フィリピンにおける外国法人に対する訴訟管轄:召喚状送達と「事業活動」の定義

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外国法人の事業活動と訴訟管轄:フィリピン最高裁判所の判断

G.R. No. 126477, 1998年9月11日

外国法人を相手とする訴訟において、フィリピンの裁判所が管轄権を持つためには、当該外国法人がフィリピン国内で「事業活動」を行っている必要があります。本判決は、この「事業活動」の定義と、外国法人への召喚状送達の有効性について重要な判断を示しました。契約違反訴訟において、外国の機械メーカーがフィリピン国内での事業活動を否定し、裁判所の管轄権を争った事例を分析します。

はじめに

国際取引が活発化する現代において、外国法人との間で契約を締結する機会は増加しています。しかし、万が一契約上の紛争が発生した場合、どの国の裁判所で訴訟を提起できるのか、また、どのように相手方に訴状を送達するのかは重要な問題となります。特に、フィリピンで事業活動を行う外国法人に対する訴訟提起においては、フィリピンの裁判所が管轄権を持つための要件と、適法な召喚状送達の手続きを理解しておく必要があります。本稿では、フランス石油精製機械会社対地方裁判所事件(G.R. No. 126477)を題材に、この問題について詳しく解説します。

法的背景:外国法人への訴訟と管轄権

フィリピン民事訴訟規則第14条(現行規則第14条第12項)は、フィリピン国内で事業活動を行う外国法人に対する召喚状送達について規定しています。この条項によれば、外国法人がフィリピン国内で事業活動を行っている場合、以下のいずれかの方法で召喚状を送達できます。

  1. 法律に基づき指定された駐在代理人
  2. 駐在代理人がいない場合は、法律に基づき指定された政府職員
  3. フィリピン国内にいる役員または代理人

重要なのは、「事業活動」の定義です。フィリピン法において、「事業活動」とは、単に一時的な取引を行うだけでなく、継続的かつ組織的に事業を行うことを指します。しかし、具体的にどのような行為が「事業活動」に該当するのかは、個別のケースごとに判断される必要があります。最高裁判所は過去の判例において、外国法人がフィリピン国内に支店、事務所、倉庫などを設置し、継続的に販売活動やサービス提供を行っている場合、「事業活動」を行っていると認めています。一方、単発の輸出入取引や、一時的なプロジェクトのためにフィリピンに担当者を派遣するだけでは、「事業活動」とはみなされない傾向にあります。

本件に関連する規則14条の条文は以下の通りです。

規則14条第12項(旧規則14条第14項):私的外国法人への送達
被告が外国法人、または非居住の合資会社もしくは協会であり、フィリピン国内で事業を行っている場合、送達は、その目的のために法律に従って指定された駐在代理人、またはそのような代理人がいない場合は、その効果のために法律によって指定された政府職員、またはフィリピン国内のその役員または代理人のいずれかに行うことができる。

事件の概要:フランス石油精製機械会社事件

本件は、フィリピンのルード&ルエム・オレオケミカル社(以下「私的 respondent」)が、フランス石油精製機械会社(以下「FOMMCO」)とそのフィリピン代理人とされるトランス・ワールド・トレーディング社(以下「トランス・ワールド」)を相手取り、契約違反および損害賠償を求めて訴えを提起した事件です。

訴状において、私的 respondentは、FOMMCOがフィリピン国内でトランス・ワールドを代理人として事業活動を行っていると主張し、トランス・ワールド宛に召喚状を送達しました。これに対し、FOMMCOは、自身はフィリピン国内で事業活動を行っておらず、トランス・ワールドは代理人ではないと主張し、裁判所への特別出廷および訴えの却下申立てを行いました。第一審の地方裁判所は当初、FOMMCOに対する管轄権がないとして訴えを却下しましたが、私的 respondentの再考申立てを受けて、管轄権を認める決定を下しました。FOMMCOは控訴裁判所に特別訴訟(certiorari および prohibition)を提起しましたが、これも棄却され、最高裁判所に上告しました。

最高裁判所は、FOMMCOがフィリピン国内で事業活動を行っているか、そしてトランス・ワールドがFOMMCOの代理人であるかという2つの争点について審理しました。

最高裁判所の判断:事業活動と代理人関係

最高裁判所は、まず「事業活動」の有無について、訴状の記載に基づいて判断できるとしました。本件訴状には、FOMMCOが私的 respondentの石油精製工場向けに機械設備を供給・設置する契約を締結し、最初の機械設備が出荷されたと記載されており、これらの事実は、規則14条の適用上、FOMMCOがフィリピン国内で事業活動を行っていることを示す十分な主張であると判断しました。ただし、裁判所は、外国法人が事業活動を行っているという判断は、召喚状送達を可能にするための暫定的なものであり、証拠に基づいて最終的な判断が覆される可能性もあると指摘しました。

