警備会社を利用する企業必見:不当解雇と未払い賃金における間接雇用主の責任 – フィリピン最高裁判所判例解説

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警備会社利用企業は知っておくべき:不当解雇責任と間接雇用主の義務

G.R. No. 122468 & 122716 (1998年11月16日)

近年、企業が業務の一部を外部委託するケースが増加していますが、その際に問題となるのが、委託先企業の従業員に対する責任の範囲です。特に警備会社を利用する場合、警備員の不当解雇や未払い賃金が発生した際に、委託元企業はどこまで責任を負うのでしょうか。本判例は、この問題に対し、フィリピン労働法における「間接雇用主」の責任範囲を明確にしました。企業が警備会社を利用する際、そして警備員として働く人々にとって、非常に重要な教訓を含む判例と言えるでしょう。

間接雇用主とは?フィリピン労働法における責任の所在

フィリピン労働法では、直接雇用関係にない企業が、一定の条件下で労働者に対して責任を負う「間接雇用主」という概念が存在します。これは、下請け構造の中で労働者が保護されない事態を防ぐための重要な規定です。労働法第106条、第107条、第109条は、請負契約における間接雇用主の責任について規定しています。特に第106条では、請負業者が労働法を遵守しない場合、発注者(間接雇用主)が連帯して責任を負うことが明記されています。

第106条(下請け契約)
事業主が、許可された請負業者または下請け業者を通じて労働者を請け負わせる場合、当該請負業者または下請け業者は、そのような労働者に対する賃金の支払いを含む労働法および規則の遵守について責任を負うものとする。ただし、そのような請負業者または下請け業者が、そのような義務を履行しない場合、事業主は、当該請負業者または下請け業者と連帯して、当該労働者に対して責任を負うものとする。

この条文は、企業が外部委託を利用する際に、単にコスト削減だけでなく、労働者の権利保護にも配慮する必要があることを示唆しています。本判例は、この間接雇用主の責任範囲を、不当解雇と未払い賃金という二つの側面から詳細に検討しました。

判例の概要:警備員解雇事件の経緯

本件は、セキュリティ・エージェンシー(警備会社、以下「エージェンシー」)に雇用されていた警備員らが、不当解雇されたとして、国家労働関係委員会(NLRC)に訴えを起こした事件です。警備員らは、フィリピン・アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー(生命保険会社、以下「クライアント」)の警備業務に従事していました。警備員らは、エージェンシーから一方的に待機を命じられ、その後解雇されたと主張しました。これに対し、エージェンシーは、クライアントとの契約終了が解雇の理由であると主張しました。しかし、NLRCは、解雇は不当解雇であると認定し、エージェンシーとクライアントの両社に、警備員への賃金支払いなどを命じました。この決定を不服として、エージェンシーとクライアントはそれぞれ最高裁判所に上訴しました。

最高裁判所は、当初、エージェンシーとクライアントの両社に対して責任を認める判決を下しましたが、その後、クライアントからの再審請求を受け、判決内容の一部を修正しました。修正後の判決では、不当解雇の責任はエージェンシーにあるとし、クライアントは不当解雇に関する責任(バックペイ、退職金)を免れるものの、未払いサービス・インセンティブ・リーブ(SIL)については、エージェンシーと連帯して責任を負うと判断しました。

最高裁判所の判断:不当解雇責任と未払い賃金の区別

最高裁判所は、まず、警備員の解雇が不当解雇であることを改めて認定しました。裁判所は、クライアントの警備業務が終了したとしても、それは警備員を6ヶ月間も待機させる理由にはならず、解雇はエージェンシーによる違法な解雇であると判断しました。重要な点は、最高裁判所が、不当解雇の責任はエージェンシーにあるとしたことです。裁判所は、過去の判例(Rosewood事件)を引用し、「バックペイと退職金の支払いを命じる命令は懲罰的な性格を帯びており、間接雇用主は、不当解雇を犯した、または共謀したという事実認定なしに責任を負うべきではない」と述べました。

「…バックペイと退職金の支払いを命じる命令は懲罰的な性格を帯びており、間接雇用主は、不当解雇を犯した、または共謀したという事実認定なしに責任を負うべきではない。」

