本判決は、間接的な株式取得も公開買付け(TOB)の対象となる場合があることを明確にしました。ある企業が、上場企業ではないものの、上場企業の株式を多数保有する別の企業を買収した場合、その買収を通じて上場企業の支配権を取得することになることがあります。本判決は、このような場合にも少数株主を保護するために、買収者は上場企業の全株式に対して公開買付けを行う義務を負うと判断しました。この判決により、企業買収の際に、少数株主の権利がより一層保護されることになります。
支配権獲得の裏側:間接的株式取得とTOB義務
本件は、Union Cement Corporation(UCC)という上場会社の株式をCemco Holdings, Inc.(Cemco)が間接的に取得したことが、公開買付け(TOB)義務に該当するかどうかが争われた事例です。Cemcoは、UCCの株式を多数保有するUnion Cement Holdings Corporation(UCHC)の株式をBacnotan Consolidated Industries, Inc.(BCI)とAtlas Cement Corporation(ACC)から買収しました。この結果、CemcoはUCCに対する間接的な支配権を獲得しました。しかし、Cemcoはこの取引がTOBの対象とならないと主張し、UCCの少数株主であるNational Life Insurance Company of the Philippines, Inc.(National Life)が、CemcoにTOBの実施を求める訴訟を提起しました。本件の核心は、間接的な株式取得がTOB義務を発生させるかどうかという点にあります。
本件における重要な点は、フィリピン証券取引委員会(SEC)の判断が二転三転したことです。当初、SECのある部門は、TOB規則は適用されないとの見解を示しましたが、その後、SEC本委員会はCemcoの取引がTOB規則の対象となると判断しました。この変更を受けて、National LifeはCemcoに対してTOBの実施を要求しましたが、Cemcoはこれを拒否しました。そこで、National LifeはSECに提訴し、SECは最終的にCemcoに対してTOBの実施を命じる決定を下しました。
Cemcoは、SECの決定を不服として上訴しましたが、控訴裁判所もSECの決定を支持しました。Cemcoは、SECには本件を審理する権限がないと主張しましたが、裁判所はこれを退けました。裁判所は、SECには証券規制法(Securities Regulation Code)を遵守させるための調査権限と、紛争当事者の権利義務を確定する権限があると判断しました。また、Cemcoが以前にSECの管轄権を認めていたことから、今更SECの管轄権を争うことは許されないとしました。裁判所は、CemcoによるUCHC株式の取得は、UCCに対する間接的な支配権の取得であり、TOB義務の対象となると判断しました。
Cemcoは、TOB規則は上場企業の株式を直接取得する場合にのみ適用されると主張しましたが、裁判所はこれを否定しました。裁判所は、証券規制法の立法趣旨は、上場企業の支配権の取得に関する行為を規制し、少数株主を保護することにあると指摘しました。裁判所は、直接的な株式の購入であれ、間接的な手段であれ、公開会社の支配権を取得する方法に関係なく、TOB義務が適用されると判断しました。この判断は、少数株主が支配権の移転に関連して株式を売却するかどうかを決定する機会を与えるという法律の趣旨に沿ったものです。
Cemcoは、SECが以前にTOB規則は適用されないとの見解を示したことに依拠して取引を行ったと主張しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。裁判所は、SECの以前の見解は単なる諮問的な意見であり、関係者の権利を確定するものではないと指摘しました。また、裁判所は、SECの以前の見解が証券規制法に反していたことから、SECは後にこれを撤回する権限を有すると判断しました。したがって、本件において適用されるべきは、SECが2005年2月14日に下した、TOB義務を認める最終的な決定です。
さらに裁判所は、TOBの価格について、規制規則に価格決定の方法が示されており、価格が不明確であるというCemcoの主張を否定しました。SECの決定により、CemcoはUCC株式に対する支配権取得のために支払った最高価格でTOBを実施することが義務付けられました。
Cemcoの主張 | 裁判所の判断 |
---|---|
SECには本件を審理する権限がない。 | SECには証券規制法を遵守させるための調査権限と、紛争当事者の権利義務を確定する権限がある。また、Cemcoは以前にSECの管轄権を認めていた。 |