次に、代理人関係について、最高裁判所は、訴状において単に「代理人」と記載するだけでは不十分であり、契約内容や取引状況など、具体的な事実を記載する必要があるとしました。しかし、本件においては、第一審および控訴裁判所が、FOMMCOが問題の取引においてトランス・ワールドをフィリピン代理人として扱っていた事実を認定しており、最高裁判所は、下級審の事実認定を尊重し、これを覆す理由はないと判断しました。最高裁判所は判決の中で、以下の重要な点を強調しました。

「訴状において被告がフィリピンに代理人を有すると主張した場合、そのような事実主張の真実性を事前に証明する証拠がなくても、召喚状が有効に送達され得るということを、裁判所はSignetics Corporation v. CA事件において述べたことは一度もない。」

この引用は、ある法律解説書による誤解を指摘したものです。最高裁判所は、訴状における代理人に関する記載は、あくまで召喚状送達の要件を満たすためのものであり、その後の裁判で改めて代理人関係の有無が判断されるべきであることを明確にしました。

最後に、FOMMCOは、訴えの却下申立てではなく答弁書を提出した場合、裁判所の管轄権を争うことができなくなるのではないかと懸念を示しましたが、最高裁判所は、管轄権を争うための出廷は、通常の出廷とは異なり、答弁書の提出が直ちに任意出頭とみなされるわけではないとしました。ただし、本件ではFOMMCOは答弁書を提出していないため、この点についての詳細な議論は不要であるとしました。

以上の理由から、最高裁判所はFOMMCOの上告を棄却し、下級審の決定を支持しました。

実務上の教訓:外国法人との取引における注意点

本判決は、外国法人との取引を行う企業にとって、以下の重要な教訓を与えてくれます。

  1. 契約書における準拠法と裁判管轄条項の明確化:契約締結時に、紛争が発生した場合にどの国の法律を準拠法とし、どの国の裁判所を管轄裁判所とするかを明確に定めることが重要です。これにより、訴訟提起や裁判管轄に関する紛争を未然に防ぐことができます。
  2. 外国法人のフィリピン国内での事業活動の確認:外国法人と取引を行う前に、相手方がフィリピン国内でどのような事業活動を行っているかを確認することが重要です。相手方がフィリピン国内で継続的かつ組織的に事業を行っている場合、フィリピンの裁判所が管轄権を持つ可能性があります。
  3. 代理人契約の内容確認:外国法人のフィリピン代理人と契約を行う場合、代理人契約の内容を十分に確認し、代理権の範囲や責任の所在を明確にすることが重要です。また、訴訟における召喚状送達の受領権限についても確認しておくことが望ましいです。
  4. 訴状における主張の重要性:外国法人を相手に訴訟を提起する場合、訴状において、相手方がフィリピン国内で事業活動を行っている事実、および代理人関係を具体的に主張することが重要です。

よくある質問(FAQ)

  1. 質問1:外国法人がフィリピン国内で事業活動を行っているかどうかの判断基準は?
    回答:継続的かつ組織的に事業を行っているかどうかが判断基準となります。支店、事務所、倉庫の設置、継続的な販売活動、サービス提供などが該当します。単発の取引や一時的な活動は該当しない場合があります。
  2. 質問2:外国法人への召喚状はどのように送達すればよいですか?
    回答:原則として、駐在代理人、政府職員、またはフィリピン国内にいる役員・代理人に送達します。規則14条(現行規則第14条第12項)に詳細な規定があります。
  3. 質問3:訴状に代理人と記載すれば、必ず代理人送達が有効になりますか?
    回答:訴状に代理人と記載するだけでは不十分です。代理人関係を基礎づける具体的な事実を記載する必要があります。また、裁判所は最終的に証拠に基づいて代理人関係を判断します。
  4. 質問4:外国法人が裁判所の管轄権を争う場合、どのように対応すべきですか?
    回答:外国法人は、訴えの却下申立てや特別出廷などの方法で管轄権を争うことができます。弁護士に相談し、適切な法的対応を行うことが重要です。
  5. 質問5:契約書に裁判管轄条項がない場合、どうなりますか?
    回答:裁判管轄条項がない場合、国際私法の原則や裁判所の判断により管轄裁判所が決定されます。紛争解決の複雑さが増す可能性があるため、契約書に裁判管轄条項を定めることが望ましいです。

本稿では、フランス石油精製機械会社対地方裁判所事件を題材に、フィリピンにおける外国法人に対する訴訟管轄と召喚状送達の問題について解説しました。外国法人との取引においては、契約書の作成から紛争解決まで、専門的な知識が不可欠です。ご不明な点やご不安な点がございましたら、フィリピン法務に精通したASG Lawにご相談ください。

ASG Lawは、フィリピン法務のエキスパートとして、お客様のビジネスを強力にサポートいたします。外国法人との取引に関するご相談は、お気軽にkonnichiwa@asglawpartners.comまでご連絡ください。また、お問い合わせページからもお問い合わせいただけます。まずはお気軽にご相談ください。




Source: Supreme Court E-Library
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