この判例の重要なポイントは、不当解雇という「違法行為」に対する責任は、直接的な行為者であるエージェンシーにあるとした点です。クライアントは、警備員の雇用契約関係にはなく、解雇を直接指示したわけでもないため、不当解雇の責任を負うべきではないと判断されました。しかし、最高裁判所は、未払いサービス・インセンティブ・リーブ(SIL)については、クライアントも責任を負うとしました。SILは、労働者が当然に有する権利であり、その支払いは、間接雇用主も連帯して責任を負うべきものと判断されたのです。裁判所は、労働法第106条、第107条、第109条を根拠に、クライアントは、エージェンシーがSILを支払わない場合、連帯して責任を負うとしました。

「…請負業者が、法律に従って従業員の賃金を支払わない場合、間接雇用主(本件の請願者)は、請負業者と連帯して責任を負うが、そのような責任は、契約に基づいて行われた作業の範囲に限定されると理解されるべきであり、それは、彼が直接雇用する従業員に対して責任を負うのと同じ方法と範囲である。請願者のこの責任は、労働者のいかなる作業、任務、仕事、またはプロジェクトの遂行の支払いにも及ぶ。作業、任務、仕事、またはプロジェクトが請願者の利益のため、またはその代理として行われた限り、たとえその後、従業員が最終的に異動または再配置されたとしても、当該期間の責任が発生する。」

つまり、クライアントは、警備員がクライアントのために働いていた期間のSILについては、エージェンシーと連帯して支払う義務があるということです。これは、クライアントが警備業務を委託している以上、警備員の基本的な労働条件についても一定の責任を負うべきであるという考え方に基づいています。

実務上の教訓:企業が取るべき対策

本判例から企業が学ぶべき教訓は多岐にわたりますが、特に重要なのは以下の点です。

  • 委託先企業の選定: 警備会社などの委託先を選定する際には、単に価格だけでなく、法令遵守体制や労務管理能力を十分に確認することが重要です。デューデリジェンスを徹底し、信頼できる委託先を選ぶことが、後の労務トラブルを未然に防ぐ上で不可欠です。
  • 契約内容の明確化: 委託契約書には、労働条件に関する責任分担を明確に記載する必要があります。特に、未払い賃金や不当解雇が発生した場合の責任の所在を明確にしておくことで、トラブル発生時の責任範囲を特定しやすくなります。
  • 定期的な監査: 委託先企業の労務管理状況を定期的に監査することも有効です。賃金台帳の確認や従業員へのヒアリングなどを通じて、法令遵守状況をモニタリングすることで、問題の早期発見・是正につながります。
  • 労働者への配慮: 間接雇用関係にある労働者も、自社の事業活動を支える重要な存在であることを認識し、適切な労働環境を提供するよう努めるべきです。問題が発生した際には、委託先企業と協力して解決にあたる姿勢が求められます。

本判例は、企業が外部委託を利用する際に、コスト削減だけでなく、労働者の権利保護にも配慮する必要があることを改めて示しました。企業は、間接雇用主としての責任を十分に理解し、適切な対策を講じることで、労務トラブルを未然に防ぎ、持続可能な事業運営を目指すべきでしょう。

よくある質問(FAQ)

  1. Q: 警備会社に警備を委託している場合、警備員の給料未払いが発生したら、委託元企業も責任を負うのですか?
    A: はい、原則として責任を負います。フィリピン労働法では、間接雇用主は、請負業者が労働法を遵守しない場合、連帯して責任を負うと規定されています。未払い賃金もその対象に含まれます。
  2. Q: 警備員が不当解雇された場合、委託元企業も責任を負いますか?
    A: いいえ、本判例では、不当解雇の責任は原則として直接の雇用主である警備会社にあるとされました。委託元企業は、不当解雇そのものに対する責任(バックペイ、退職金)は免れますが、未払い賃金(サービス・インセンティブ・リーブなど)については連帯責任を負う場合があります。
  3. Q: 間接雇用主として責任を負わないためにはどうすればよいですか?
    A: 間接雇用主としての責任は、法律で定められたものですので、完全に免れることは難しいです。しかし、信頼できる委託先を選定し、契約内容を明確化し、定期的な監査を実施することで、労務トラブルのリスクを最小限に抑えることができます。
  4. Q: サービス・インセンティブ・リーブ(SIL)とは何ですか?
    A: サービス・インセンティブ・リーブ(SIL)は、フィリピン労働法で定められた有給休暇の一種です。継続して1年以上勤務した労働者に、年間5日間の有給休暇が付与されます。
  5. Q: 本判例は、警備会社以外の業種にも適用されますか?
    A: はい、本判例の間接雇用主に関する考え方は、警備会社に限らず、下請け構造を利用する全ての業種に適用されます。

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