの補助金が正しく管理され、フィリピン国内での収益と見なされないようにする必要があります。これにより、企業は税務上のリスクを最小限に抑えることができます。
主要な教訓
- 代表事務所がフィリピン国内で収益を上げない場合、RHQと同様に扱われ、所得税やVATから免除される可能性がある。
- 「適格サービス」を提供する場合、ROHQとして扱われ、課税対象となるため、注意が必要である。
- 親会社からの補助金の管理が重要であり、これにより税務上のリスクを軽減することができる。
よくある質問
Q: 代表事務所がフィリピン国内で収益を上げない場合、どのような税務上の免除を受けることができますか?
A: 代表事務所がフィリピン国内で収益を上げない場合、RHQと同様に扱われ、所得税やVATから免除される可能性があります。
Q: 「適格サービス」とは何ですか?
A: 「適格サービス」は、フィリピン国内で収益を上げる活動を指し、例えばマーケティングや製品開発などが含まれます。これらのサービスを提供する場合、ROHQとして扱われ、課税対象となります。
Q: 代表事務所が親会社のクライアントと直接取引する場合、税務上の影響はありますか?
A: 代表事務所が親会社のクライアントと直接取引する場合でも、フィリピン国内で収益を上げていない限り、税務免除を受けることが可能です。
Q: フィリピンで代表事務所を運営する日本企業は、どのような注意点がありますか?
A: 日本企業は、代表事務所の活動がフィリピン国内で収益を上げないように注意する必要があります。また、親会社からの補助金が正しく管理され、フィリピン国内での収益と見なされないようにする必要があります。
Q: シンクォ・エレクトリック産業事件の判決は、他の代表事務所にも適用されますか?
A: はい、この判決は、フィリピン国内で収益を上げない代表事務所に対して同様の税務免除が適用される可能性があることを示しています。
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