TOB規則は上場企業の株式を直接取得する場合にのみ適用される。 | 証券規制法の立法趣旨は、上場企業の支配権の取得に関する行為を規制し、少数株主を保護することにある。直接的な株式の購入であれ、間接的な手段であれ、公開会社の支配権を取得する方法に関係なく、TOB義務が適用される。 |
SECが以前にTOB規則は適用されないとの見解を示したことに依拠して取引を行った。 | SECの以前の見解は単なる諮問的な意見であり、関係者の権利を確定するものではない。また、SECの以前の見解が証券規制法に反していたことから、SECは後にこれを撤回する権限を有すると判断した。 |
判決は、控訴裁判所の判決を支持し、Cemcoに対してTOBの実施を命じました。この判決は、少数株主の保護を強化し、企業買収における公正さを確保するための重要な判例となります。
FAQs
本件の核心的な問題は何でしたか? | 本件の核心的な問題は、ある企業が別の企業を買収することで、上場企業の支配権を間接的に取得した場合、公開買付け(TOB)の義務が生じるかどうかという点です。 |
公開買付け(TOB)とは何ですか? | 公開買付け(TOB)とは、ある者が公開会社(上場会社や一定の資産規模と株主数を持つ会社)の株式を、公開の場で買い付ける意思を表明する行為です。これにより、少数株主は公正な価格で株式を売却する機会を得ることができます。 |
なぜTOB義務が必要なのですか? | TOB義務は、少数株主を保護するために必要です。支配権が移転する際に、少数株主が不利益を被る可能性を防ぎ、公正な価格で株式を売却する機会を提供します。 |
SEC(証券取引委員会)の役割は何ですか? | SECは、フィリピンの証券市場を監督し、証券関連法規の遵守を確保する機関です。投資家保護と公正な市場の維持を使命としています。 |
裁判所は、SECの以前の見解と矛盾する決定をどのように正当化しましたか? | 裁判所は、SECの以前の見解は単なる諮問的な意見であり、拘束力を持たないと判断しました。SECは、証券規制法を遵守するために、以前の見解を撤回し、新たな決定を下す権限を有します。 |
裁判所は、TOB価格の決定方法についてどのように判断しましたか? | 裁判所は、TOB価格は、CemcoがUCC株式の支配権を取得するために支払った最高価格を基準に決定されるべきであると判断しました。具体的な計算方法は、規制規則に定められています。 |
本判決は、今後の企業買収にどのような影響を与えますか? | 本判決は、企業が上場企業の支配権を間接的に取得する場合でも、TOB義務が適用されることを明確にしました。これにより、企業は買収戦略を慎重に検討し、少数株主の権利を尊重する必要があります。 |
Cemcoは、本判決後どのような行動を取る必要がありますか? | Cemcoは、UCCの株式を保有するすべての株主(UCHCの株式を保有する株主を含む)に対して、規制規則に従いTOBを実施する必要があります。TOB価格は、Cemcoが支配権取得のために支払った最高価格を基準に決定されます。 |
本判決は、フィリピンにおける企業買収の法務に重要な影響を与えるものです。少数株主の保護を強化し、企業買収における公正さを確保するための指針となります。企業は、本判決の趣旨を理解し、買収戦略を慎重に検討する必要があります。
For inquiries regarding the application of this ruling to specific circumstances, please contact ASG Law through contact or via email at frontdesk@asglawpartners.com.
Disclaimer: This analysis is provided for informational purposes only and does not constitute legal advice. For specific legal guidance tailored to your situation, please consult with a qualified attorney.
Source: CEMCO HOLDINGS, INC. VS. NATIONAL LIFE INSURANCE COMPANY OF THE PHILIPPINES, INC., G.R. NO. 171815, August 07, 2007
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